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3-5 メフィストフェレスとの契約

 クワトロはひげをさすり、レイの目を真正面から見据える。

 危険人物──それがクワトロのレイに対する感情だった。しかし世の中にはこういう人間が必要だという事もクワトロは嫌というほど理解していた。


「なにも人を餌にする方法を肯定している訳ではない。しかしそのような方法も必要な時もあるという事だ。私であれば、一般市民を使って罠を張るのではなく、騎士に娼婦のフリをさせて演説させるがね」

 

 レイはそこで彼の人となりが少しづつ見えてきた。この騎士団を立ち上げた初期メンバーであって、数十年におよび犯罪捜査の第一線で活躍していた人間。

 あのお嬢さん(エンディ)と違い、現実主義者(リアリスト)である程度柔軟な行動が出来る人間なのだろう。

 

「君は自分の技術(スキル)に気付いているかね?」

 

 唐突に投げかけられた質問にレイは首を傾げた。

 

「君には犯罪者を追跡し、捕まえるスキルがある。それが持って生まれたモノなのか、それとも訓練の末に手に入れたモノか、あるいはこちらの世界に来た際に受け取った贈り物(ギフト)なのか──それは分からないがね」

 

 レイは確かに、と思った。何故か分からないが、人の心理を読み、状況を分析し、犯人を(あぶ)り出す方法が簡単に思いつくことが出来た。

 それに加え、ご丁寧にも人を制圧する戦闘技術もある。

 どれもが無意識に行った事だが、確かにこの技術は犯罪者を追跡し、捕まえる技術──すなわち狩り(ハンティング)の技術で間違いない。

 

「そこで提案があるんだが」

「エンディ君の現状を知っているだろう?」

 

 レイは彼女と周りの人間の態度からある程度は察することが出来た。

 何故か所属する殺人課の課長(ベルフェ)からから疎まれ、捜査に参加できない。


「何でも……殺人課にいるのに事件の捜査に参加できないんだろう?」 

「それは騎士は基本二人一組で捜査しないといけないという決まりからだ。ベルフェは未だに彼女に相棒をつけていない。だから捜査に参加できないのだ」

 

 馬鹿らしい、とレイは鼻を鳴らした。やはり法や規則などクソ喰らえなのだ。しかしあのお嬢さんは法が絶対だという振る舞いをしている。

 それに加え、間違ったことは許さないとばかりに上司に楯突くこともある。

 きっとまだ世の中を分かっていないのだ──レイは正義感であふれる彼女の顔を思い浮かべて舌打ちをした。


「つまり、相棒がいれば彼女も殺人捜査に参加できる」


 クワトロの話を黙って聞いていたレイだが、彼の話の意図がさっぱりわからなかった。


「彼女には父上と同じく才能がある。それをみすみす内勤で喰い潰すのは大変惜しいと思っているのだ」

「それで?」

「実をいうと騎士団の雇う顧問というのはある条件を満たせば騎士と同等と見なされる。つまり騎士と顧問の二人一組で捜査することに出来るのだ」


 レイはクワトロの言わんとしようとしている事が分かって乗り気になり、背もたれから体を起こした。


「その条件とは?」

「二つある。一つは専門知識、これは君が持つような犯罪者を追跡する技術の事だ」

「もう一つは?」

「戦闘能力だよ」

 

 騎士も騎士学校等で犯罪捜査の方法を学び、戦闘技術を磨く。確かにその二つがあれば騎士と同等とみなされるのもわからんでもない、とレイは納得する。

 

「これを持っていても騎士として認められるわけではない。だが騎士と遜色ない身分が得られ、一緒に現場に出ることができる。すなわち騎士と顧問での二人一組(ツーマンセル)が認められる。法の抜け穴のようなものだがね」

 

 レイは軽い笑みを浮かべて聞いた。


「俺にどうしてもらいたいんだ?」

「君を正式に顧問として騎士団で雇いたい」

 

 レイは予想していたとはいえ驚いた。会ってまだ数日、それも記憶をなくし、異世界から来た男を果たして騎士団の一員として認めるのか。


「君の手腕を見るに稀有な才能がある。それにエンディ君にも才能がある。君たち二人で殺人事件を捜査してもらいたいんだよ」

「つまり俺とあのお嬢さんでコンビを組めって事か?」

 

 肯定したクワトロに、レイは渡りに船だと喜んだが、彼の態度があまりにも自分に都合がよすぎると怪しむ。

 

「なんで俺のためにそこまでしてくれるんだ?」

「何も慈善事業で行っている訳ではない。私達にも事情(・・)があってね。君が目の届く範囲にいてもらえると助かるのだ」

 

 レイは厄介な事になる、と最初会った時に言っていたことを思い出す。

 

「それに君にとってもこの提案は利益になる。ネイヴを殺した犯人は恐らく……君をこちらの世界に呼んだか、あるいは関係者だろう?」


 レイはクワトロの読み(・・)に驚いた。ここまで彼は(ろく)に情報も得られていないはずなのに、推測だけでそこまで推理出来ている。

 伊達(だて)に数十年、犯罪捜査の最前線にいた訳ではなさそうだ──レイは頷いた。


 「その犯人を追おうと君は思っているのではないかね? それならば騎士団にいる方がいいだろう」

 

 レイは自分の思惑をどう話すべきか、そもそも話さないでおくべきか迷ったが、隠しておく必要も無いと頷いた。

 

「分かったよ。騎士団に協力する。だが──」

 

 レイはテシーを庇ったエンディの顔を思いだす。

 

「あのお嬢さんはきっと反対するぜ」

 

 クワトロは難しい顔をしてひげをさすった。

 

「だろうね……」

 


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