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2-34 エンディの初逮捕

「君には黙秘権がある。君には────」


 拘束された男に権利を読み上げたエンディの周りの群衆にどよめきが上がった。

 彼らは目の前で繰り広げられたあっという間の捕り物劇に感激して散っていく。

 今夜の市井(しせい)の話題は彼女で持ち切りだろな──レイはそう思いながら男を拘束するエンディに近づいていった。

 抵抗する意思を見せず、ただひたすらに呻きを上げている男を見下ろしたレイはその変わりように驚いた。


「こいつ、変なクスリでもやってんのか?」


 先程までの覇気は一切見られない彼の姿はそれしか思い浮かばなかった。 

 そしてレイはその腕に小さな赤い斑点を見つけ、やはり薬かと納得していたレイのそばに従騎士が四人やってきた。

 拘束された男を見た彼らはエンディに敬礼をする。


「ありがとうございます。こいつ、剣を持ってウロウロしてたので声をかけたら……返り討ちにあってしまって……」

「そうだったのか──けが人は?」

「何人かいますが皆軽傷です」


 その言葉にエンディは安心したと頷く。


「身柄は私達が騎士団の方へ」


 そう言った従騎士にエンディは男を引き渡すと、彼らは抱えるように引き摺っていった。

 一連の捕り物を見届けたレイは重要な事に気づいて聞いた。


「あいつは攻撃魔法を使ったぞ。手錠をはめるだけで大丈夫なのか?」

「ん? そのことなら平気だ」


 エンディはそう言ってポーチから予備の手錠を出す。

 二つも持ち歩く事は普通なのだろうか──そう思うレイにエンディは手錠の内側を見せつける。

 そこには丸く盛り上がっている球体が敷き詰められていた。


「手錠の内側にはこのように魔石がついている。これには魔力を吸い取る力があって、嵌められた人間は魔法を使えなくなるんだ」

「へぇ……絶対使えなくなるのか?」

「無理だろう。殆どの魔力が吸い取られてしまうから」


 魔法があるのならば、それを抑制する方法も考えられているのは当然だな、と感心する。

 そして先ほどまでの攻防について口を開いた。


「それにしても──」


 中々やるじゃないか、との言葉をレイは飲み込んだ。褒めるのはなぜか(しゃく)であったし、彼女の戦い方に違和感を覚えたからだ。


「打ち合ってる最中に幾つも隙がなかったか?」

「隙?」

「奴を斬り殺せる(・・・・・)隙だ。俺は剣には詳しくないし、そもそも扱えないから詳しい事は言えんが──まるで奴を斬らない(・・・・)ようにしてる風に見えたんでね」

「それは──」


 エンディは図星だった。男の攻撃は確かに速く強かったが、余りにも素人過ぎた。これが剣術の訓練であれば何度も切り伏せることが出来ただろうな、と彼女は理解していただけに言い淀む。

 そしてレイはその胸の内を見透かしたように言った。


「人を殺した事が無いな?」


 その言葉にエンディはぎくりとする。分かりやすい彼女の反応からやっぱりな、とレイは頷く。


「何故殺さない」


 その言葉にエンディは驚いたように言う。


「何を言ってるんだ。騎士は死刑執行人ではない。裁きは法に任せる」

「甘ちゃんだな」

「な──」

「あの男が途中で力尽きたから良いものを、あのまま続けてたら負けてたぞ(・・・・・)


 エンディは剣を失って飛び掛かってきた男を思い出し、レイの言っていることが正しいと顔を暗くする。

 剣での武装解除を行った時点で安心しきっていた。何より人を斬ったその先に、命を奪う事が怖かった。

 図星を誤魔化すようにエンディは話題を変えた。


「だ、大体、あの男はなんなんだ? 君を恨んでたようだが、何かトラブルを起こしたのか?」

 

 彼がこの世界に来てまだ日が浅い。それなのにもう血が流れるトラブルを呼び込んでいる。そもそも、こちらの世界に呼ばれて殺されかけたのも、彼に原因があるのではないか──エンディはそんな胸中を抱え、責めるような口調でレイを問い詰めた。

 それを否定したのはネシャだった。


「違うっ!」


 ネシャは叫ぶとレイの前に立ってエンディから守るよう両手を広げる。


師匠(・・)はオレを助けてくれただけだ!」


 レイが人を助けた──まだ出会って数日だが、この男の善行を見たことがないエンディは目を丸くする。


「君を助けた!?」

「そうだよっ! あの男はオレを殺そうとしてて……それで師匠が現れて奴をぶっ倒したんだ!」


 エンディはにわかには信じがたい話を聞いて驚き、レイに尋ねる。


「それは……本当か?」


 レイは頷いて答えた。


「このクソガキの言う通りだ。善良な俺は男に襲われてた子供を助けたんだ」


 エンディはネシャとレイの顔を交互に見て嘘をついているわけではないと悟る。


「そ、そうか……そうだったのか……それで奴に逆恨みを」


 エンディはそう納得すると申し訳なさそうな顔をした。


「その……すまない。君を疑ったりしてしまって……」

「いや、いいのさ」

「で、でも君のことを見直した……酷いやつかと思ったが、子供を助けるなんて──」


 扱いやすくて助かる──レイは笑って「まぁな」と呟いた。そんな彼にエンディは心配そうな顔をしていった。 


「でも、今度から危ない目に合いそうだったら騎士を呼ぶんだ」


 了解の意味を込めて頷いたレイを見て安心したエンディはネシャに視線を戻した。


「それで……この子は?」


 目線を向けられたネシャはキッと睨み返す。

 敵意の視線にエンディは困惑しながらも、説明を求めるために再度レイを見る。

 当のレイはエンディとネシャを追い払ういい手を思い付いたとばかりに言い放った。


「浮浪児だ」


 その言葉にエンディは驚く。


「だめじゃないか! すぐに保護施設に連れてってあげるからな」

「そのほうがいいな。何日も食べてないみたいだし、毎晩道で寝ているらしい」

「かわいそうに……孤児院の手配もすぐにしてや────」


 孤児院という単語が出た瞬間ネシャは青い顔で「やだっ!」と叫び駆けていく。

 エンディは慌ててその後を追う。


「待つんだ! 夜中に一人は危ないぞ!」


 レイは慌ててネシャを追っていったエンディの後姿を見送りつつ、厄介な二人が消えてくれたと満足げに夜の街へと消えていった。


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