2-30 犯人を捕まえる方法
「俺なら犯人を捕まえることが出来る」
その台詞に両者の間に少しの沈黙が流れた。何かを考えているのかクワトロはひげをさすっている。そしてレイの態度からその言葉が嘘ではないと分かると口を開いた。
「それはどうやって?」
「秘密だ。俺はサプライズが好きでね。それで……頼みたいことがある」
含みのある台詞にクワトロはレイの意図を見抜いて行った。
「何が必要なんだね?」
「話が早くて助かるよ」
レイは口角を上げた。察しがいい。こちらの意図を見抜かれてしまうのは厄介だが、話がスムーズに進むのは助かる。
「まず金が欲しい。騎士の一年分の給料──あのお嬢さんが貰っている額でいい」
「分かった。用意しよう」
エンディの財布から取り出した金をハリティやテシーに渡した際の反応で、騎士はかなりの額の給料を貰っている事は分かった。それが一年分となるとかなりの大金になるはずだが、クワトロはすんなり用意すると言ってくれたことにレイは自分の計画が順調にいっているとほくそ笑む。
「次は……そうだな、もし犯人が捕まったらどうやって発表するんだ?」
「世間を騒がせた事件ならば騎士団の前に記者や有力者、市民を集めて会見を開く。この事件もここまで被害者が出た以上、恐らく開く事になるだろう」
レイは騎士団の前にやけに広いスペースがとられていると思っていたが合点がいった。
「市民全員は集められないが、関心のある者は足を運ぶし、記者たちに伝えれば翌日の新聞に載って東地区全員に知らせることが出来る」
「なるほどね。それなら市民や有力者達にしっかり仕事をしてるって伝えられる訳だ」
「そう言った面がある事は否定しない。騎士という組織は市民達の協力が無ければ成り立たない。だが何より市民に安心感を与えることが重要だ。明日も愛する者と朝が迎える事が出来ると、もう怯えずに床に就けると伝える必要がある」
レイはそいつは都合がいい、と皮肉の混じった笑みを浮かべる。
「それじゃあ会見に集める人間はどう呼ぶんだ?」
「街の掲示板に前日から公告する。そのほかにも新聞社に会見がある旨を伝える」
「会見の準備をしてほしい」
その頼みにクワトロは怪訝な目をした。
「一体何の会見を?」
「娼婦連続殺人犯を逮捕したって会見だ」
「だが……捕まっていない」
レイはそれには答えずに笑みを浮かべてやるかやらぬかの判断を迫る。クワトロは小さくため息をついて言った。
「分かった。数日中に準備しよう」
同意を得られて満足そうに頷いたレイはクワトロから渡された新聞を掲げて言った。
「そいつはよかった。そう言えば、新聞社ってのはこの新聞を発行している一社だけなのか?」
「いや、東地区ならば同規模の新聞社がもう一つある。あとは小さな新聞社がいくつか。もっとも殆どは三文新聞だがね」
「そいつら全員に情報を流すんだ。娼婦連続殺人犯が捕まったってな。騎士団のトップを長く勤めればそういう伝手もあるだろう?」
クワトロは暫く考えて頷いた。
「いいだろう」
「準備が出来たら教えてくれ」
レイは頼みごとが全てスムーズにいった為、拍子抜けしてしまった。
関わりがあるとはいえ部外者の人間の言う通りにしているクワトロの心中が測れないレイにその彼が口を開いた。
「私の方からも頼みがある」
「ん?」
「どんな方法で捕まえるにしろ、君は一人でやるつもりだろう」
そう言ったクワトロに鋭い目で見つめられたレイは心中で当然だ、と呟く。
犯人の身柄を拘束した後に、騎士の介入があれば意味がない。
情報を吐かせる手段はいくらでも思いつく──しかしクワトロはそれを見抜いているのだろう。どう取り繕ったところで彼には意味がないとレイは観念した表情を浮かべる。
「良く分かったな」
クワトロは全てお見通しだと言わんばかりに頷くと、頼みごとを言った。
「その場にエンディも連れて行ってほしい」
レイは思わず驚いてしまう。騎士の同行を条件に出されるかと思っていたが、彼女の名前が上がるとは想定外だった。
よもや経験のある騎士では無く、新人の彼女を同行させるとは──レイはクワトロの意図を測れずにいたが、同時に助かったとも思う。
レイは犯人を捕まえた後、話を聞くつもりだった。
しかしここまで仕込んだ奴が素直に吐くとは思えない。恐らく拷問の行使は必須になると思っていた。
自分がそれを──すなわち人をためらいなく傷つける事が出来るのは、あの女で分かっている。
だが障害がある。法執行機関の者がいれば、かならず拷問を止められてしまうだろう。
そこで彼らを出し抜く方法を考えなければならなかったが、クワトロの提案でそれも解決した。
訓練された騎士を出し抜くのは難しいが、新人一人ならなんとでもなる──レイは快く承諾した。
「いいぜ、あのお嬢さんを社会見学に連れてくよ」




