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2-27 娼婦との食事と愛撫

 数分後、娼婦──テシーを連れたレイは一件の酒場に入った。彼女がいつも食事をとっているという店だった。

 客層は娼婦とみられる女が半分、残りは彼女たちを品定めに来た男達。

 席はほぼ埋まっており、レイは取り合えず空いている席に腰かけると、小さなテーブル席の反対に座った娼婦に尋ねた。


「オススメは何だ?」

「えー……この瑞鹿(ずいじか)のステーキかな……もたれないし」

「そうか、それにしよう」


 テーブルを回ってきた給仕を呼び止め、二人分のステーキと適当に酒を持ってくるよう伝える。

 注文し終わったレイに娼婦が怪訝な顔をした。


「ちょっと……あなたってもしかしてデートしたい人?」

「いいや違う」


 取り出したタバコに火をつけつつ、紫煙と同時にそう否定の言葉を口から吐いたレイを女は不思議そうな顔で見た。


「ま、あれだけ貰えれば別に不満はないけど……」


 そう言ってタバコを羨ましそうにみる娼婦の視線を感じながら、レイは運ばれてきた二つのグラスの内、一つをあっという間に飲み干すと、目の前に置かれたそれを眺めている娼婦に聞いた。


「飲まないのか?」

「え?」

「飲まないなら貰うが──」

「の、飲むわ──」


 高級娼婦とのデートでもあるまいし、たかが街娼に何故酒など奢るのか──そう疑問に思った彼女はタダ酒が飲めるならばそれでいい、とそれ以上深く考えずに酒を口に運んだ。

 そして過去にいた客の中から似たような人物はいないかと考えて、抱く前に酒場で一杯ひっかける客の事を思い出す。


「もしかして、デートしてからじゃないと興奮しない人? あれだけ貰えれば別にいいけど。そんなメンドーなことしなくても、あたしなら元気(・・)にさせてあげられるわよ」


 彼女はグラスの縁についた酒をゆっくりと艶めかしく舐めとる。

 過去に取った客は抱く前にデート染みた事をしなければ気分が盛り上がらない、と言い彼女を酒場に連れて行った。

 何回か相手をして、結局は彼女の舌使い(・・・)に充分昂ぶることが出来ると分かってからは酒場に行くことは無くなったが。


「俺だってその口に歓迎(・・)してもらいたいのは山々なんだが、もっと別の事に口を使って欲しいんだ」

「……まさか変態行為(プレイ)じゃないでしょうね」


 顔をしかめた彼女が何を想像しているのかについては考えないことにしたレイは、とりあえず通りすがりの給仕に酒のお代わりを伝えると言った。


「聞きたいことがあるのさ」

「何?」

「香水はどこで買ってるんだ?」

「へ?」


 好きな体位は? 尻を叩かれると興奮するのか? そんな下劣な質問をされると思っていたテシーは間の抜けた反応をしてしまう。

 客の中には衆人の中で娼婦に下卑た質問を浴びせ、その反応で興奮する者もいた。

 この男もその類かと思っていた彼女は不思議がりながらも、あの額を貰えれば充分お釣りがくるだろうと大人しく答えた。


「変な事聞くのね……まぁいいけど、近所の店よ」

「流行ってるのか?」

「世間ではどうか知らないけど、街娼(私達)の間じゃ流行ってるわ」


 そう言った彼女は一向に仕事についての話をしないレイにしびれを切らしてタバコを取り出すとマッチで火をつける。

 当のレイはあの女の素性を思い出す。彼女も街娼だと言っていた。娼婦達はコミュニティに属しているのが普通だ。娼館であればその店の、街に立っていれば街娼の。そこで流行っているとなればあの女が同じ香水をつけていたのも頷ける。


「ねぇ……何が目的か知らないけどさ。名前は教えてくれない?」

「レイだ」

「あたしはテシーよ、よろしくあなた(ダーリン)。それとも別の呼び方がいい? ご主人様とか──」


 テシーは金を払ったのに抱かず、酒場に連れてきた目の前の変人をじっと見て考えたが、彼のやろうとしていることは全く持って理解不能だった。

 普通ならば、金を払ったら一目散に宿へ向かいすぐ行為に走る客が大半であった。だが彼女にもこの変人がそこそこ金を持っていることは分かった。あれだけの額をポンと出すような人間ならば、しっかりサービス(・・・・)すればそれなりのチップもくれるだろうと経験から分かっていた。

 テシーはテーブルの下でヒールを脱ぎ、その先をレイの太ももに這わせる。


「あなたはどんなプレイが好きなの? 周りに人がいる時にヤるのが興奮するの?」


 テシーは甘ったるい声でそう囁くと、背もたれに体を預けて胸を張った。

 下着はつけていないのか、胸を強調するとシルクのような薄い生地に透けた突起が浮かび上がる。

 男の劣情を煽るためだけに作られたような彼女の服は中々に悪くないとレイは思ったが、もっと重要な事があると口を開いた。


「頼みがある」

「いいわよ。何でもしてあげる。普通のプレイならね」


 彼女は足の指を器用に動かしてレイの太ももをまさぐる。机の下でそんな蜜月が繰り広げられているとも知らない給仕がステーキを二人分運んできた。

 付け合わせの野菜なんてものはない。焼いた肉の塊だけが乗せられた皿を目の前にしたレイはナイフとフォークを手に取ると丁寧に肉を切り分けて口に運ぶ。

 しっかりとした歯ごたえの肉は胡椒のような香辛料で味付けされており、ややクセはあるが充分に美味しい──レイはあっという間にぺろりと瑞鹿を平らげた。

 

「中々美味いな。食べないのか? だったらもらうが──」

「食べるわよ……お腹空いてたし……」


 机の下の愛撫が全く効果無しと悟ったテシーは足を引くと大人しく肉に手を付ける。

 レイは彼女が食べているのを待つ間、ポケットからエンディの机からくすねた紙と鉛筆を取り出し筆を走らせた。

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