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Colors  作者: えくりぷす
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紗奈編 探偵という仕事

 あーっ! 何処に言ったのよ!?


 クリスマス一色に染まりつつある深夜の街中を東奔西走しながら心の中で絶叫する。

 だってしょうがないじゃない。こんなとこで本当に絶叫したら独り身の悲しい女と憐れみの目を向けられるか、見ちゃいけませんと定番のやりとりをやられるかしかないんだから……

 人様の目を余り気にするタイプではないと自負してる私だけど、憐憫の眼差しを直に向けられたりしたらやっぱり辛いんだから……


 後数分で日付が変わる。

 あの電話の後、3時間近く私は繁華街をウロウロしてる訳だが、こんな事をする羽目になったのはあの電話があったからだ。




「はい、お電話代わりました結城です」


 山城ですっ! 代わった直後に飛んできたキンキン声に面食らいながら、その声と名前を脳内データベースで検索――するまでもなくヒットした。


「山城様、いつもお世話になっております」

「結城さん、まだいらっしゃいましたのね。良かったわ」

「と、おっしゃいますと?」

「尚哉が……」


 またか……

 ちょっとヒステリックで世間知らずのお嬢様が社会を知らずに家庭に入った? であろう山城結香が深橋探偵事務所に初めて来たのは二年前――

 依頼はグレ出した息子の尚哉が家出したので捜してほしいと言うものだった。もう言わなくても分かると思うが、この二年で尚哉がプチ家出を仕出かしたのは6回……今回で記念すべき? 7回目となったのだろう。


 初めての時は情報が殆どなかった為、私と祐のコンビで情報をかき集め居所を突き止める為に5日間掛かった。しかし、2回目以降はまるで尚哉自身が見つけてくれと言わんばかりに書き置きを残すので1日掛からずに見つけられる。言わば、美味しい依頼なのだが……


「それで今回の書き置きには何て書いているのでしょうか?」


 尚哉の書き置きには、毎回私に迎えに来させる事といる場所を知る悪友の名前が掛かれているので、その悪友を調べ尋問するという手順を踏めば簡単に見つかるのだ。


 何故、そんな事をするかという事は2回目のプチ家出の時に判明している。確か宮崎だか宮城だか忘れたが書かれた名前の人物を突き止め、尋問すると「あんたが尚哉の彼女? 年上って言ってたけどババアじゃん」と開口一番のたまわりやがりましたわ。

 当然、無礼なガキにはお仕置きが必要と優しく首筋に腕を回しそのまま絞め落としてやったトコ、非常に素直に尚哉の居場所を教えて貰えたんだけど……で、尚哉のトコに行ったら「紗奈、おせーよ」と肩に手を回して抱き寄せる始末。


 以降、大学に入る直後に行った6回目まで同じ手口を繰り返していたのだが……

 んっ!? そう言えばここ暫くは大人しくしてたわね。

 まあ、大学に入れば私なんかに熱を上げなくても楽しい事はあるだろうしそっちに夢中になってても仕方ないかな。

 けど、何か違和感を感じる……


「それがその……今回は何もないのです」

「えっ!?」

「大学に入ってからは尚哉も大分落ち着いてきて、1日、2日程度の外泊はしておりましたが、以前のように携帯の電源を故意に落としたりするような真似もせずいつでも連絡が取れるようになっていたんです」


 まあ、大学生にもなって1日、2日無断外泊した所でなんの問題も……あるのかな? 親目線だと……けど、私なら気にしない。寧ろ、過保護過ぎるだろうと思う。ただ……


「居なくなって何日過ぎているのですか?」

「それが一週間なんです」


 なるほど微妙な時期ね。然るべき機関に頼む程の期間も経てないか……

 友人との旅行にフラリ出掛けたのであれば、一週間ぐらい不在になる事もあるだろう。携帯の電波が届かない田舎にでも行ったとすると繋がらない理由にもなる。

 現在、帯に短し襷に流しな状況なのだから、ウチに連絡を入れてきたと言う事か……


 この探偵という仕事、創作物だと『じっちゃんの……』とか『真実はいつも……』とか表舞台で活躍する為に派手なイメージがあるが、そんな事は一才ない。主な仕事は中途半端な人間関係の調査なのだ。

『浮気調査』『素行調査』が全体の8割を締め『別れさせ屋』や『捜索業務』でほぼ全業務となる地味な仕事だったりする。

 何かの節目について判断要項を提示するから、中途半端と銘打った訳だが、この中途半端が必要な事なのだと思っている。


 一番分かり易い例を挙げれば、浮気調査で浮気の決定的証拠を持っていたとしたらどうだろう……まず間違いなく探偵など必要とせずに弁護士事務所へgoする事になるでしょう。

 相手がどう見ても清廉潔白なら逆に然りである。

 真ん中付近の怪しさという隙間があるから成り立つ商売なのだ。


 そして今回もそう……失踪届けを出さざるを得ない状況ではなく、なんか心配だから私に依頼が来た。


「畏まりましたわ。捜査中に尚哉さんが戻られましても、必要経費込みで料金はこれまでと変わらない額を請求させてもらいますが、ご了承頂けますか?」

「それはもう」


 どんな下らない理由だったとしても、人を動かせば安くない料金が発生する。一般家庭なら二の脚踏むところだが金持ちって羨ましい。

 順調に見つけたら必要経費として水増し請求してやろうかしら……って冗談よ勿論、お客様は神様です。


「この時間にお電話頂けたと言う事は本日から動いても?」

「ええ当然です。お願い申し上げますわ」




 と言う訳で今に至ってるのだけど……何処にもいない!

 これまでで尚哉が潜伏してた知人宅、飲食店etc……回ってみたが口を揃えて最近は見ていないと返事が返ってくる。


 これはもしかすると……ちょっとヤな予感がするわね。 

 尚哉の家出の仕方が初回の時のソレと酷似している。あの時は祐と二人で各所を這いずり5日掛かったのだ……明日にでも戻ってきてくれたのなら何の問題もない。だが、一週間も捜査した後に私が見つける前に戻ってきたらちょっとめんどくさい事になりそうだ。

 へっ? 戻ってきたならいいじゃんと思ったそこの貴方! 甘い甘い過ぎますわ。

 人間心理として一週間分丸々無駄になったとしたらどう思うか考えてみなさい。頼んだのだから経費は払う……けど、その人間の能力に疑問を覚える事にならない? そういう小さな信用失墜は今の私達にとって命取りなりかねないのよ。

 素早く案件を解決し、小さな信用を積み上げていかないといけない時にエースである私が躓く訳にはいかないでしょ……

 こうなると闇雲に捜してまくるのは悪手でしかないわね。基本に立ち返り、大学の聞き込みから始めましょう。


 でも、その前に癪だけど、凄く癪だけど仕方ない……


 私はスマホを取り出して登録している一人の知り合いに電話をした。

 プップップップ……呼び出し音が鳴り出しているが出る気配がない。けど、長い付き合いだから分かる……留守電にならない所をみると電話の向こう側で出るか悩んでいるのだろう。


 野郎ふざけんな! と、怒ってみても日付が変わる直前の電話なのだからこっちに非があるので我慢してあげよう。

 ああ、自分の寛大さが輝いてるわ。いいわ、出るまで掛け続けてやりますわ……途中で留守電に切り換えたりしたら乗り込んでやるけどね。


 で、3分後……もの凄く不機嫌そうな声で電話に出た。


「何の様だ」

「遅いっ! 私からの電話なんだから3コール以内に出なさいよ」

「お前は……もう寝てるとか思わんのか?」

「思わないっ! 寧ろ、お目目パッチリで電話が切れるの願ってたでしょ。そんな希望はぶち壊すまでよ」

「傍若無人な……で、何だよ仕事か? 俺はもう……」


 やはりウジウジしてますか……


「関係ないとは言わせないからねっ! 諦めて私に協力しなさい。尚、依頼料は出ない模様っ!」


 私の言葉に電話の向こう側で絶句する。

 そう本日辞めた神谷祐に私は助けを求めたのだ。


「この理不尽禍神がぁぁ……」




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