2-21 殺人鬼の過去 その2
その晩、寝室に日課のお休みのキスをしに母が入って来た。
思わず昼間見た光景がよみがえる。
見知らぬ男に艶めかしく舌を伸ばし、唾液が伸びるその口──思わず顔を背けて彼女の唇から逃れた。
母は「恥ずかしい年頃になっちゃったのね」と残念そうに言って頭を撫でた。
数分後、母が出て行った部屋に彼女の短い悲鳴が聞こえてきた。
あの出来事が原因であることは容易に想像できた。
昼間の出来事を父に相談したのは失敗だったと思った。
次の日、父は出て行ったきり帰ってこなかった。
家計は父に頼りきりだった。
数日たち、蓄えが無くなるころに母は仕事を始めた。
後々知ったことではあるが、彼女は時折家に客を呼んで仕事をしていたらしい。
決して金銭面で困っていたわけではない。今になって良く分かる。彼女は色情狂だったのだ。
家に見知らぬ男が出入りするようにってから、近所の目が冷たくなる。そして友人たちとの遊びにも入れてもらえなくなった。
それでも母には子供に対する一端の愛情はあったらしい。
問題なく食事は出されたし、精力的に仕事をしていたおかげで生活に困る事は無かった。
その時は突然やって来た。
東地区を襲った一週間も続く吹雪、その期間は誰も外に出る事が出来なかった。
外に出ることが出来ないという事は客も取れない。
その日は母と夕食を取り、自分の部屋に戻ると毛布にくるまって本を読んでいた。
しばらくうとうとしていたところに、毛布に入り込んでくる気配で意識がはっきりとした。
母の体は暖かい。部屋が寒いだけにそれを余計に感じる。
後ろから抱かれる形で密着してきた彼女は「寒くない?」と耳元でささやいた。
無言でうなずくと彼女は下腹部に手を伸ばしてきた。
下半身をまさぐられる恐怖心で思わず振り向いて母の顔を見る。
その目は客に向ける色をしていた。
自分には消して見せなかった淫らな目──もう聖母のような母はいなかった。




