あの時素直になれなかった想いを
バトルや表現がいまいちな所あるかもしれません。
3人称です。
普段なら人々の声が聞こえてきそうな街は、建物が崩壊していて所々面影が残っているだけだった。今はもう何も声が聞こえて来ない街に、寂しさを表すように雨が降っていた。
元は正されていたであろう道路に、1点を見つめている少女がいた……名前は凪花雪華、その表情は空の雲と同じ様に何一つ晴れていなかった。
雪華が見ているのは、崩壊した街で何かを求める様に歩いている緑色の怪物を見ていた。そして、その姿を少しの間見た後、目を閉じて手を胸に当てた……その手の甲にはドクロがカタカタと笑っていた。
「頑張ってた事が全部無駄になったら?」
自分に問いかける様に、雪華は呟いた……ポニーテールにまとめた長い黒髪を揺らして、顔を横に振った。その後、目を開いてはブラウンの瞳が再度、目の前にいる怪物を写した。
髪と合わせるように着ている衣装は、雨が降っているにも関わらず濡れていない……ヒラヒラとした不思議な服だった。
緑色の怪物は雪華の3倍あるサイズで、両手足があった。しかし、風船の様にパンパンに膨らみ、至る所から人の嘆きの声が聞こえてきそうな、顔が浮き出て……動いていた。
静かに目の前の怪物を見ながら雪華は歩きながら考える……救う方法が無いのかと。しかし、救えないことを本当は知っていて探している。
この怪物は、元は人だった……。
雪華は黒髪を揺らしながら頭を横に振り……迷いを払いながら、この戦いは自分がしなくちゃいけないことを思い出す。何故なら、目の前にいる怪物は雪華にとって大好きな。
「お兄ちゃん……」
そう呟いた雪華は泣きそうな程、悲しい表情をしていた。
お兄ちゃんと呼ばれた怪物はバイオバクテリア、生命を持った菌のせいで体を乗っ取られて……緑色の怪物となってしまった。
お兄ちゃんは極平凡な人間であり、そんな怪物になる様な事はない。本当になる要因があったのは……雪華の方だった。
世界特異人……日本で極稀に女性だけ、右手にドクロマークが刻み込まれて生まれてくる。
日本では少女が謎の怪物を退治するが、一定年齢で亡くなるという認識だった。
使命が2つあると言われている……1つは生まれつき持っている右手ドクロの呪いである。それは、特定の感情で増幅して黒い霧と共に出る怪物、感情異生物という存在だった。
感情で増幅するのはマークが付いている人によって異なり、一緒なのは感情や気持ちによってのもので……雪華の場合、恋というものだっただった。
雪華は幼稚園から突き離されていた。それは、ドクロマークが不気味な事による、子供にからかわれ……近づくと泣き出す子もいたのが、小学校になっても気味悪がれずっと変わらなかった。
その時に助けてくれた人物が、血の繋がりも無い……養子で家にやってきたお兄ちゃんだった。
あれから、最初の憧れという物からある気持ちへと変化した丁度1年前……自分の使命が何かも知り得ないまま、自分の偽りで言った一言で全てが変わってしまった。
怪物にもう1歩で気付かれるそうな位置で……もう1度、胸に手を当てて目を閉じた。そして……目を開けて言う。
「よし! 行こう!」
雪華は1歩踏み出す……未だ苦しみの中にいるお兄ちゃんを救うために。
ボナルドデッドは一定年齢で死ぬと言われている。それは、10歳から15歳までの……少女が自分の生み出した怪物にやられて、変色した状態で死ぬからだ。
使命と名ばかりの運命は、感情を抑え込む事で成り立っている。
ヴァハハハ――
それに反応するように、怪物が雪華に気づき……人の物では無い様な、太くこもった声で鳴いた。
雪華は1年前のあの事件で……死ぬはずだった。何故か、怪物を生み出してしまったからだ。
1年前は怪物も知らず、まして戦い方も知るはずも無い平凡な日々を過ごしていた。
「今、楽にしてあげるから!」
怪物を見てそう呟いた……。声だけでも強くしていないと、今の雪華は泣き出しそうな程、悲しい顔をしていた。
周りには1人の先輩がいた……その人から学んだ戦い方は、雪華にとって必要な物だった。
先輩は2ヶ月前に、いなくなってしまった……自分の生み出した怪物にやられて死んでしまったのだ。
怪物は雪華に求めるように、巨体で街を踏み荒らしながらゆっくり走ってくる。
先輩から死ぬ前日にもらった刀を下段に構えつつ、突っ込んでくる怪物に迎え撃つ様に走り出した。
先輩は抑えられない気持ちと感情に疲れていた。それは極自然の事で、耐えられる人なんているわけが無かった。
セッヴァァァ――
怪物が何かを、誰かを呼ぶような叫び声をあげながら雪華に左腕で殴りかかる。
それを横に避けつつ、雪華は刀を腕に突き刺して「はぁぁ――!」と勢い良く胴体の方に斬り裂いた。それに反応するように、片方の腕で雪華を殴りつける。
「ぐっ! きゃあ!」
片手でガードをしたが、力に明らかの差があり、2m程吹き飛ばされてしまう……道路から外れ民家に激突しても壁を突き抜け、何も無い地面に転がっていく。
怪物は追いかける様に飛翔する……大きさに似合わない身軽さで、雪華の近く着地をする。
立ち上がろうとして体を起こす雪華を片腕で、首を掴み上げる。
「くっ……、かはぁ!」
雪華の首を締める力は強くなっていくにつれて、雪華の瞳から雨が顔から流れ落ちる様に涙が流れる……。その時、雪華は諦めていた、私ではやっぱりダメなのかと……私には到底勝てるわけもなかったのかと。
怪物は一瞬だけ……一瞬だけ止まり、その後内部で何かが抵抗している様に首を締める腕とは別の腕で頭を抑えだした。
何やら先程の鳴き声と別な声が言い争っていた……。それは、今の体の主が何かの抵抗受けているかの様に、掴んでいた腕を離してまで、頭を掴んで体を暴れさせた。
セッカ……ツヨクイキロ……
「げほっ……げほっ……お、お兄ちゃん?」
怪物の抵抗する声に混じって何かが聞こえてきた声に雪華は、離されて地面に激突した痛みと首を締められた息苦しさで咳き込みながらも、反応をした。
その言葉は、消え入りそうに段々小さくなる声ではあるものの……力強く、誰かに語りかけるような声だった。
雪華はそれがお兄ちゃんの声だと分かった。それは何故か、彼女を呼ぶ時の名前と……何時もいじめられ泣いてしまってる時や、もう辛くて絶望している時でも優しく語りかけてくれた言葉だった。
ジブンニ……マケルナ……!
「私には無理だよ……だって……」
ヨワクタッテイイ……タダ、ジブンダケハ……
最後まで言い切る前に、声が完全に消えていった。だけど、雪華にはそれが伝わったのか……目を閉じて言葉を噛みしめるように、両手を強く握った。
怪物は抵抗が無くなったのか、最初と同じ鳴き声で雪華に振り向いた。
怪物が攻撃を仕掛けようとした時、右手の笑うドクロが止まり……ヒビが入った。ドクロは怪物を生み出すだけでは無い、持っている者の強い想いと共に反応し変化する。
「弱くてもいい……だけど自分自身には負けるな」
ヒビが入ると同時に雨雲を照らすような、眩しい光が雪華から放たれる……怪物は怯まず、殴りかかる。
それは、何かによって止められた……。それを止めたのは、雪華だった。
眩しい光が収まると共に、中から出てきた時には……先程の黒い衣装と髪では無く、1つの感情の様に赤く燃え盛る様な色でバラの花びらの衣装と髪だった。
「もう自分には負けない、例え勝てないと分かっていても……この気持ちを伝えるまでは死ねない!」
そう力強く言い放ち、怪物の腕を抑えている手を横に振り払うと共に、右手に持っている赤い衣装と合わせたバラの花びらをデザインしたような赤い刀身の桃色剣を……力強く掴んで怪物に突進していく。
右手にあったドクロは消えて……赤いハートマークが浮き出ていた。
ヴァァァ――!
懐に飛び込む雪華に、殴りかかった別の腕で掴みにかかるが……それを雪華の方が速度が早く怪物の体を蹴って、怪物の頭まで飛んだ……。そして、上段に剣を構えて「はぁぁ――!」と勢い良く振り下ろす。
切口と共に紫色の液体が飛び散り……衝撃によって、怪物は悲鳴を上げる。それでも、まだ動ける余裕があるのか雪華に対して攻撃を仕掛ける。
腕を叩きつけるように振り下ろす……雪華はそれを後ろに下がって避けてる。
「待っててね、お兄ちゃん……今、本当の気持ちを伝えに行くから」
彼女の熱い想いによってか、雨が止み始め……雪華は目の前にいる怪物の中にいる、お兄ちゃんに声をかけながら雪華は走り出す。
空振りし、地面から引き抜こうとする怪物の腕に雪華は横に一閃と斜めに斬りつける。
その時に鳴き声を上げながら、残っている片腕を雪華に向けて殴り掛かる……それを、雪華は腹の方に回し蹴りで腕を蹴り飛ばす。
ヴァ!?
着地して、怪物が怯んでる間に地面に刺さったままの腕を……両手で構えた剣で力強く「やぁ――!」と切断した。
切断された勢いで怪物は、後ろに倒れ込む……雪華はその隙を見逃さず、飛び込む。
しかし、突然怪物の空気が抜けるように突風が起きて雪華は地面に着地しつつ前を見る。
ヴァヴァヴァ!
怪物の笑い声の様な鳴き声と共に、ドロドロとした液体が怪物の下から溢れ出て……怪物の中からあぶれ出るように人が出て来る。
だけどそれは人と言える様な物ではない……体が半分溶け、緑色に染まり不気味な赤い瞳だけが光っていた。
数十を超える人はユラユラと立ち上がって、雪華に向かって物とも言えない様な物体を持ってこちらに走ってきた。
「はぁぁ――!」
それをちゅうちょなく斬り……怪物の方に進んでいくが、雪華の足が止まる。何故なら、怪物の姿は人と同じサイズで緑色に変色しつつも、形を保っていたお兄ちゃんだった。
その間も変色した人は襲いかかる、それを斬り払いながらも雪華の顔には涙が流れていた……。
どうしても、伝えたいことがあるように、雪華はその姿に叫ぶ。
「お兄ちゃん! 戻ってきて!」
ヴァハハ――!
その声は虚しく響くだけで、怪物の鳴き声と共に片腕を伸ばして……雪華に襲いかかる。
伸ばされた腕を剣で切り払うが、周りの人の様な物が黙って見ているわけではなく、雪華が切り払う瞬間を狙って……背中に1体刺さりその衝撃で雪華は怯み、また1体、2体と突き刺さる。
物体は服を軽々貫き、体からは血が流れ……口から「ごふっ」という声と共に血を吐き出した。
「まだ……まだ死ねない!」
血を吐き出しながらも雪華の目は火が灯っていた。雪華はもういない先輩に言われた事を考える……先輩は何時も傷つきながらも、戦いの痛みを耐えられたのか。
刀をもらう時……死ぬ前日に聞かせてもらった。それは、他の誰でも無い自分に負けないためだと。
痛みを感じても、苦しいと感じても先輩は負けなかった……なら、自分だって負けるわけはいかないと感じる。
「先輩……」
雪華はまだ負けられないと思い、そう呟いた……。その瞬間、遠くに落ちていた刀は消え……何故か、雪華の左手に収まっていた。それは先輩が最後まで助けてあげると言ってるように。
その刀も……シンプルで黒い刀から赤く、熱い想いを感じる物になっていた。
右手のハートが更に明るく光り……消えぬ炎の様に燃え上がっていた。
「負けていられるかぁぁ――!」
怪物は今度、2つの腕を伸ばしてきていた……それが届く瞬間に、雪華は自分自身に活を入れるように叫び、左手の刀で人を斬り払い、伸ばされた腕を右手の剣で片方を受け流し、もう片方を刀で弾いた。
雪華は自然と刀を腰くらいに、剣を頭の位置に怪物に刃を向けて構えた……それは誰にも教えてもらっていない構えで、体が勝手に動いているようなキレイさだった。
刺さったままの体から血が垂れ落ち、息も荒れてはいるが……雪華の目や表情には感じさせない程力が宿っていた。
「行く――!」
雪華は走り出す……途中にいる襲いかかる人を斬り払い、伸ばしてくる腕を受け流し怪物の目の前に到達して斬りかかる。
ここまで生きていた事は無駄なんかじゃない、この気持ちに嘘は無く……雪華はただお兄ちゃんに伝えたい事だけで動いていた。
1年前にお兄ちゃんに言ってしまった言葉……それは照れ隠しでつい口に出してしまった言葉。
――お兄ちゃんの事、大っ嫌い!
あの時の自分は馬鹿だった、素直にお兄ちゃんに伝えていれば、こんな事にはならなかった……と雪華は後悔していた。
だけど、後悔していては始まらないと先輩に教えられ、伝える為だけに戦い方を覚えた。
雪華は怪物の攻撃を避け、走っていく……怪物は焦った様に声を上げる。
ヴァ!? ヴァァ――!
腕を避けられ、近づかれる所に無数の触手を体から飛び出す……それを雪華は目を閉じて、剣と刀に意識を集中するように触手に届く1歩を踏み込み。
目を見開き、襲いかかる触手がスローモーションに見える程の速度で、流れる様に刀を腰から横と上斜めで斬り触手を減らし、剣は刀を振り終わった瞬間に肩から下斜めと横に振って近づき。
紫色の血飛沫が空中で止まっている様な静寂の間で、左脇に剣と刀を構えて一閃……。
ヴァァァァ――――!!
怪物は悲鳴を上げな腹が2つ線の様に斬れた。
そして、怪物は地面に落ちると同時に……緑色のドロドロの液体になって体を包み込んだ。その周りの人もドロドロに溶けては包んでいた。
怪物のドロドロの中から出来てきたのは……顔色が悪いが、お兄ちゃんの姿があった。
何時の間にか腹に突き刺さっていた物も溶けて、塞き止めていた物が無く……腹から血を流れていた。
それでも雪華は気にせず、お兄ちゃんに近づき何かを……泣きながら呟いた。
いつ間にか曇っていた空は、太陽の光が差し込むほど晴れていた。その光は、崩壊した街を照らし1人の少女を祝福する様に輝いていた。
――1年後
あの戦いから1年が経過した時、あれからどうなったのか。
雪華と……お兄ちゃんは生きていた。それは奇跡な様な物で、雪華は普通なら死んでもおかしくない出血量だったが、何故か問題なく今を過ごしている。
お兄ちゃんは、顔色が悪く意識も不明だったが1週間程で回復して、今も家で過ごしている。
ある家のリビングで……2人で住んでいる様に、イソイソと食事を用意したりしながら互いに支度をしていた。
雪華は学生服を着て、まだ若くスーツも似合っていないお兄ちゃんを見ていた……その顔は凄く笑顔で、心から幸せを感じている様だった。
そして……照れくさそうに少しもじもじした後に雪華は言う。
「お兄ちゃん、大好き!」
そう言った雪華の手の甲には……ドクロマークやハートマークは無く、白かった。
お読みいただいてありがとうございます。