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Colors  作者: えくりぷす
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紗奈編 紗奈と圭一

 ――バタンと扉の向こうで音がした。

 おそらく祐が出て行ったのだろう。

 なのに、目の前の男は必死に私を口説いてる……


「なあ結城君」


 なあじゃないわよ。

 祐の手前「業務方針だ」なんて誤魔化したけど、この男会合だったはずの時間をコレに費やしている。

 まあ、業務方針の一貫として見れない訳じゃないけど……


「お断りしたはずですけど、まだ続きます?」

「僕に何の不満があるというんだ?」

「そういう問題じゃないと思うんですが……」


 この人は顔も整ってる方だし、学歴以下も申し分ない。けど、私が求めてるものとは違うのだが説明が難しい。


「今すぐ結婚とか求めてる訳じゃないんだ」


 ピキっ! ほほう、そう来るか……


「取り敢えず一発ヤらせろと?」

「イイっ! ちがっ……」


 違わないでしょ。

 クリスマス一ヶ月前にこんな時間まで付き合わせて、私が相手の居ない一人者だと確認してるんだから。欲望に正直なのは良いが、露骨過ぎるのと図星指されて動揺を露にするのは減点ですね。

 ぶっちゃければ私の貞操観念はそんなに高くない。必要であるなら体を晒ける事も厭わない。


 ……今、ビッチと思ったヤツ出てこい。


 断じて言うが、私はビッチではないのよ。あくまでも覚悟の話なの。

 ほんとよ、信じて……

 私も今年で24歳になった。生娘でもないしそんなに勿体つけるもんでもないだろうって話なの。けど、だからこそ今の圭一さんに体を許す気にはならないのだ。

 尊敬するおじ様の実子でありながら、必要なものが欠け過ぎているこの人には……


「まあ、どっちでもいいんですけど、靡きませんよ私は」


 にべもなく私が言い放つと圭一さんは項垂れながらボソリと呟く。


「祐ならいいのか?」

「……ん!? 何ですかそれ」

「君が祐とそのなんだチョメチョメな関係である事は知ってる」


 ふぁっ!? 私は祐に股を開いた記憶も無ければ、そんな甘い雰囲気を出した事もない。何故ゆえそんな話が出てくるの?


「いやいや、ないない」


 ここは全力否定である。流石にヤッてもない一発を認めてしまってはほんとにビッチ化してしまうような気がする。


「そうなのか、君はアイツとコンビを組んでいただろう」

「コンビ組むとヤらないといけませんか?」


 まあ、ワシについてくるならヤらせろとド外道な事を言ってほんとに奪って行ったのは貴方の父親ですけど……

 あん時は私も盲目だったなぁ……


「そういう訳ではないが、ほら祐の件で君は最後まで反対していただろ」

「そりゃ言いますよ」


 ギリッと口元を締める。

 アイツは私がこの事務所に来た時に手を抜く事を覚えていた。初めて会った時のようなギラついた鋭さを完全に無くしていたのだ。

 何でも無難にこなし普通に実績を積み上げていくのは、確かに才能だろうけど本当の才能を意図的に眠らせて無駄に時間を費やしているアイツが許せなかった。

 引っ張り上げれば隠した爪を見せるのでないかと考えて、コンビを組んだけど無駄だった。のらりくらりやるがソツなくやるので文句も言えず、主導を取っていた私の評価だけ上がるのが悔しくて、オジ様にそう伝えても含みある笑みが返ってくるだけだったのでコンビを解消した。

 オジ様の訃報は正直ショックだったが、これを機に祐が目覚めるのではないか? そう思っていた矢先にコレ。そりゃ文句の一つも言いたくなるってもんです。


「アイツは本気を出してませんよ。優秀な人材を流失してしまっていいんですか?」

「そんな事は分かっているっ!」


 でしょうね。

 突然声を荒げる圭一さんに対して私は全く動じない。何となくだが、ここを突けばこんな反応するんじゃないかなと思っていた。

 結局の所、オジ様に一番近い存在でありながらそうはなれない自分を悲観し、祐に対して劣等感を抱いているだけの小物なのだ。そして、祐はそれに気づいて遠慮している。

 遠慮したってソイツの為にならない事を知りつつ、動けなくなってる馬鹿だ。


「似た者同士ですよ貴方達は」

「それは賛辞と受け取っていいのかな?」

「いいえ、酷評であり侮蔑ですね」


 キッパリと言い切ってやりました。

 圭一さんはハハっと苦笑をすると、少しだけオジ様に近い目になって私を見る。


「君はこれからどうするつもりだい?」


 どうする? って言うと今後の身の振り方って事かな……

 確かにこの事務所は過渡期に入ってる。

 オジ様が居た時にすでに成長期を終えていたのだから、今後の成長はまずないと言っていいのかもしれない……けど、


「私はまだ諦めるつもりはありませんよ」


 誰かがいないから出来ないなんて思わないし思いたくもない。オジ様超えの好機に挑戦もせずに諦めたら女が廃るってもんよ。ブレイクスルーは諦めた所では絶対に起こらないものなんだから……で、起こらなくて駄目になったらそんとき考えましょ。


「ふむ、それではまだ暫くは」

「限界に達したら程無く逃げますけどね」


 事務所が限界を迎えるか、私の精神が限界を迎えるかは分からないけど……


「そうか、ありがとう」


 異常なほど丁寧に頭を下げるくらい危機感を感じているなら、祐を上手く使えるように努力すれば良かったんじゃないかな……と、思いもしたが、私は微笑みを返すだけで対応した。義兄弟にある確執なんて私が簡単にどうこうできるもんじゃないのだから。


「勘違いしないでよね! 私の生活費の為なんだからね!」

「分かってるよ」


 ああっ‼ 私の渾身のツンを普通に流しやがりますか……

 わざと流されれば素知らぬ顔してられるのだが、素で流されるとなんかめっちゃ恥ずかしいんですけど……


 いたたまれない気持ちで私がこれからどう話をしようと考え込んだその時――電話が鳴った。


「はい、深橋探偵事務所です」


 時刻は21時を過ぎた頃である。

 ほっとけば留守電に切り替わるのだが、現在調査に出ている所員がいたのと電話受付担当が既に帰宅していた為、圭一さんが電話に出た。


 この時間の電話だから、現在調査に出ている者からの調査報告かヘルプ要請だろう……と、私は思っていたのだが……


「えっ! 左様でございますか……なるほど」


 んっ!? これはどうやら違うらしい……

 仮にも現在長たる圭一さんが、所員に対して敬語を使うはずがないし、チラチラとこちらを見ている。そうなると言う事は、電話の向こう側にいるのはクライアント。しかも、昼ではなく夜に掛けてくるのだから、緊急案件かあまり真っ当な依頼ではないのどちらかだろう。

 どちらにしてもあまり経験のない探偵を派遣する訳にはいかない案件であるという事よね。

 はぁ、11月末の寒空の元うら若き乙女の出番ですか……そうですか……


「はい、畏まりました。では、少々お待ちください」


 そう伝えて圭一さんは保留ボタンを押すと受話器をこちらに向け、


「結城君、君への依頼だ」


 ほらね、簡単な推理だよワトソン君。

 あまり乗る気はしないが、仕事を選んでる場合じゃない……憂鬱な気分を抑えつけて私は受話器を受け取ったのだった。



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