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3-4 コンサルタント

 ベルフェが出て行ったあと、レイは座ったまま器用に足を机の上にあげ、足の指で挟んでいた手帳を手に持ち替える。

 先ほどの会話の間にブーツを脱いだ足の指でベルフェのポケットから()っておいたのだ

 自分がこんな芸当が出来る事に驚きながらも、窃盗を犯した意識が働かない自分に苦笑いする。


 レイは手帳の外観をしばらく眺めると、中をを開いて目を通す。最初のページは騎士規則が載っており、途中からはメモに使えるよう白紙になっている。

 そして冒頭の数ページに渡ってレイが考えた通りの記述があった。


 騎士は規律を遵守し、国家と国民に奉仕する事

 騎士は人権を尊重し、職務倫理を保持する事


 娼婦を買うなどという行為は前者に違反する。さらに上司と言う者は部下の行動に責任を持つものである。その部下が容疑者に暴行を働いたとなれば、その上司も後者に背いたというそしり(・・・)を受けるはずだ。


 殺人容疑で逮捕された人間の言う事に──半ば強引とはいえ──従うベルフェはよっぽど出世と言う者に固執しているのだろう。

 出世がしたいなんて下らないが、その分操りやすいとレイは背もたれに背中を預けて天井を見る。


 当面はネイヴを殺したクロスボウの男を捕まえることを目的としたレイだが、その前途は多難である。


 あのクロスボウの男の佇まい──交戦中の隙がある時に攻撃を仕掛ける。そして不利な状況になれば迷わず逃走を選択する。

 それらの行動から恐らく彼は殺し屋だろうとレイはあたり(・・・)をつける。

 何より彼には親近感(・・・)を憶える。直感的に彼は殺し屋の類だろうとレイは思った。


 そんな人物をどうやって捕まえればいいのか。しばらく待っていればあちらから再度襲いに来るだろう。

 しかしそれでは腹の虫がおさまらない──レイは不意打ちとはいえ、殺し屋におくれを取り、目の前でみすみす手がかりを殺された事を思い出し舌打ちをする。

 

 こちらから仕掛けてしっかりとケリ(・・)をつけなければ──レイはそこで、やはり騎士団の協力は必須だと考える。


 こちらの世界は少なくとも法治国家であり、騎士団という犯罪捜査組織がある以上、片っ端から疑わしい者を襲って拷問にかけるのは得策ではない。

 逆に言えば、騎士団に取り入ることが出来れば、この上なくいい情報源となるはずだ。


 しかしあのお嬢さんからはもう情報は得られそうもない。あれだけ怒らせるような真似をしたのだから。

 

 どうするかレイが頭を巡らせているところにベルフェが入って来た。その顔はだいぶやつれている。

 そんな彼の後ろからクワトロも続いて入って来た。

 

「たしかに君の言う通り、あの医法師の家から娼婦たちの装飾品が見つかった。多人数の血痕もな」

 

 ベルフェはそう言ってレイの対面の椅子を引き、クワトロに座るよう促す。

 強い者には下手に出るその立派な根性にレイは苦笑いすると目の前に座ったクワトロと向かい合う。

 レイは挨拶でもしようかと口を開いたが、ベルフェが言い訳がましく遮った。

 

「これまでの無礼な態度を謝罪します。まさか騎士団へ協力してくれる顧問(コンサルタント)だったとは……もっと早くに言ってくれれば──」

 

 顧問(コンサルタント)──レイはベルフェからスった騎士規約の中にそんな一文があったのを思い出す。

 

 騎士は犯罪捜査において、専門的な知識及び技術を有する者を顧問として雇用し、その助言及び協力を求めることが出来る。

 

 つまりエンディがネイヴに死体の冷凍をお願いした時のように、騎士は専門的な技術を有する者に協力を仰ぐことが出来るのだ。

 レイはクワトロの視線から彼が手を回して、自分を騎士の顧問だという事にしたのだと感づいたレイは曖昧に頷く。

 

「いやはや……それにしても犯罪心理について増資の深い方だったとは……あの娼婦殺しの犯人を特定したのもレイさんのお力添えがあったからだと聞いて……そんな事とは露とも知らず──」

 

 尚も言い訳がましく喋り続けるベルフェにクワトロは言った。

 

「彼の釈放手続きをしてくれるかね?」

 

 その言葉に敬礼したベルフェは留置場から出て何やら大声で命令を下している。それを聞きながらレイは鼻を鳴らした。

 

「俺が騎士団へ協力するコンサルタントだって?」

「君をここから出す良い言い訳が思いつかなくてね。だが嘘ではないだろう?」

 

 そう語るクワトロの目からは感情を読み取れなかったレイだが、テシーを餌にしたことに対する皮肉が含まれているのは間違いないと思った。

 

「ベルフェには君は騎士団が雇った犯罪心理学の顧問だと伝えてある。エンディと一緒に私の命令で娼婦連続殺人犯を追っていたのだと説明した。不服そうだが納得してくれたよ」

「なるほどね」

 

 レイは納得したが、事のあらましを知っているはずのクワトロの態度に違和感を覚える。エンディの態度とは正反対に過ぎるのだ。

 先ほど読んだ騎士規則によれば騎士は国民と国に尽くさなければならない。

 その国民を犠牲にする方法をとった自分の行動は咎められるべきではないのか。それも組織の団長(トップ)であればなおさらである。

 しかしクワトロはその事について何の感情も表していない。もっとも、隠しているだけかもしれないが──れはその旨を含んだ質問を投げた。

  

「自分で言うのもなんだが……俺は騎士とは正反対の人間だぜ。そんな奴を一時的とはいえ顧問にしていいのか?」

「確かに君のとった方法は明らかに騎士の理念とは相いれない。それどころか普通の人間(・・・・・)としての倫理感に照らしても、到底普通ではないだろう。しかし結果を出した。ものの数日で数年に渡り人を殺していた殺人鬼を見つけ出し、捕らえたのだ」

 

 レイに「まぁ死んじまったけどな」と合の手を入れられたクワトロはげんなりした顔をした。

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