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1-3 殺し屋の目覚め

 酷い頭痛だ────


 男は眠りと目覚めの間の、曖昧なところ(・・・・・・)でそんな感想を抱いた。


 二日酔いの頭痛とも違う、まるで脳内を熱した鉄の棒で貫かれたような痛み──

 ふと、男はこの曖昧な空間(・・)で自分が享受しているのが痛覚だけではないと気付く。

 かすかな細葉孔雀草(マリーゴールド)の匂いを男の嗅覚は確かに感じ取っていた。そしてその匂いからくる懐かしさ────

 

 頭痛と懐かしい匂い、それがどんな意味を持っているのかは分からないまま男の意識は覚醒した。






 男は開いた瞼の先に見知らぬ天井を見た。

 ここはどこだ──見知らぬ場所で目覚めた人間が想う当然の疑問。

 それを解消するために上体を起こそうとした彼の腹部に激痛が走る。だがそれを顔に出さないように堪え、周囲を確認する。


 どうやらどこかの一室らしい。自分の他には四人の男女。似たような灰色の服を着た三人と、そばで倒れている騎士装束(・・・・)を纏った少女。

 彼らの姿は剣と魔法の世界の住人を思わせる。まるで魔法使いと騎士だ──だが、そんなことはあり得ないと男は自分の考えを否定する。


 自分の知っている世界(・・)において、騎士なんてものは御伽噺(おとぎばなし)にしか存在しない。

 撮影スタジオ(ハリウッド)にでも紛れ込んだか、と男は思う。しかしその考えが違う事は彼自身良く分かっていた。


 騎士装束の少女が流している血や、スキンヘッドの男が持つナイフは本物だ。

 目の前の景色がどれも男の理解の範疇を飛び越えたものではあったが、目が覚める前にあった出来事については(おおよそ)その予想はついた。


 腕から血を流している騎士が三人に襲われていた。

 そして何故かは分からないが、彼らは女騎士を襲うのをやめて目覚めた自分の事を見ている――男は状況を分析していく中で、思わず惹かれるものがあった。


 腕から血を流し、自分の真横ではいつくばっている少女の目。彼女の瞳に思わず見とれてしまった。

 彼女の顔は苦痛で歪んでいるが、男はその整った顔に昔見た女神の彫刻を思い出す。

 それほどまでに整った顔だった。

 少女の面影を多分に残し、健康的(・・・)な表情とは言えないが十二分に美しさが上回っている。

 何より驚いたのは彼女の髪が男の常識では馴染みのないものだったことだ。

 肩口で切り揃えられたそれは、赤毛(ジンジャー)なんてものではない、本当に燃えているのではないかと錯覚する赤い髪だった。

 そして男が惹かれたその瞳――髪と同じでまるで燃えているかの様な赤い瞳。


 数秒にも満たない周囲の観察の内、男はその大半を彼女の瞳を見つめることに使ってしまった事に後悔する。


 血が流れている現場は往々にしてのっぴきならない状況のはずだ――男は腹部の痛みを無視して立ち上がる。そして自身に注がれる八ツの瞳から状況を把握できていないのは自分だけではないらしい、と感じ取る。

 だが少なくとも自分よりは何かを知っているはずだ――男は口を開いた。


¿Quién (お前達)es usted?(は誰だ?)


 男の問いかけに、彼を見つめる四人の表情がさらに困惑を深める。

 その表情を男は言葉が伝わっていないのだと認識し、矢継ぎ早に質問を繰り返す。


Wo si(ここは)nd wir?(どこだ?)

 

Що відб(何が起き)увається?(ている?)

 

La langue (言葉は)est-elle (通じて)comprise ?(いるか?)

 

 男は固まったままの四人に思いつく限りの言葉で質問したが、期待する答えは得られなかった。そこで、ふと浮かんだ言語を口にする。


How abo(これなら)ut this(どうだ)──────俺の言葉は通じているか?」

 

 その言葉にまず反応したのが(メルキオル)だった。

 開戦の狼煙であるかのように、彼女は殺意を込めた笑みを浮かべて言った。

 

「こちらの世界にようこそ、レイ(・・)




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