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3-3 娼婦と出世と脅迫


 レイの挑発に顔を真っ赤にしたカトルセは机を叩き彼に顔を近づける。


「そんなに僕を怒らせたいのか」

「本当の事を言ったまでだ。アンタみたいなナヨナヨした女の子(・・・)じゃ話にならないって言ってるんだよカマ野──」


 レイの挑発が終わる前にカトルセが殴っていた。ドアの方にいる騎士は慌ててカトルセを引き離し、部屋の外へ連れ出す。

 その様子を見ながらレイは笑いながら「殴られたぞぉ!」と叫んだ。


 この世界の法は詳しく知らないが、エンディの様子を見る限り容疑者への暴行──すなわち拷問は禁止されている。

 尋問中に暴行を受けたとなれば、これは交渉(・・)を有利に進める武器になる。

 交渉を有利に進めるならば相手の痛いところを突くべきなのだ──レイはわざと怒らせて暴力を振るわれ、自分に有利な状況を作り出した。


 しばらくしてドアの方にいた騎士が一人で戻って来る。彼はハンカチを出すとレイの鼻血を拭いた。



「すまなかったな。彼は新人なんだ。もし訴えたいなら──」

「それよりもベルフェ呼んで欲しい」

「だ、だが──」

「ベルフェにこう伝えればいい。『おたく(殺人課)の騎士が容疑者を殴った。その容疑者はベルフェを連れてくるなら騎士団を訴えない』ってな」

 

 騎士は諦めたような顔になって部屋を出て行ってレイは自分の思惑通りに言った事を喜ぶ。


 例えば先進国で警察が容疑者への尋問中に暴行を働いたとなれば由々しき事態だ。

 法があっても無いような後進国ならばともかく、法が機能している世界で拷問は大抵のところ明確に禁止にされているのだ。


 数分後にベルフェが先ほどの騎士と共にやって来た。


 呼び出されたベルフェは帰り支度をしていたベルフェは帰宅を妨げられ不機嫌な顔を必死に隠してレイの体面に座ろうとした。

 そんな彼はレイの顔を見ると「あ!」と声を上げる。


「お前はあの現場にいた──」


 レイは「どうも」と言ってベルフェが座るのを待つ。


「それで……今回は悪い事をしてしまったな」


 部下が容疑者に留置場で暴行を働いた。明らかに自分の出世に響くであろうこの出来事にベルフェは下手に出る。


「安心しなよ。俺は訴えようなんて思っちゃいない」

「本当か。安心し──」

「それよりもあの医法師(ネイヴ)が殺された事件について話がしたい」


 急に話題が変わった話にベルフェは目を白黒させる。


「それならばカトルセからは犯人は君だと──」

「俺じゃないぞ。きっとそこの騎士さんも分かってるはずだ」


 そう問われた騎士は頭を掻いて「まぁ彼が犯人である可能性は無いですね」とそこで区切ると扉に背を預けて続けた。


「被害者は短い矢で射られて殺されたんです。彼の所持品に弓や(クロスボウ)といった武器は見つかりませんでしたしね」


 ベルフェは困ったような顔をした。


「そこらへんは資料を呼んだから知っているよ。だが君は被害者の指を切り落として両腕の骨を折ったのだろう?」

「それについては深い事情があるのさ──」


 レイは入口の騎士をチラリと見るとベルフェに言った。


「あんたと二人っきりで話したい」

「それは出来ない。留置所での尋問は必ず二人の騎士が行う事になっている」


 レイは呆れたように天井を仰ぐ。


「俺だって野郎とこんな狭い部屋にいるのは御免さ。だがこれはアンタのためなんだ」

「何を言ってるんだ」


 レイはベルフェに小声でつぶやいた。


「ディーテ」


 たまに買っている娼婦の名を出されたベルフェは目を見開いた。


「なんでそれを──」

氷の微笑(シャロンストーン)でも見たのか? 余計なお節介かもしれんが、ヤってる最中に髪を引っ張るのはやめた方がいいぜ」


 レイの冗談は理解できなかったが、そのプレイ内容まで知っている口ぶりにベルフェは振り返って騎士に出て行くよう言った。


「で、ですがね──」

「いいから出て行け!」


 怒鳴り散らかしたベルフェに騎士は腑に落ちないような顔で出て行った。それを見届けたレイはへらへらとベルフェをからかう。


「やっぱり騎士が娼婦を買うのはまずいんだな」


 ベルフェは「声を落とせ」とレイに注意し、顔を近づけて聞いた。


「それをどこで聞いた」

「娼婦に知り合いがいてね」

「それで、私を脅迫するのか?」

「まさか、そんなことするわけないだろ。俺は善良な市民だ。騎士への協力をしたいんだ」


 そう(うそぶ)くレイにベルフェは怪訝な顔をする。


「小耳にはさんだんだが……アンタは出世したいんだって?」

「そんなこと誰から聞いたのだ」


 ベルフェは性生活だけでなく、また別の欲望まで知っている風のレイを警戒する。


「誰から聞いた、なんてのはどうでもいい。重要なのは俺だったらアンタの出世に協力できると思ってね」


 レイは顔を近づけて言った。


「俺の横で死んでいたあの医法師──ネイヴは(ちまた)を騒がせていた連続娼婦殺人犯だ」

「なんだって!?」


 ベルフェは驚いて身を乗り出す。それをレイは諫めるように、中途半端に上がる手で落ち着けとジェスチャーで伝える。


「奴の家を調べれば何かしら証拠は出てくるだろうさ」

「なぜあの男が殺人犯だと知っているのだ」

「それについては後で教えてやるよ」

「だが……信じられない。彼は何度か騎士への協力もしているのだぞ」


 レイはふんと鼻を鳴らした。


「留置場での暴行について訴えられたくなかったら、彼の家を捜索しに行ったほうがいいぜ」


 これ以上質問には答えないぞ、という態度にベルフェは暫し悩む。

 部下を(つか)わせて被害者の家を捜索することは容易い。

 何より部下が暴行で訴えられ、そのせいで出世に響く事を考えたらずっと良い──ベルフェは立ち上がって言った。


「分かった。とりあえず捜索はさせよう。もし何も見つからなかったら──」

「煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


 ベルフェは留置場を出る際にレイがブーツを脱いで素足になっている事に気付いた。

 だが気には留めずに先ほど追い出した騎士を呼び戻して指示を出した。

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