32/82
2-17 殺人鬼の過去 その1
それはほんの悪戯心だった。
母に「遊びに行ってくる」と伝え、家を出る。そして裏口から足音を忍ばせ家の中に戻ってきた。
夫婦の寝室に入り、ベッドの下に潜り込む。
いつも自分が外に遊びに行くと母は寝室で休むのを知っていた。だから今日は驚かせようとしたのだ。
だが期待と反して入って来たのは母と見知らぬ男だった。
出て行くタイミングを失い、ベッドの下で息を殺す。
体液が弾ける音が聞こえ、ベッドが軋む。
あまりいい出来と言えないベッドがぎしぎしと揺れる。
今にも壊れそうな目の前で唸る木の板、母の嬌声が響く部屋。
恐怖に必死に耐え、事が終わるのをじっと待つ。
どれぐらい時間がったったのかは分からない。
気の遠くなるような長い時間の後、彼らがベッドから降りてくる音に我を取り戻す。
ベッドから降りた男は服を着ると、裸の母にお金を渡す。
いつも寝るときはキスをしてくれる聖母のような母、彼女はまだ上気している頬で男に艶めかしい口づけをすると出て行く彼を見送る。
これは悪い事なのだ、と子供ながらに思った。




