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Colors  作者: えくりぷす
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紗奈編 僅かなサービス

 浴室が湯気に覆われて私のないすぼでぃが見えなくなる中、全身で暖かい湯を浴びる。

 気持ちいい……冷えて冬眠しようとしていた細胞が目覚めるような感覚だ。


「どっこいしょ。はあー極楽極楽ー」


 アラアラ、誰にも聞かせられないわねこんな台詞。

 シャワーを浴びた後、湯船に体を浸からせようとする時の口癖、旅行先等々で出てしまわないように直したいんだけど……無理ね、アハハ……


 祐を協力させる事に成功した後、私はすぐに自宅へ戻ってきた。


 指摘されるまで気づかなかったけど、私の頭は凝り固まっていたようだ。そんな頭で何を考えようともそれは良い結果を生み出す事はないだろう。


 バシャバシャと湯船のお湯を顔に浴びせ、パンパンと2回顔を叩く。

 よしっ‼ これでリセット完了よ。


 私達の仕事は正義の味方ではない。人の粗や人そのものを捜し依頼人に届ける事……こんな当たり前の事を忘れてたなんてね。

 しかし、祐に諭されるなんて……初めて出会った時以来じゃないかな。

 あの頃のアイツはほんとに格好良かった。

 同年代の男にはどうあがいても持てない雰囲気があった。多分、私は祐に惚れていたんだろう……ま、今じゃその頃の面影もなくなっているけど……

 男子3日会わざるば刮目して見よをダメな男に変わるバージョンでする事ないんじゃないかな。


 おっといけない。思い出もいいけど今はもっと考えるべき事があるじゃない……

 チャプンと音をたて湯船から手を出すと髪をかきあげる。


 祐は3日で片付けると言った。

 私を勇気づける為という側面もあるだろうけど、多分アイツも何か抱えている。

 だからと言って遠慮するつもりはないが、手伝ってもらう以上私がもたつく訳にはいかない。プライドをねじ曲げたけどプライドを棄てるつもりはないのだから……


 朝になったらまず結香の所に行くのは確定ね。

 そこで尚哉の銀行口座を確認する。これで金の動きから多少見えてくるものがあるはずだ。


 うーん、山城家で確認すべきはそれだけかな……いや、尚哉のここ3ヵ月の行動も確認しよう。家に引きこもりがちだったが大学にちゃんと通っていたかで、次の動き方が変わる。

 もし引きこもりがちであるなら、尚哉のPCを見せてもらわなきゃいけない。一方で大学にちゃんと通っていたなら大学で聞き込みをする。


 流れとしてはこれでいいはずだ。後は集めた情報を祐が精査し、私にバックしてくれるまで待てば良い。

 その手の能力に関しては、錆び付いてたアイツでも私を遥かに凌駕していたのだから信用していいだろう。つか、その能力を見込んで協力してもってるんだから、働いてもらわなきゃ困る。


「ふう……」


 一息つくと、額には汗が滲んでいる。

 あんまり長風呂してのぼせちゃうと色々支障が出るし、もうサービスタイムは終了ね。大事なトコとか洗うシーンを期待した人がいるなら御愁傷様……って、私は何を言っているのだろう。


 髪を乾かしてベットに潜り込むと時刻は2時を過ぎていた。

 山城宅まで1時間という事を考えれば7時までは寝てられる。こんな時寝つきの良い自分を誉めて上げたくなるわね。

 しかし、まどろみの中一つの疑問が湧いてきた。

 祐が深橋を去ったその日に迷い込んできた依頼で祐が必要になる……これは偶然なんだろうか? ちょっと気になる……けど、その考えは考察される事なく眠りの中に消えた。




「よく起こし下さいました結城さん。それで尚哉について何か分かりましたでしょうか?」


 眠りから覚めて山城家に9時に着くように計算したのは正解だったらしい。この時間だからこそ結香の手も空き、こうしてすぐに会って貰える。


「申し訳ございません。心当たりは全部回ってみたのですが、現段階では何も」

「左様でございますか……それでは本日は一体?」


 慣れすぎるのも問題ね。

 結香からは心配という気持ちは感じられても、焦りは一才感じらない。世の中には悪意が善意以上に満ち溢れているというのに……

 これでは最悪の展開になった時に耐えられるかどうか分からないわ。


「今回は初めての時と非常に状況が似ています。私が持つ情報が少なすぎるのです。だから、尚哉くんの持つ口座を全部教えてくれませんか?」

「銀行口座?」


 眉を潜め胡散臭そうな表情を浮かべる結香。

 これだけ詐欺が横行する中で多少の警戒心もあるだろう。しかし、今回は当てはまらない。

 私が狙うなら……否、詐欺グループが狙うなら貴女達親の懐を狙う。勿論、尚哉がん千万とか貯金してるなら話は別だが……ただそれを説明した所で結香を納得させる事は難しい。


「はい、お金の動きは人の動きです。入金、出金録を見るだけで尚哉さんの動きが見えてくるんです」

「???」


 うん、察し悪っ‼ これまで自分では碌に金を下ろしたりした事ないのだろう。


「例えばですが、ここに来る途中の銀行でお金を下ろした記録があればどうですか?」

「あっ!」


 尚哉が下ろしたとは限らないけど。


「そういう意味で教えて頂きたいのです。勿論悪用や尚哉さんのお金に手を出すといった真似はしない事をお約束させて頂きますし、お疑いになるなら現在の残高を一緒に確認して頂いても構いません」

「なるほど少々お待ちください」


 暫し待たされたが、結香は3社の通帳を持ってきた。


「あ、あの印鑑は?」

「記帳するだけなので不要ですよ」

「記帳するだけで何処で下ろしたとか分かるんですか?」

「そこまでは無理ですね。ただ調べる方法を私達は持ってますのでご安心を」


 まともな方法とは言ってないので嘘はついてません。


「記帳は山城さんへの報告の為です。一緒に来られますか?」

「いえ、それには及びませんわ。結城さんに一任させて頂きます」

「ご配慮感謝致します。なら記帳は不要ですね」


 サラリと手帳にメモをして通帳はそのまま結香に返した。これで目的の一つは達成した。後は……


「あ、そうそうもう一つ。最近……ここ3ヵ月ほどの尚哉さんですが自宅に籠ってたりしてましたか?」

「そんな事はないかと、夜は基本的に部屋にいましたが……」


 夜遊びは程々に普通の大学生になってたって事かな。決めつける訳じゃないけど、ほぼ結香の証言通りだと思って良さそうだ。

 ならPCの確認は手詰まりになってからでいい。そもそも私のスキルだとSNS各種を少し覗ける程度のものだし、PWが解けるかも不安だから丁度良かったのかも知れない。


「ありがとうございました。また確認の為お邪魔する事があるかと、宜しいでしょか?」

「ええ、夕方までならいつでも起こし下さい」


 では、と山城邸を後にする。門を出ると同時に祐に口座情報をメールで送り車に乗り込んだ。

 その車中、大学の資料を確認してみると尚哉が通うのは『山城学園』となっている。


 山城学園は中学校から大学まで同敷地内にあるマンモス校で、名前の通り尚哉の父親が理事長を務めている学校だ。

 高校までトップクラスの進学校なのだが、大学のレベルは超がつく程ではないと聞く。だから、高校でトップクラスの生徒はエスカレーターで大学には行かず他校を受験をしていく事で有名だった。


 ま、尚哉が通える大学なんてこんなもんか。

 尚哉の知能指数は低くはないが、大切な時期に受験シーズン直前まで遊び惚けてて入れるほど高くもない。父親とソリが合わずにヒネクレてたが、結局父親に迎合したという事なのだろう。

 まあ、少し父親に媚び売れば4年間は遊んでられるんだから悪くない選択よね。

 それに大学なんかは何処に入ったのかは実は大した問題じゃない……入った後で何を学んだのかが大切なのだ。

 良い大学に入るにはそれなりの努力をしなければならないのだから、企業が学歴至上主義になりがちになるのは仕方無い事だけど、本質を見誤ると頭でっかちの僕頭良いんでーとか好き放題やる無能を雇って失敗する事になる。


 まあ、某有名大学中退して親に勘当された私が言うのも何なんだけど。




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