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2-42 計画

 エンディはレイの言われるまま装備一式を手に騎士団の外に出る。

 そして呼び止めた辻馬車に彼と一緒に乗り込む。揺られながら彼女はクワトロに言われたことを思い出す。

 彼について行き指示に従う様に、とだけ伝えられた。しかしその意図は分からない。

 小さな窓から外を眺める彼の横顔を見つめる。彼は怪物退治と言っていたが怪物とはいったい誰の事なのか。


 レイが指示した辻馬車はあっという間に目的についた。レイは馬車を降りて辺りを一通り確認すると、近くの集合住宅(インスラ)に入っていく。

 三階にあがったところで「ここで待て」と言われたエンディは大人しく待つことにした。

 彼は一番奥の部屋まで行き、その扉をノックする。中からはいかにも娼婦といった出で立ちの女が出てきた。

 レイは彼女と二言三言言葉を交わすと、その手に硬貨を握らせる。

 一度部屋に引っ込んだ彼女はレイに何かを渡すと階段の前で待っている騎士を怪訝な目で見て下に降りて行った。


 すれ違ったエンディはその香水の匂いに先日見つけた死体を思い出してしまう。

 腹を裂かれた女の死体に蛆が湧き蠅が飛び出てくる──そのイメージに思わず吐き気を催したエンディはレイが手招きをしているのに気づいて我に返った。

 血なまぐさい思い出をふり払ってエンディはレイの元へ行った。 

 レイはエンディの到着を待たずに部屋に入っていく、それをエンディは慌てて止めた。


「ま、待て! ここは君の部屋じゃないだろう」

「家主に朝までこの部屋を借りたんだ」

「『借りた』って……」


 エンディは中を覗き見る。部屋は衣服が脱ぎ捨てられ、開いた酒瓶がいくつも転がっている。


「とっとと入れ。誰かに見られたらどうするんだ」


 あの渡していた金はそういう意味だったのか、とエンディは納得しつつも他人の部屋に居心地の悪さを感じつつ中に入る。

 レイはまるで自分の部屋のように椅子に腰かけるとテーブルの上の酒瓶を一つ一つチェックしていく。

 中身が入っている瓶を見つけたレイはそれに口をつける。


「勝手に飲んではダメだろう!」

「部屋代に酒代も上乗せして渡してる。問題ないさ」


 エンディは娼婦特有の香水に包まれ立ち尽くしているが、やがて両手に抱える鎧の重さに耐えきれなくなってそれらを地面におろす。


「装備をつけるんだ」


 エンディはレイのその指示に大人しく従う。この男は他人との付き合い(・・・・)においては主導権を一方的に握り、言った通りに行動してやらねば何も喋ってはくれないだろうと観念したエンディは装備が入っている袋を開ける。

 そして鎧を取り出しそれを一つ一つ装着していく。


「それで、クワトロからどこまで聞いている?」

「どこまでと言われても……君について行って指示に従えとだけだが……」

「それじゃここに来た目的も知らないんだな?」

「当然だ──いったい何をしようとしているんだ」


 レイはタバコを咥えて言った。


「連続娼婦殺し──切り裂きジャックを捕まえに来た」


 その言葉にエンディの胸当てをつける手が止まった。


「捕まえるって──」

「言葉の通りさ」


 なんてことないといった風に(うそぶ)くレイにエンディは疑問を一つずつ解決していこうと質問を重ねる。


「もしかして犯人の居場所を知ってるのか?」

「いいや」

「それでは何故──そもそも団長が昼間に連続娼婦殺しの犯人は捕まえたと……」


 レイは呆れたような顔をして酒を(あお)る。そして頭の悪い生徒に言い聞かせるよう言った。


「察しの悪いお嬢さんのために順を追って話してやる」


 ムッとしたエンディだが口を挟まず大人しく聞くことにした。


「あの捜査資料を見た時、この犯人を捕まえる案が思い浮かんだ」


 レイはそこで区切って無言で火をくれというジェスチャーをする。

 エンディは大人しくタバコに火をつけてやる。あっという間に部屋には娼婦の香水とタバコの匂いが充満する。少々気分が悪くなりながらもエンディは装備を装着していく。


「それはこの犯人が娼婦、それも緑髪の娼婦にに常軌を逸した怒りを抱いてたって事さ」

「怒り?」

「被害者は全員のどを裂かれて殺されていた。抵抗できないようにされてな。これでも十分犯人が怒ってるってのは分かったが、一番は捨て方だ」


 エンディは女の死体をまた思い出す。


「どの被害者も隠そうともせず、かといって目立つ場所に置くわけじゃない。まるでごみでも捨てるかのように全裸で裏路地に打ち捨てられていただろう」


 たしかに、とエンディは死亡証明書の内容を思い出して言った。

 レイが抜き出した娼婦の死亡証明書は全員が適当に路地裏に放り出されていた、と書いてあった。


「死体の捨て方にも犯人の考えが現れるんだ。『ゴミのように扱ってやった』ってな感じの捨て方だった。ここまでする奴は被害者をよほど憎んでなければできない」


 犯罪者の精神についての講釈に聞き入っていたエンディにレイは唐突に質問をしてきた。


精神病質者(サイコパス)の特徴を憶えているか?」

「傲慢、倫理観が無く、他人への共感能力がない。そしてプライドが高い」


 エンディは目の前の男の特徴と合致するそれを口にする。レイは満足そうにうなずいた。


「この手の犯人はプライドが高いのさ。やられたらやり返さなきゃ済まない。耐えがたい侮辱なんてされようもんなら、その場で殺してるだろうさ」


 エンディは話を必死で咀嚼する。どうやら彼は犯人の怒りを刺激しておびき出そうとしているらしい。


「だから今朝会見を開いて貰ったんだ」

「あの会見は君の差し金か!」


 エンディは装備を装着する手を止めて叫んだ。あれのせいでベルフェから謂れの内怒りをぶつけられたのだ。面倒なことに巻き込まれた、と彼女は憂鬱になった。

 しかしレイはそんなことは全く気にした様子はなく「そうだ」と頷いて空になった酒瓶を放る。


「今朝の会見で知り合いの娼婦に頼んで犯人を徹底的にこき下ろしてやったんだよ。奴が憎む緑髪の娼婦にな」


 だが、とエンディは疑問に思った。そもそも犯人を怒らせるにはあの会見の場に犯人がいなければならない。


「だが……会見を犯人が見ているという保証はあるのか?」

「見てたさ、確実にな。プライドの高い人間が自分に関する会見を見逃すわけがない」

 

 レイはその為にクワトロに頼んで方々に情報を流してもらった。市井の人間の殆どに流れるよう、あらゆる媒体を用いて人を呼んだのだ。

 それに直接は見聞きしなくとも、犯人の耳に「娼婦が犯人を侮辱した」という噂が入れば充分だ。


「嘘であろうと憎んでいる相手から公の場で侮辱されたんだ。奴は必ず出てくるはずだ」


 そこまで聞いてエンディはある重要な事に気付く。彼は犯人が出てくるといったが、それはどこ(・・)に出てくるのだろうか。

 エンディの胸中に昼間抱いた不安が込み上げてきた。


「君は犯人が出てくるといったが……犯人はどこに出てくるんだ?」

「決まってるだろう。昼間の会見した娼婦──テシーのところさ」

「ま、待て! つまりそのテシーという女性の元に犯人をおびき出すという事か!?」


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