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同級生の詩 完結  作者: 神邑凌
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同級生は表の顔と裏の顔が


「多分寺田が逮捕された事と関係あるのでしょうね。先日貴方と話していて、私が言っていた事が現実かも知れないわね。」

「そうかも。しかしもし春華の言うように考えたら、この時期に辞める?。体を張ってまで頑張って来て、今の状態を掴んだのに、僅か九ヶ月で辞める?何時までもしぶとく食い下がるのじゃないの?

 もし春華が同じ事をして採用された時に、その何もかもを知っている人が逮捕されたら、逃げるようにする、それとも隠れるようにする?」

「しないよ絶対意地でも勤めるわ。」

「そうだろう。春華のような裏表のない性格の者でも、そのような言い方をするのだから、かおりさんがこの時期にあっさり辞める事など信じられないと思うね。

この現実はこの出来事の裏にまだ他の出来事が潜んでいるのだと思えて来るね。

それは何か?」

「俊介、貴方前に奈良の吉野警察が日記帳を見たいと行って送ったって言っていたわね、

その吉野警察署は今どうなっているのかしら?

何故かと言うと、吉野警察署が寺田逮捕の後どうして居るのか知らないでしょう。吉野から橋本警察へ行って事情を話して、寺田を追及しているかも知れないでしょう。

 買収斡旋なんかより、殺人の方が大きな事件だから、そしてあの島谷動物病院へかおりさんを訪ねて行っているかも知れないし、

だからもしそうなら、かおりさん居られなく成ってしまったって事かも知れないと思うわ。」

「いい事思いついた!春華、君の誕生日に旅行しない?」

「いいよ。仕事も終わっているから。するよ何処へでも」

「四国へ行こう」

「四国それって高松って言いなさいよ。かおりさんの所って。何も私の誕生日に行く事ないじゃない?」

「でもいいじゃない探偵さんとしては、一番有意義に一日を送れると思うよ。」

「とか何とか言って。」

「だからプレゼントは四国までのバス代を往復って事になるね。

後向こうで食べるうどんを思い切ってご馳走するから」

「うどんね。この前はそばで、今度はうどんか~まぁいいか。」


「今でもあると思うのだけど、大阪の難波から高松まで直行バスが出ているからそれで行こう。片道四千円あればお釣が来る程だから、安く行けるよ。それで行こう。和歌山から徳島へフェリーって方法もあるけど、でも年末だからバスで行こう。」

「ええ任せておくわ。」


 二人は急遽高松に行く事を決めた。

それでかおりの住所を知りたかったので、二宮明日花に電話を入れ住所を教えて貰う事が出来た。

高松市八栗寺と言う所であった。

十二月の吹き曝しに向かうようにしてバスが走っていた。大阪市内から神戸方面にバスは向かい、あっと言う間に明石海峡大橋に差し掛かっていた。


「綺麗ね。海、いつも見ている景色と又違うから心が休まるわ。」

「そう?」

「そうって何よ?」

「春華はいいね。観光気分なんだから。」

「そりゃ私の誕生祝なのでしょう、此方へ来たのは?」

「本当にそんな事思っているの?探偵さん」

「俊介が今思っている事言ってあげるわね。かおりさんの顔を浮かべて、どのように切り崩すのか考えているのでしょう?

飛んで来たのはいいけど、時期尚早ではなかったかと、

図星でしょう?」

「あぁ」

「だから景色も見えない訳ね。ほら綺麗ですよ、お客さん。これが瀬戸内海、前に見えますのが淡路島。あの遠くにかすんでみえるのが四国、高松は調度あの当たりかな」

「九州生まれの君に説明して貰わなくっても、分かるから、その程度の事は」

「でも景色なんか観ている場合じゃないって思っているのね」

「まぁ・・・」

「今回は何を聞きたいとかじゃなくって、貴方の気持ちを見せる事が大事じゃないの」

「気持ちを見せる?」

「『そう。逃げても隠れても駄目です。そのような事で僕と幸村の友情は崩れません。

 だから一部始終を話して下さい。貴方があの日、若しくは前日の夜、幸村に弁当を作ってあげたその時の事を。何もかも包み隠す事の無いように。

それを聞かせて戴くまで、僕は貴方を地の果てまで追いかけますから、勿論あの日に何も無いのなら、親切でしてあげた事にケチを付けるなんてと思うなら、そのように言って下さい。

 そのうち捕まった寺田洋介も何かを自供すると思いますから、何もかも判るでしょう。真実は一つなのですから、そして間違いなく事実が在るわけですから、その事実を知りたいのです。かおりさん。』俊介、今貴方はこのような事を話さないと。」


「へぇ春華、さすが探偵さん。」

「わかった。それだけなのよ今言わなければならないのは。だから、高松へ着いたら、一番に考えなければいけない事は?俊介答えなさい。」

「そりゃかおりさんの実家へ行って、今の話をする事。」

「違うでしょう?高松へ着いたら、美味しいうどんの店を見つけ、大好きな春華ちゃんの為に、美味しいうどんをご馳走する事でしょう?」

「あぁ分かったよ。口うるさい女・・・」

「うふぅ。探偵でしょう。」


高松に着いて、

それからタクシーで走ったあと、三十分もかかり、早瀬かおりの実家を探した。

強張った顔で出迎えてくれたが、さすが彼女から『ここでは困ります。』と口にされ、外へ出る事にした。

海辺の誰も居ない所の陽だまりを見つけ、三人は腰を下ろす事にした。

ブロックが風を遮っていて、陽に射されていたので暖かくさえ感じた。

「早瀬さん、僕らをこんな所まで来てしつこいと思うかも知れませんが、分かって下さい。どんな事があっても真相を知るまで、突き進む覚悟でいます。


 何故幸村が死なければならなかったのか、単なる事故か、それとも何か外部から何かが働いて、それが原因で彼は死んでしまったのか、そこを知りたいのです。

貴方も僕の立場に成ったらわかって戴けると思っています。

あの日の前日、貴方と幸村で買出しに行った。それはあくる日に、幸村が奈良の上北山って所へ釣りに行く事を伝えられていたから、弁当を作ってあげる為に。。


その夜多分早朝って言い方でいいと思うのだけど、彼は貴方が作った弁当を後生大事に持って、車で北山を目指した。

そして日記に、俺はどれほど幸せか、ありがとう かおりと書き込んで、そして死んでしまった。

 貴方と幸村は二年前の北海道研修で仲良くなって、それから二年間の間に、二人で出かける姿や、幸村の側で居る貴方を、僕は嫌と言うほど見て来ています。

多分彼が亡くなる頃も、二人で車に乗って出かける姿も何度も見ています。


二人でパチンコをしていた姿も知っています。買い物をしている姿も、喫茶でくつろいでいる姿も、僕と春華が一緒だった事も、一度位ならあった筈です。

その貴方が寺田洋介とJR和歌山駅で待ち合わせている姿を、僕は見かけました。彼女も見かけています。

それは幸村の追悼登山で奈良の高見山へ行く迄の事でした。

寺田が貴方を抱き寄せているのも僕は見ています。

実は僕はあの近くの、バス停があるその前を通り過ぎて、次の通りを左に曲がれば親戚があり、元々そちらで下宿させて貰う予定だったので、よく行く親戚が在るのです。父の妹が嫁いで居るのです。

だから貴方を見かける事に成ったのです。


その貴方の姿を見かけて僕はとても辛いでした。

幸村に何と報告すれば良いのかと思うととても辛いでした。

男と女の関係は、こんなものであるのかと自問していました。

貴方はそのような人であったのか、それとも先日紀州新報に出ていたような事が、事実であったのか、その事に絡んでいるのか、本当はどうなのですか?貴方の口から教えて貰えませんか?

事実を知りたいのです。それを知りたくてこうして来させて頂きました。


 貴方は九州の彼の家に行かれると、以前言っていましたが、その気持ちは今でもありますか?熊本駅からバスと電車に乗り換え、三時間はかかる片田舎です。

幸村は僕なんかより、貴方が来てくれる事を望んでいると思います。違うでしょうか?」


 田川俊介の言葉に、早瀬かおりは俯いたまま涙を流し始めた。

「かおりさん何か言って戴けませんか? 何か言わなければ成らない事があるのではないでしょうか?

この春に折角採用された島谷動物病院を、何故今辞められたのですか?その事も知りたいです。

僕は今でも貴方が山岳部の仲間だと思っています。退会された事は事実ですが、もし幸村が生きていたら、貴方は絶対退会などせずに、今まで通り楽しく行事に参加して下さり、有意義な一日を幸村と、そしてみんなと過ごしてくれていたと思っています。

だから退会された事は事実でも、僕の心の中では認めていないのです。


 それは幸村が例え死んでしまったからと言って、友情が終わった訳ではないからです。寧ろ何時までも永遠に続くからです。

貴方と幸村も同じであってほしいと思うのです。僕の考えは甘いかも知れませんが、でもこの考えで、これからも生きて行く積りです。

僕は春華と今付きあっています。貴方と幸村が付き合い出した同じ頃からです。春華の事を、これからも同じ気持ちで付き合いたいなと思っています。

それが友情であり、恋であると僕は思って居ます。


かおりさん僕らは知らない事何も無いのでしょうか?何かがあれば教えて下さい。」

「・・・」

「かおりさん。」

「・・・」

「かおりさん。僕らは、貴方が何も言ってくれなくても、帰るしかありません。貴方を羽交い絞めにして連れて帰る事など出来ません。

でもはっきり言っておきます。幸村が、この三年間の出来事を彼が日記に書き綴っています。

その日記は今奈良県吉野警察署にあります。そして一部始終を視て検証されて居る筈です。

それは上北山村で死んでいた幸村の件で、再検証しているのです。勿論僕がそのようにして戴きたいと言った事も、きっかけに成っているかも知れませんが、

それより貴方がよく知っている寺田洋介が逮捕されたから、それで僕が持ち込んだ幸村の日記が、疑義案件になって、吉野警察署が動き出した事が一番の原因です。

だから今日にでも貴方を訪ねて、吉野警察署の刑事さんが来るかも知れません。


 それは僕が言い始めた事ではありますが、貴方が答えなければならないのは、寺田との関係が第一に答える事に成るでしょう。

正直に言って下さい。僕らと相手が違いますから、黙っていて通せるものではありません。

かおりさん、ここまで言っても何も言って戴けませんか?」

「・・・」

「僕らはこうして遠くから来させて貰いました。何かを聞けると思って、これだけ言っても無理ですか?」

「・・・」


「では帰ります。かおりさん変わりましたね。貴方のお友達の二宮さんも心配しておられましたよ。

そしてこの前僕もあの方も貴方の事が心配で、お互いに貴方に出来る事が在ったら力に成ってあげようと話し合った所です。

心配されています。

では僕らは帰ります。寒い中長い間、時間を取らせて申し訳御座いません。年末の忙しい時に。」

「ごめんなさい。失礼します。」


かおりが口にした言葉は、お邪魔した時に、玄関先で、

「ここでは困ります」と言っただけで、帰り際に、

「ごめんなさい。失礼します。」と口にしただけであった。

終始無口を貫いていた春華が、駅に向かって歩き出しながら、不満そうに口にした。


「重症ね。かおりさん。あれって何?辛いよね。誰かを庇っているのか、それとも自分自身を庇っているのか、それとも何か大きな組織を庇っているのか、寺田洋介を庇っているのか、それとも寺田に脅されているのか、それとも、それとも、あ~ぁ わかんない。まるで亀ね。」

「それを言うなら貝だろう。私は貝に成りたいだろう」

「そうだった。」

「さて腹ごしらえ、腹ごしらえ」

「そうね。おうどん食べよう」

「とりあえず高松駅に行こう。そこで美味しそうな所を見つけよう。」

「ええ」

「タクシー」


 二人は高松駅に着いた。

駅前の看板を眺めながら美味しそうなうどん店を捜していたが、大きくて綺麗な看板に目を奪われた俊介は、その場に立ち止まって、それをじっと見上げた。大きな看板には、

『夕陽の綺麗なリゾートホテルオリビアン小豆島』と書かれていた。

そして若い男女が笑顔で写されていて、何処までも広がる芝生の上で結婚式を挙げている姿であった。


じっと見つめていた俊介を、春華がその俊介を見つめて、

「何を考えているか当てて見ましょうか?私にウエディングドレスを着せた姿を想像しているのでしょう。綺麗な姿を・・・」

「・・・」

「『いい人にめぐり合えました。神様 感謝申し上げます。』って。」

「・・・」

「違うの?」

「幾らいる?」

「何が?」

「宿泊したら?」

「何よ?現実的」

「頑張ろうか?」

「何を。まさか泊まるって言うのじゃないでしょうね?」

「無理?」

「無理じゃないけど。」

「じゃあ行こうこのホテルへ。」

「まさか?」

「フェリーに乗れば直ぐに着くよ。

春華の誕生日だから思いっきり羽を伸ばそうよ。ボーナスが消えるけど。サプライズ、サプライズ。」

「ありがとう。嬉しいわ。本当にマジで?」


二人は迷うことなくフェリーに乗った。

約一時間船から降りた所で、ホテルの送迎バスが待っていてくれたので、思いのほか簡単にホテルに付く事が出来た。

客室が百室もある大きなホテルであった。

結局うどんがホテルの豪華な食事に変わり、春華が涙を浮かべて感激するひと時に成った。

その後満腹に成ったお腹で、

ホテルの周りを散策しながら、広大な敷地に張り巡らされたテニスコート、そしてミニゴルフコース。さらには一番気に成っていた結婚式を執り行うチャペルが中央に、申し様の無いスチュエーションに、二人は心を躍らされた。


澄み切った空気を胸一杯に吸いながら、ホテルの周りを歩き続けた。

少し寒くなって来てホテルの中に入り、

「お客様、三階の十七号室で御座います。どうぞ、ごゆっくりお寛ぎ下さい。」

元気のいいフロント係が照れる二人に笑顔で口にした。

「ねぇ今日って私の誕生日?それとも二人の為の記念日?」

「どちらでもいいじゃない。春華が喜んでくれれば僕は嬉しいよ。」

「ありがとう。ボーナス可成り無くなるね。お気の毒。私たちまだ新米社員だから」

「いいって、こんな事をしたいから、僕らは生きている意味が在るんだよ。頑張って、頑張って働いて、好きな人にいい格好して、格好いい所見せて、恋をして、思い切り抱きしめて。」

「そうね。今夜のスケジュールは今の言葉で全部読めたわ。うふぅ。」


夕方になり、

正しくこのホテルの売り物に成っている夕陽には、驚くばかりであった。

その美しさは一言では言えないと言うのか、口にしたく無い真っ赤に染まった光景が続いた。

「溶け込んで行きそう。」

それだけを口にするだけで精一杯であった。


夜になり、又探偵さんが、

実は俊介は、今夜くらいはこの話を避けるべきと、彼女に嫌われると考えていた。

予想外に春華からその言葉が出た。

「かおりさんあの人最後どのようになるの?」

「隠している内容によると思うな」

「それって怖くない。何か不吉な予感がしてくるわ。私が思うには、彼女は係わり合いになりたくなかったのであって、被害者なのかも知れないと思っている節も在るの。だって仮に彼女が幸村さんを殺したとかだったら、今の時期に此方へなんか帰らないと思うの。そんな事より社会人に成って実際生きてみて、そして嫌な思いも十分させられて、それで嫌に成ったのじゃないかと思うの。


それは彼女がJR和歌山駅で見せた顔に出ていたかも知らないわ。あの暗い表情が語っているように思うわ。それが今日も同じだった。同じ様な暗い表情で私たちに接していたわ。

今まで見て来た以前のかおりさんとは全く違うわ。


私は彼女と話をした事が一度も無かったけど、幸村さんや貴方と、話をしている姿や表情を何度も見ているわ。でも今はそれとはまったくかけ離れているわ。」

「春華一度この話を整理しようね。

僕たちが分かっている事と言えば、幸村が書き残した日記と、かおりさんが示している動向で何もかもを判断しているね。

ここに無理があると思うのだけど、でも仕方ないから今ある立場で頑張らなきゃしょうがない訳だ。


もし僕が警察官なら簡単に済む事でも、決してそのようには行かない。

かと言って今例えば吉野警察に状況を教えて下さいと言っても教えてなんかくれないと思う。

 だから判っている事でその殆ど推測で進めているような気もするけど、さりとて何も摑めていないかと言えば、何かを確実に摑んでいる事も確かだと思う。

先ずかおりさんについて、今一度見直す事にするね。

これから思い切って僕の推論を言うから聞いてくれる。


 二年前に幸村と知り合いになり相思相愛に成った。

それから二人三脚の大学生活が始まった。

愛を確かめあって二年近くの日々が過ぎた。

二人とも四回生になり、就職活動をしなければならなくなった。

ある日かおりさんはどんな用か分からないが、事務局に用事があり、行くと事務局長に声をかけられた。


《就職大変だね。時代が悪いよ。君の名前は早瀬かおり君だね。もし君が望むなら一度私の所へ来なさい。心当たりが無いでもないから。

君の書類をたまたま見させて貰って、少しは把握しているから、駄目もとで来なさい。そして事務局長の部屋を訪ねて、

生まれは四国高松で将来は故郷に拘らない。詰まり大阪でも和歌山でも、これ以上東でなかったら構わないんだね。

力になってくれる方を紹介してあげるから、駄目もとで話を聞けば・・・》

「ありがとう御座います。」

《その人は二週間に一回ほどここへ来るから、その時に話を聞かせて貰う事にしておくから。

でも駄目もとだから誰にも言わないほどいいと思うよ。

貴方が辛い思いをしなければ成らなくなるから。》

「わかりました。誰にも言いません。正直中々就職先は無いようです。まだこれからの事ですが、先輩たちを見ていますので。」


《そうだね。これだけ経済も何もかも冷え切って来ている現状ではね・・・今年も可成の残留組が出るだろうね

民主党政権では話にならないからね。

カットカットを手柄のようにしているのだから、誰も財布の紐を緩める者など居ないからね。》


こんな会話をたまたま事務局長と在って、それから寺田洋介が登場する。

しかしその話はかおりさんにすれば、たまたまであったが、事務局長にすれば熟慮断行したターゲットであった。


かおりさんが、

その条件は、地方の出身である。将来ふるさとには拘らない。女としての魅力が大いに在る。口が固い大人の女である。かおりさんがこのような条件に当てはまる選りすぐりの女であった。

そして寺田と出会う事になった。


しかし大学ではなく、可成大き目の喫茶店へ行く事になったかおりは、そこで何もかもを知る事になった。

「貴方の彼氏幸村さん。古い車に乗っていますね。でも彼も貧乏学生だから、良く頑張っている方ですよ

貴方を乗せて煙の出るような車で、でも貴方も決して裕福でないから、実家に迷惑など掛けられない。就職が決まらなければと考えると頭が痛くなりますね。


しかし昨年は三割以上の学生が、弾き飛ばされているわけです。

まだ貴方の大学は特殊だからましかも知れないけど、経済学部などを専攻している一般大学は、話にならない学生が多く居て悩みの種ですな。

ところで本題に入りますが、貴方の就職先を私がお世話いたします。

今私が口にする事を守っていただけるなら、間違いなく貴方の将来が決定です。勿論立派な所へ行って戴きます。二年に一回は海外旅行を実施している所です。


 勿論毎日貴方の好きな動物とも接す事が出来ます。

世話もして戴きます。

お給料は平均の一倍半と思って戴いても構いません。

詰り他が二十万なら貴方は三十万と言う事です。

場所は大阪和歌山奈良と思って下さい。

当然宿泊施設も希望があれば考えます。


大体お分かり戴けますか?」

「はい。でも何故私にそのようないい話を?」

「貴方が選ばれたのです。貴方が誰よりも条件があっているから選ばれたのです。」

「誰が選ぶのですか?」

「事務局長です。そうです。貴方を推薦されたのです。」

「何故ですか?」

「ではこれからお話します。


貴方の事も彼氏さんの事も、全て調べさせて貰っています。銀行残高でさえ殆ど承知しています。二人とも貧乏学生である事も。

しかしお二人はこれからどのような生き方を選ぶのですか?

貧乏学生の延長で、生きていかなければ成らないかも知れません。

二人とも勤め先が決まらなければ、どのように成るか判るでしょう。就職に躓き挙句の果てに水商売に走る子だって可成います。当然身を売る子も


 しかし大学まで出て実にもったいない事です。

今目処めどが立てば、これからの一年が何も苦にする事無く過ごせるのですから、こんなにいい事は無いと思われます。

貴方が選ばれた事に自負して下さい。

ミスコンテストで選ばれた事と同じなわけです。

ミスに成っても、それから歩き方も化粧品も自腹だから、それは名誉を自分で買うようなもので、聞こえはいいですが、内面では大きな借金が出来るのですから、誰にも出来ないと言う事です。


心の中までミスではいられないのです。

でも今私が言っている事は、そのような話ではありません。貴方に素晴らしい就職先を世話したいと言っているのです。

ただ、これからの一年間で何回か私の言う事をして戴かなければなりません。

それは難しいとかと言うものではありません。」

「何なのですか?」

「それを言う前に、私は貴方に訪ねたい事は、貴方は今の話を聞かれていて、どのように思われたかです。


貴方が思われた事が、私が思っている答えと、まるで違っていたなら、それは私のと言うより、事務局長の判断ミスと言う事ですので、この話は無かった事にさせて頂きます。

 勿論ここのお茶代とケーキ代は、私が持たせて戴きます。

それでは貴方のこれまでの話しの感想をお聞かせ下さい。」

「上手く言えませんが、若しかして結構やばい事をするような気もします。

何故ならあまりにも条件が良いからです。

私は自分は何か優れているとは思った事などありません。仰るように貧乏学生です。

幸村さんも同じです。彼の場合は大学生と言いながら、飲食店のバイトに浸かったような生活です。

車も十年前の車と言っています。正直お金はほしいです。勿論明るい将来も。


そうでないと彼とも別れる日が来るように思います。

情けないけど、これでも活気ある社会なら、就職で悩む事も無かったと思われます。遠い昔の様に集団就職が出来た時代なら。」

「それで貴方の覚悟は?」

「在ります。覚悟します。そうでないと埒が明かないと言うか、前へ進めないのなら、その代わり貴方が今までに仰られた事はお守り下さい。」

「そうですか。口にした事は全て守ります。

では具体的に言います。


貴方は今後数人の大事な人と付き合って戴かなければ成りません。

その都度五万円ほどのお金を差し上げます。

その行為は卒業までに十数回行って戴きます。

彼氏さんには絶対秘密でお願いします。洩らされたら一切払いません。全て無効です。

何故なら対象になる方は皆さん妻帯者ですから、又社会的地位が上の方が殆どですから、例えば貴方の大学の事務局長のような。


絶対秘密である事を守れないなら、この話は無かった事にします。詰まり就職の事は先ず絶望と思って下さい。勿論彼氏さんも、でも貴方が頑張って下されば、彼氏さんも道が開けるかも知れません。

貴方が何もかもを承知して戴けましたらお電話ください。そしてJR和歌山駅でお待ちします。》


そしてかおりさんが承諾してJR和歌山駅に出かけた。

その後、

「来て頂けましたね。じゃあ行きましょう。とりあえず走りますから。」

「何処へ行かれますか?」

「とりあえず今日は色々お話がありますから、静かな所へ行きましょう。」

「分かりました。」

「そうですか。かおりさんは大人の女性ですね。物分りがいい。今日は貴方が働く所へご案内致します。只外から見るだけです今日は。

でも次回は代表者に会って戴きます。今日は貴方の本気度を見たいですので。」

「分かりました。」



 こうしてかおりさんは寺田の思うままに嵌められて行ったわけ」

「へぇーよくもそのような事を考えるわね。面白い、面白い。この話まだ続きがあるわね。続きを聞かせて。」

「折角ボーナスを叩いて叩いて泊まったのだから、もっと他の事をしたいのだけど、続きがいい?まだ続ける?」

「わたし、他の事はいらない。続きがいい。」

「でも飽きたら、もういいって言ってね、直ぐに止めるから。僕は他の事をしたいから。」

「他の事って、明日朝十時までにしたらいいのでしょう。チェックアウトまでに。はい続き続き。」

「わかった。続けるよ


それでかおりさんは寺田の言うままに動く事に成った。

その日に五万円を手にした事で、後悔する事もなかった。ラーメン一杯さえおごって貰えない男女関係であったから、二年弱の間に鬱積しているものさえあった。


夜遅くまでアルバイトに精を出しながら、何時も貧乏な幸村に少々愛想を尽かしていた時でもあった。

それは彼との将来を思うと痛し痒しな心境でもあった。

それからも寺田の指図でかおりさんは動く事になった。

和歌山県橋本市の学校で賄賂を受け取り、今回逮捕された河内長野市の赤木泰蔵も、かおりさんが相手にした男かも知れない。


 JR和歌山駅で何度か見たかおりさんは、寺田に言われるが儘に行動をしていたのだろう。

そして今回寺田が逮捕された事により、かおりさんは自分に火の気が及ぶ事を恐れて、言わば逃げたのだろう。


それは幸村がまだ生きていた時から、寧ろ彼の日記によると、亡くなるずっと以前の六月ごろには、かおりさんは寺田の話に乗っていた事が想像出来、彼女のテンションが高いとか、化粧水が代わったとか、気になる事を書き綴っているのは、やはり寺田や他の男と付き合い出してからだろう。

そしてその頃に成ると、幸村の事が面倒に成って来て、貧乏臭いのが嫌に成って来て、

それで寺田にベッドの中で相談すると、寺田が口にした事は、

「バイアグラって知っているね」

「ええ聞いた事あります」

「でもその反対の薬知らないだろう?」

「知りません。」

「その薬を彼に飲ませるんだね。」

「そうしたらどうなります?」

「役に立たなく成ってくる。だからかおりさんを求めなくなってくる。そしてそんな人嫌だと言っても、彼はなんとも思わなく成ってくる。」

「そんな薬あるのですか?」

「ある。」

「でも・・・」

「彼が怒らなくなればいいじゃない。役に立たなく成ってくるのだから。」

「・・・」


「それを飲ましていれば、自然に離れていくから。

薬は私が用意するから。彼は釣が好きだと資料に載っているね。それも渓流釣り。

あれって結構危険だから、そんな事をする彼氏は、女性の事なんか、お構い無しに結構心配をかけるから、女の子はそんな彼氏は避けないと。

でももし釣りに行くって言ったら、その薬をおにぎりの中に入れて食べて貰いなさい。

全く害なんか無いから安心して。

それに誰にも分からないから、かおりさんが黙って実行すれば、思うように成って行くから。」


こんな会話を交わした。


 そしてかおりさんは、六月四日幸村が釣りに行く事に成ったから、薬を用意して、それでおにぎりを作ってあげるからと、二人で買出しに行って、その後直ぐにおにぎりを作り幸村に手渡したわけ。

幸村は何も知らず、上北山村へ行き、そのおにぎりを全部食べ、満腹になって釣りを再開したが、天候が急変して激しく雨が降り、しかしたらふく食べたおにぎりに、実際は睡眠薬のような薬が仕込まれていて、それはかおりさんが寺田に貰った薬を、寺田が言うままに仕込んでいて、

だから朦朧として来て、しかし雨は激しく成り、雨宿りをしていたが水かさが増して来て、川の側にあった小道のような所らが、水かさが増した事によってその殆どが隠れて、帰るには上る時に通った所を通れなくなっっていた。


無理をして下り続けたが、神経がぼやっとして、頭も可笑しくなり、とうとう幸村は足を滑らせて頭を打ち、更に滝壺に濱って息を引き取る破目になった。

そして更に雨は土砂降りになり、彼の体は岩の下とか、発見されない所に沈んで、約に二ヶ月が過ぎた夏になってから、台風で弾き出されて大きな岩に引っかかって、民宿の木下さんによって発見された。


こんな所です。」

「長かった!。

でもその薬って見つかれば罪に成るでしょう。例え死んでいたとしても、検死をすればそぐに分かる筈だから。」

「いや、多分罪にならないものを使っていると思う。何故なら、もし幸村に分かって問い詰められても、薬なんて六時間経てば殆ど消えるように成っているからね。そりゃおしっこをすると分かるけど、また血液検査をすれば分かるけど、本人が生きていれば、何ら問題などに成らないと思うよ。」


「じゃあ何故?そんな微妙な事をするの?」

「だから僕の推論では、あわよくば崖から落ちて骨折でもすればいいのにと思ったのかも知れない。」

「誰が?かおりさんが?」

「いや寺田かも知れないな。寺田はかおりさんを自分の女にして、支配下に置きたかったと思うな。初めにいい格好して五万円払ったから、悪い癖がついたから。仲間にする積りだった。」

「へぇー随分飛躍して来たね。」

「何か反論が御座いますか?」

「詰り貴方は親友の幸村さんが、ゲームの様に虫けらの如く殺されたのであると考えているのね。」


「そうだね。かおりさんが一枚も二枚も上だって事。上と言うより悪だったと言うほど正しいかな。

所詮山奥で育った純朴な幸村が、愛した女にしては相手が悪すぎたって事だね。」

「俊介の推論がここまで飛躍すると、合っているのか間違っているのか、私には分からないわ。頭が痛く成って来たわ。お風呂に入るから。覗きに来ないで。」

「それって一緒に入ろうって言っているようなものじゃない。」

「日本語を間違えないで下さい。さようなら。」

その夜、

磯村春華が言っていたように、翌朝十時のチェックアウトまでの間に、二人の間にはふか~い思い出が何度も出来た。

帰り道来る時は見えなかった絶景が、バスの中から十分見る事が出来た。


もう一度来たい所と言われれば小豆島と、朝の二人は即答える事が出来た。

俊介にとって当たり前のような思い付きであったが、後の二人に大いに影響を与える出来事であったと、俊介は一人でほくそ笑んでいた。

しかし僅かの一時金的のボーナスが瞬時に泡の如く飛んでしまった。

それはホテル代が高かったわけではない。リーズナブルであったが、ボーナスが一年目の社員には印だけであった事が何よりも原因であった。


平成二十四年がスタートした。

口のついた動物を飼っているのだから、その世話は大変なものである。口がついていると言う事は、休みが無いと言う事で、二十四時間三百六十五日気を許せないのがつねである。

田川俊介も磯崎春華もその事は十分承知であるが、大学に行っていた頃のような、小頭数であった頃のような訳には行かない。


お金儲けが絡んでいる限り妥協は無い。

息を引き取る子も居れば、家に帰らせて貰えない厄介な子もいる。寝る事さえさせて貰えない子もいる。

人間に勝る動物などいない


しかし彼らは裏切らない。

もしそのような現象が起これば、それは裏切りではなく知識不足である。

それが人間より劣る知能を持った生き物と言える。

それは人間にある多くの感情の内の、僅かしか彼らは持ち合わせていないから、単純であるが、それが良さであり、人間が好きになる要素でもある。

 だから人間も、色々な感情がまだ出来ていない子供の頃に動物の事が好きになる。その頃は裏切りや憎しみ、更に疑いや妬みなど持ち合わせていない。彼らは生涯このようなものを身に付ける事無く全うする。


その現実が堪らなく素晴らしいと思うから、大人に成っても彼らと関わるものが居る訳である。

俊介も春華もそのような性格なのだ。

その二人は新年から慌ただしく仕事に追われていたが、何故か心の中で燻くすぶるものを感じていた。

それは正しく早瀬かおりが幸村貞夫の心を、踏みにじった裏切り行為を懸念している事であった。


そしてそれと同時に高松まで、言わば逃避してしまったかおりの、その後の生き方が気に成って来ていた。

それは何となく不吉な予感さえした。

かおりがいよいよ袋小路に追いやられて、逃げ場を失ったならと思うと、心の中が騒ぎ始めたように思えるのだった。


その気持ちは俊介も春華も全く同じと言っていい程、初詣に神社に参る事になった二人は、その事で話が弾んだ。

「何故かあれからかおりさんの事が気に成って、気に成って、」

「ええ私も、だって不気味だったでしょう。何一つ口にしなかったから、私なら耐えられないわ。あれからずっと心のどこかに引っかかっているのかおりさんが。」

「僕もなんだけど、あのホテルで変な推測をしてから、余計に頭が可笑しく成って来て、色んな秘密を知ったかおりさん、命を狙われないかと考えたりして、まぁそれは冗談だけど。」


「でも冗談では無いかも知れないわ。彼女あんな風に実家へ戻って、逃げるような気持だったのか知らないけど、何もかもが表沙汰にされれば、当然親御さんにしてみれば、恥を掻かなければならない訳でしょう。

そのように成ればみんな辛いと思うわ。

そして又かおりさん、出て行かなければ成らなく成って来る筈よ。

こんな事を繰り返していると、人間って狂ってしまうのよね。弱い動物だから。アニマルパークで飼っている動物で一頭たりとも恥をかくものなど居ないわ。勿論騙すものも居ないわ。」

「こう成って来ると、逮捕された寺田洋介が何かを口にしてるかかも知れないね。」

「そうね正しくかおりさんが何かを知っている事は間違いないから。」

「春華、あの人と会ってみようか?会ってくれるかわからないけど」

「あの人って?」


「紀州新報の記者。名前はほらコラムを書いた人。家に新聞取ってあるから分かるよそれは。」

「その人に会ってどうするの?」

「だからあんな人は警察に常に出入りしているから、色んな事知っていると思う。逮捕された寺田のその後の事も赤木の事も。」

「俊介、只聞くだけじゃなくって情報を此方から提供してあげるのよ。  幸村さんの事もかおりさんの事も。そして我々の事も。勿論その代わり知っていることを教えてほしいって、友達の為に心配だからって」 

「そうだね。その線で進めようか?」 

「ええ、それが何となく正道って感じ。」


翌日、俊介は休み時間を利用して、紀州新報の大林幸一記者に電話を入れた。

「紀州新報です。」と思いのほか年配の方と思う声が返って来た。

「大林幸一さんて方にお話が御座いまして」

「あぁ私です。」

「ちょうどよかった!

私紀州アニマルパークで働いています田川と申します。先日コラムを読ませて頂きまして、内容は。【この事件は何を語る】と言うタイトルでした。海南市の寺田と言う男が、公立高校の事務方に賄賂を渡していたと言う内容でした。


又賄賂を受け取った男が女子大生もあてがわれたと言うショッキングな内容の記事です。」

「えぇ私が書きました。」

「それでその続きを聞かせて戴けないかと思いまして、その話はもっと深いものである事を、お聞き戴ければ分かって貰える筈です。

私などが頑張っても力に限界があり、貴方のような方なら、警察でも情報を得る事も出来るでしょうから、今私が知っている事を話しますから、貴方のお知恵で整理して頂けないかと思いまして。


あの逮捕された寺田と言う男は、私が通っていた大学にも再三出入りしていたようですし、あの人に関わっていた女性も知っていますので、お教えしますと言うより、力に成って戴けないかと思います。

その知っている女性は、犠牲者かも知れません。そして助けを求めているのかも知れません。

賄賂を受け取って捕まった赤城と言う河内長野の男と、関係を持たされたのかも知れません

そしてあのコラムが出て、若しくは寺田が逮捕された前後に、同じくしてその女性は職場から去っています。」

「たがわさん。」

「はい。」

「その話はまだまだ続きそうだからお会いしましょう。そして一部始終をお聞き致します。」


後日、紀州新報の大林幸一に田川俊介も磯崎春華も仕事が終わる時間に会う事になった。

「大林で御座います。歳は五十三歳になり

それでも恥ずかしながら今だに反骨精神でコラムを担当しています。

私が書いた記事でどなたかが悪い影響を受けたと成っても困ります。善良な県民を傷つけるような事があっては意味が御座いません。

寧ろ偽善行為に成ります。何時もそのように考えて文章を作らせて貰っています。まず関心を持って頂いたことに感謝申し上げます。読んで頂くほうがいてこそ成り立つ仕事ですから」


「僕は貴方に電話させて頂いて良かったと今改めて思っています。

このように若造が二人で探偵のような事をして苦しんでいる次第です。実はあの先日逮捕された寺田と言う男を僕は何度か見ています。

それはJR和歌山駅のバス停でです。僕の知っている女性がバスから降りて待っていると寺田が来て、乗せて行く姿を二人で三度見ています。

それは今は一月ですから一昨年の秋頃からです。

貴方が書かれたコラムの中でその事がありました。女性を賄賂代わりにしていたのだと思います。

私の知っている女性も、同じ事をしていたのじゃないかと想像出来ます。

その女性とは私の通っていた大学の同級生です。同じ山岳同好会にも入っていた人です。


しかしこの話はそれだけなら、軽い女で済む話かも知れませんが、その彼女には相当親しい男が居ました。名前は幸村貞夫と言い、九州熊本出身の大らかな性格の男でした。

その男は私にとっても特別で、とても親しかったのですが、平成二十二年六月五日に釣りをしに奈良の山深い渓谷へ行って亡くなりました。


しかし発見されたのは既に夏になっていて、台風による相当な豪雨で、岩に絡むように成って発見されたのです。

既に一部が白骨化していて、捜索願いも出していましたがとても辛い結果に成った訳です。

ところがそんな事があった時から僅かの間に、彼と付き合っていた女性は、他の男とデートを重ねていたわけです。

二人の関係は長く平成二十年の六月から続いていて二人三脚のような存在で、まるで大学内で夫婦のようでした。

この女性の名は早瀬かおりと言いまして四国高松から出て来ていました。

この早瀬かおりさんは、

男が死んだからって非常識な人と私は思いましたが、それに彼女も同じ女として怒るように言いましたが、そんな事お構いなしに寺田とデートを重ねていたのです。


寺田が逮捕されて、

それが普通のデートではなかった事が、貴方のコラムで知りましたが、

そんな事で、このかおりさんが和歌山で働いていましたが、急遽田舎へ帰ってしまったのです。

只ここで問題は寺田の存在です。寺田が、亡くなった幸村が生きていた時から、彼女に接近していたような気がするわけです。

詰まり寺田とかおりさんが何かを企んで、それとも何かが働いて、幸村が亡くなったのではないかと疑う訳です。


詰まり幸村が亡くなったのは、単なる事故ではなく、誰かの策略ではないかと思うわけです。 誰かに何かを仕掛けられたのではないかと。       この事は奈良県の吉野警察署にも話しています。」

「ほう、警察にも。」

「はい。何故かと申しますと、亡くなっていた幸村は几帳面に毎日日記を付けていた訳です。

そして亡くなった日に、勿論必ず亡くなった日かは分かりませんが、とにかく絶筆に成った訳です。その中にこの様な言葉が書いてありました。

【かおりが珍しくおにぎりを作ってくれた。初めての事である。なんと幸せな事か ありがとう かおり】


このような内容でした。

二年間付き合って来て夫婦のような間柄で、それで初めておにぎりを作ってくれて、それを食べてその日に亡くなった。

幸村が書き綴っていた日記は、今奈良の吉野警察署で検証をし直してくれていると思います。

彼が発見された時に吉野警察は、単なる事故と判断して司法解剖などしていないようです。その事は私が聞いています。

事故のあった場所は、大台ケ原のふもとで、今までに同じような事故が何回かあり、司法解剖をした事など無いようです。」

「そうでしょうね。解剖と成ると大層に成りますからね。」 

「らしいですね。万が一おにぎりに何かを混入されていたら、それが愛妻弁当のようなものであるなら、間違いなく口にするでしょう。


 寺田の逮捕が無かったなら、このような解釈はしないかも知れませんが、現に逮捕され、その時に付き合っていた女がかおりさんで、そのかおりさんが元々付き合っていた男は亡くなっていた幸村であった。                      

この事実を考えただけでも、全容を知りたく成るわけです。

大体の事を分かって頂けたでしょうか?」


「大体分かります。でもこの話は、詰まり貴方が言っている事がその通りなら、殺人事件の可能性だってありますからね。

かおりさんが寺田に利用されていたとか、脅されていたとかなら、罪は軽いでしょうが、分かっていてとか、手助けしてとかなると、殺人幇助になり豚箱行きですからね。間違いである事を祈りますよ。単なる事故である事を。」

「でもかおりさんは今高松に帰ってしまいました。春に入ったばかりの職場を辞め」

「かおりさんは何処へ勤めていましたか?大阪ではないのですか?」

「和歌山市です。和歌山市北区の島谷動物病院です。」

「知っていますよ。立派な先生がおられる。しかしあまり良い噂が立っていませんね。やっかみでしょうね。

 良い客ばかりを狙うから、同業者は良いようには言いませんから。中々ベンツやシボレーでワンちゃんを連れてくる人などいませんから。所があそこの客はそんな方ばっかりですなぁ」

「やはり良く何でも知っていますね。」

「そこを辞められたって訳ですか?」

「はい。」

「それは何かがあるって事を表しているようなものですよ。こんなぁご時勢に、あっさり辞めるなんて普通考えられないですから。」

「やはりそうなのですか?」

「ええ。おかしいです。何かがあります。」

「では何かが分かれば教えて下さい。コラムに書かれてでも・・・」

「わかりました。」


「兎に角かおりさんの事が心配ですので、早く知りたいことは早いほどいいですが。

何分素人で頑張るのは限界が在るようです。私が行っていた大学の事務局長と寺田が、友達とか同級生とか言う話も聞いています。

その寺田が再三大学に来ていたのですから、それも調べて頂きたく思います」

「寺田が貴方たちの母校に出入りしていたのですね?」

「はい。それでかおりさん大学の関係者の世話で、職場を見つける事が出来たような言い方をしていましたよ。それは私に言っていた事ですのではっきり覚えています。」


「分かりました。私なりに調べさせて頂きます。」

「あの寺田って人は橋本警察署に逮捕され、何かを自供しているのですか?

同じように逮捕された学校側の赤城って人は、色々口を割っているように読ませて頂きましたが、寺田の事は何も書かれていませんでしたね。」

「そうです。多分自供などしません。最後まで無口で通すでしょう。そうする事が大きな金に繋がる事も確かで、彼らの世界では、二年ほど刑に服従して出て来た時の金蔓かねづるを考えておく訳です。

口止めした恩を売るわけです。


特に地位も在り、名誉がある人など、一旦引っ掛けると生殺しのようにされるわけです。何処までも付き纏われる構図に成るのです。」

「なるほどね。怖い、怖い。」

「お嬢さん貴方も彼と一緒に手伝っているのですね?」

「いえ彼女が主役で、彼女の事を僕は探偵さんと言っています。」

「そうですか。頼もしいですな。」

「いえ私は女ですが、このかおりさんって方とは今まで話しもしない方でした。それは何故か肌が合わないと言うか、あまり好きじゃなかったのです。でも彼の友達の幸村さんの彼女であるので、このようにして付き合っています。でも追求している内に私の方が一生懸命に成ってしまって、だから彼に探偵さんて言われています。」

「なるほどね。でも気を付けて下さいね。この話は橋本警察署にも言ってみます。


寺田を崩せば芋づる式に何かが出てくるかも知れません。

あの男と貴方たちの大学の事務局長が友達だなんて、まだ橋本警察は摑めていないかも知れませんので、この話は面白い話だと思います。

我々も知っている事を彼らに言ってあげて、彼らから情報を聞かせて貰う事も大事ですから、これはいい情報かも知れません。いやぁ今日話して頂いた事は可成の情報でしょう。」

「最後になりますが、かおりさんの所へ年末に行って来ました。高松市です。彼女からは何も聞けなかったのですが、ただ気に成るのは、まるで貝に成ってしまっています。

一言もしゃべってくれません。その事が妙に不気味で、怖ささえ感じてきます。


早く何もかもが解決する事を願っています。どうかよろしくお願いします。」

「ええ気合を入れて掛かります。」


三人は別れた。

それから三週間ほど過ぎた月曜日の朝、田川俊介は公休日だったので、パジャマ姿で居眠りをしながらテレビに向かっていた。

そんなけだるい朝に目をこすらなければならないほどの電話が掛かった。

「田川俊介さんでしょうか?」

「はい。」

「私は橋本警察署の刑事の尾崎省吾と申します。朝早くから突然申し訳ありません。

折角おくつろぎのところを。先程からお勤めの紀州アニマルパークへお電話させて頂きました所、本日は公休日でお休みだと仰られまして、ご自宅へお電話させて戴きました次第です。

「そうですか?」

「それでですね、紀州新報の大林さんご存知ですね。?」

「はい知っております」

「ではこれから私が口にする事は想像戴けると思いますが」

「ええ何でしょうか?この前のことで?」

「そうです。もう一度私どもにお話戴けますでしょうか?お願いします」

「でもそれは紀州新報の大林さんに言っている事です。

あの方はプロです。きっちりメモられていました。だから全く同じ事に成ると思います。


それなら貴方に、かおりさんが今高松で暮らしていますから、そちらへ行かれてはいかがですか。

 真相を知るには、彼女の発言は欠かせないと私は思います。

そしてどの道よりも一番早く解明出来る道だと思います。彼女が何もかもを話されれば解決する事だと思われます。今私が憶測で何を言っても、それは確定的じゃない訳です。あくまで憶測であり推測なのです。

それに今彼女に誰かが関わってあげないと、彼女は追い詰められいる事も考えられます。


 彼女も私も、世の中の事などまだ分かっているとは言えないのです。まだ二十代の青二才なのです。

でもあの寺田と言う男は、どうでしょう。海千山千でしかも狡猾で悪質で更に残酷でもあると思われます。

大林さんが言っていましたが、あの人逮捕されてから何もかもを自供しましたか?していないのじゃないのですか?大林さんはあの男は絶対自供などしないと言っていました。


そして釈放された時の飯の種にすると言っておりました。かおりさんはそのような男に騙されたのだと思います。世の中厳しいです。大学を出ても中々就職にありつけない状態です。

そんな弱みに付け込んで、かおりさんは犠牲に成ったのだと私は思っています。どうか私に構っているより、今はかおりさんを助けてあげる事が大事だと私は思います。行ってあげて下さい一時も早く。事件の解決の為にも。」


「わかりました。貴方の仰るように致します。その後再度お願い致します。」

「ええ結構です。いつでも。それと、参考までに申し上げておきます。それは大林さんが言っていたと思いますが、奈良県警吉野警察署の岩田健次巡査長が、可成の事を知ってくれています。一度お話して戴けると良いかも知れません。

何しろ複雑多岐な話でありますから。」



田川俊介と磯村春華は、幸村の事がこれからどのように成って行くのか、正直分からなく成っていた。

逮捕者が出る事になった、言わば事件に成って事がショックであった。探偵の真似事をしている状態では無くなって来ている事は確かで、今の時点で、例えばかおりさんの様な人が自殺でもすれば、取り返しのつかない事に成るだろうと懸念していた。


 その予感が突然遣ってきた。

【大阪畜産府立大学事務局長(篠原信利)賄賂授受容疑で逮捕】と大きく活字になって新聞を賑わせた。

それはすでに逮捕している寺田が自供して明らかに成ったのではなく、橋本警察署の刑事が逮捕に持ち込んだ事を詳細に書かれたいた。


同大学の容疑者の篠原信利は、その地位を利用して、先に逮捕した寺田洋介(和歌山県海南市)と共謀し賄賂と引き換えに便宜を図った疑いである。

橋本警察署の刑事が情報を摑んでいたので、任意同行を求めると簡単に自白する事になった。

この賄賂事件は、主犯格の寺田洋介が、公共施設に巧みに入りこんでいるようで、まだまだ芋づる式に発覚する事も考えられ、いかに公共施設の管理が杜撰であるかと言う事かも知れない。

この事件もまた賄賂を餌に女子大生を絡ませ、巧みに人の心の弱さに付け込む遣り方である。


我が国は大変な時期である事も確かであるが、女子大生も簡単に甘い話に乗る世の中である事も確かで、一日も早く景気が回復して、健全な世の中になる事を願わざるをえない。

民主党政権はまるで無力無才であるから。このような犯罪を起こす者や、犠牲者が出るのかも知れない。

一日も早く景気回復が望まれる。



大阪府立畜産大学の不祥事と言う事で、寺田が逮捕されたときの記事の大きさとは比較に成らない程の大きさの記事だった。それも全国紙全てに載る事になった。


田川は自責の念にかられた。

その全ての記事の発信元はおそらく自分であると思ったからである。

自分が紀州新報の大林記者に口にした事がきっかけになって、母校の大学まで火の手が及び始めた事に、複雑な思いに成っていた。

更に先日橋本警察署にかおりさんの事を口にした事も、新聞を見るなり頭を過ぎった事も確かで、ここに来て何もかもが重く感じていた。


そして常に思い続けた事は、幸村が大きな石に撒きついた様に成って、朽ち果てて死んで行った姿を、その悲惨な現場を思う事であった。

二十一歳にして死ななければならなかった、親友の事を思う事で、何もかもを乗り切りたかった。

新聞に大学事務局長逮捕のニュースが出てから、その二日後に橋本暑の刑事矢野東二から電話が掛かって来て、「田川さん何時もありがとう御座います。此方の尾崎が先だってからお世話になりまして、ご協力ありがとうございます。


実は先日奈良の吉野警察さんに電話を入れました。それでやはり貴方の思っておられる事もお聞きしたくて電話させて頂きました。ご都合がつく時間にお伺いしようと思っています。如何でしょうか?」

「はいそれは構いませんが、でも早瀬かおりさんの事もお願いしていましたが、その点はどのように進んでおられますか?」

「はい先日尾崎が高松へ言っていますので、その事もお話させて戴きます。」

「分かりました。出来るだけ早いほどいいですね。」

「はい。」

「では明日の夜八時過ぎなら仕事があきます。」

「分かりました。ではお伺いします。」


翌日橋本署の尾崎省吾と矢野東二が田川俊一を訪ねて来た。

「大きな事件になるような気がしますね」と尾崎省吾が口火を切った。

「それでかおりさんの所へ行って頂けたようですが、いかがでした?」と田川も口にした。

「結局あの方は寺田の口車に引っかかり、寺田が指図する相手と関係を持っていたようです。かおりさんに寺田を紹介したのは、貴方の大学の事務局長の篠原信利です。

この男は賄賂を受け取り、更に困っている女子大生を紹介していたようです。


しかし彼女は強制されたわけでも、脅迫された訳でも無く、あくまで自分の意思で納得済みで相手をしていたようです。その事は本人から聞かせて貰っています。」

「やぱりそうでしたか。では幸村の件はどのように言っていましたか?」

「せっかく弁当を作ってあげたのに、何故そのような事を言われるのか大変困っていますと言っていました。」

「そんな言い方を・・・まさかと思いますが私も幸村の親友ですから、偏った考えに成っているかも知れませんから、それ以上の事は言えませんが、でも正直なところすっきりしません。

もし可能なら寺田を厳しく取り調べて頂き、何か訳が無いか問い詰めて頂けないでしょうか?」


「ええ徹底的に遣りますよ貴方の大学だけじゃなく、まだまだ何かが出てくる事も十分考えられますので、早瀬かおりさんにはそれ以上きつく突き詰めるようには言いませんでした。

あまり強く追い詰めると、間違いが起こる可能性がありますので、ほどほどに」

「もし寺田が何かを吐けばあの人は簡単に落ちると思います。だから寺田を追い詰めます。

かおりさんは寺田の言い成りになる事を条件に、島谷動物病院へ勤める事が決まったようです。

寺田は島谷病院へも出入りしていたらしく、取引としては僅かだったようですが、それでも長い付き合いであったので、お互い無理を言い合える中であったようです。

それは大学の篠原信利が自供の中で言っています。」

「島谷動物病院は何ら関与してないのですか?」

「それは今の所無いようです。」

「何故そのように思うかって言いますと、薬と名の付く物が一番手に入り易いのは島谷病院だと思うからです。

もしかおりさんが嘘を言っていて、実は彼女が何かを仕込んだとなると、それは誰から手に入れたかと成り、その入手経路に島谷が関わっているかも知れないと思うからです。」

「田川さん我々は警察です。貴方のように探偵ごっこではありません。あまり憶測で考え更に飛躍などすると、体が持ちません。

絞るどころか間口を広げる結果になり、捜査の照準が合わなく成ってしまいます。」

「そうですか、すみません。でもこのままではかおりさんの証言が事実となり、幸村の死は単なる事故となるのでしょうね。」 

「ええ、そう言う事に成ります。」



「ではかおりさんが何故勤め先を辞めたのか言っていましたか?」

「ええ島谷先生から、『私寺田さんとも篠原さんとも仲が良い。しかしこの度の事は大いに迷惑をしている。まして君もそのような事情で此方へ来たとは迷惑千万だ。直ぐに出て行って貰いたい。』と言われたようです。それは寺田が逮捕された時点で、彼女の方から辞める事を島谷先生に言ったら。

それでその様に言い返されて、慌てて和歌山を後にしたと言っていました。

何故自分の口から言ったかと申しますと、罪悪感や周りの目が相当きつく耐えられなかったのでしょうね。

寺田の話に乗ってしまった自分に嫌気さえ刺していたが、当時は内定を取り付ける事が出来たこともあり、いつの間にか流される様に成って、この様な結果に成ってしまってと言っていました。


浅はかでしたと。それと幸村さんに申し訳ない事をしたと。でもあの人もアルバイトの繰り返して、あまり構ってくれなく成っていた事もあり、不安だったし寂しかったようにも言っていました。幸村さんパチスロが好きで、その方にも大分お金が流れていたようです。


『考えてみればあの人も私も、どちらも好き勝手して来たのかも知れません。でもいい勉強になりました。

これからは高松で静かに暮らさせて貰います。田川さんや磯崎さんが私の事を疑っている様ですが、でもそれは迷惑な話です。

あの人にすれば自分は北海道へ行っている間に幸村さんが亡くなったから、惜しむ気持ちは分かりますが、でもだからと言って無理な話をされても困ります。』と、このように」

「そうですか、そのような言い方をされていましたか。そうなら年末に行った時に言ってくれれば良かったのに。あれから随分気を揉んで心配して辛い毎日を重ねているのに」


「あの人も同級生に今のような事を言いたく無かったのでしょう。私が警察官だから観念してしゃべってくれたのだと思いますよ。女にとってどれだけ本来は屈辱的な話か計り知れません。

そのような事が平気に成る女性はそのような商売をする事になるのでしょうね。それが罪に成っても成らなくても。只彼女もそのような生き方を選んでいたとなるようです。彼女が口にした人数は十人近くいましたから。」


十人近くの人と相手をしたのですか?」

「そのようです。しかしそれが誰であるかなど決して口にしません。彼女では分からない様に成っているからです。

こんな場合は女の子は一方的に指し図を受けて動くだけですから」     「ではかおりさんから、新しい情報とか男の名前などは分からないと言う事ですか?」 

「ええ多分。逮捕した後なら裏取りは出来るでしょうが、容疑者を鏡の向こうで立たせてみるやり方です。」                     

「刑事さんは、かおりさんがまだ何かを隠しているとは考えられませんか?」

「分かりません。」

「幸村の日記に書かれていた、かおりさんがテンションが高い日があるとか、それって違法ドラッグとか絡んでいないでしょうか?」

「それも分かりませんが、そりゃ寺田のする事ですから、かおりさんとも関係があったと彼女自身が言っていましたから、その時何かを飲まされたかも知れません、だから覚せい剤のような物かも知れないので、追求します寺田を。


かおりさんも今後において腑に落ちない事がれば、追求する予定ですから、彼女には参考人として自宅で居られるように言っています。

実は今日は貴方にお礼を言いたくて来させて戴きました次第で、貴方の大学の事務局長の逮捕にこぎ着けたのは、田川さんの協力で成し得た事ですので、その事をお伝えに参った次第です。どうぞ今後とも何かと宜しくご協力お願い申し上げておきます。」


田川は二人が帰って行った後、力が抜けて行く様に思えて来た。

まるで狐に摘まれたような気持ちに成っていた。

それは決して大学の事務局長を逮捕する事を望んだわけでもなく、寺田と言う男が逮捕される事を望んだ訳でもなく、幸村が誰かに何かを盛られて殺されたのではないかと思う気持ちだけであった。


しかし一連の騒動に幸村の事は何一つ含まれていないのであった。

それは言い換えれば寺田と言う男が、賄賂と言う道具と甘い言葉で女子大生を食い物にしていた事と、それに乗っかかり、それを利用した甘い考えの女子大生がいたと言う事と、その女子大生を利用して又賄賂を受け取った事務局の者が居たと言う事が全てに思えて来たのであった。


『なぁ幸村どうしたらいい?』田川俊介は心の中でそのような事を呟いてたが、思っても居ない事はどんどんと進んでいるのに、幸村の事だけが取り残されていた事に苛立ちさえ感じていた。

更に焦点がずれるような事が表面化した。

あの大林記者が在る情報を手にしていて、それはまたしても紀州新報の新聞にコラムとして掲載された。


【冷え切った就職戦線】

約一ヶ月前和歌山県海南市の学校関係に商品を納入している機材商が逮捕された。その男の名は寺田洋介。賄賂容疑で橋本署に。

そして同じく賄賂を貰い便宜を払っていた学校職員赤木泰蔵、更に後日別件で大阪畜産府立大学職員 篠原信利などが逮捕された。

そしてその背景に暗躍する奇妙な問題が浮上している。

それは何であるかであるが、前者の逮捕者は全て賄賂がその要因であるが、それ以外にも深刻な問題があった事が判って来た。


それは複数の女子大生が利用されたと言う事である。

主犯格の寺田洋介が逮捕され、赤木泰蔵が逮捕され、前後して今回情報を提供して戴いた同じ様な学校関係者に、寺田から賄賂の話と共に十数枚の写真を見せられた様である。

「この子達なら何時でも用意させて貰いますよ。」と言われたらしい。

綺麗な子ばかりの写真で、リクルートスーツ姿の子が多かったと言っている。


そして『みんな大学四年生です。』と言っていたようだ。

この寺田と言う男何処まで悪い奴かと思いきや、そのシステムを知っていて、寧ろ利用している子さえ居たようである。詰まりそれは売春である

それは先にも触れたが、景気が低迷している根本的原因があって、不況と言う経済界に閉そく感が続く時代が続き過ぎると、何もかもが乱れて来る様である。


毎年約何割かの落伍者が出ている事は確かでお隣の国韓国は大卒者の四人に一人しか正社員に成れない様で、我が国もそこまで悪くは無いが、決して楽観していられない様である。

景気回復が遅れると、この様な所にまで不純な考えが侵食して来る様だ。晩節さえ忘れた時代に成ったようである。


               (大林 幸一)


このコラムを読んだ途端に田川俊介も磯崎春華もじっとした。全身から抜けて出る魂のような物さえ感じる事と成った。         

高松へ逃げ帰った早瀬かおりは、時代が齎もたらしたまるで被害者にも思えて来た。


「あれから一年半が過ぎたね」

「あれからって?」

「だから幸村が遺体で発見されてから」

「へぇーそんなに成るんだ」

「早いね。でも結果的に何も解決出来て無いじゃない」

「そうね。なんか逮捕者が一杯出て、下品な噂が一杯聞く事に成って。

ねえ私なんかも売春グループに入っているのじゃないかと思われているかも知れないわ。誰かが名前を出せばその様に成るのだから、変な時代。」

「でもそれって僕が余計な事を言ったから、この様な事に成ってしまって。でもこれでいいんじゃない。あんな寺田のような悪い奴が蔓延っているなんてありえないからね。それに春華には言ってないけど、橋本警察署から礼を言って貰ったよ。協力ありがとう御座いましたって。」

「金一封とか無かった?」 

「無かったよ。口頭で言ってくれただけ」 

「じゃあ 奢って貰えないね。」

「あぁ残念でした。」


「それにしてもかおりさんあれからどう成ったのでしょうね?」

「それも聞いている。全く幸村の事は関係ないって言っていたって。それは橋本警察の刑事さんの尾崎省吾さんが言っていた。それで僕が疑っている事が侵害だって言っていたって。

だからそれが事実なら、これ以上構うと今度は此方が火の粉を被る事に成るからね。訴えられでもしたら大変だから、ちょっと気が抜けた事も確かなんだ。」


「でも一年半も戦って来てこのまま幕切れじゃつまんないわね。」

「そりゃ春華も僕も同じ気持ちだと思うけど、でも何も無かったほど絶対いいから、何かがあれば、もしかおりさんが僕らが思っていたように毒でも盛っていれば、何時まで経っても忘れられない出来事になるじゃない。

だから何も無いほど長い目で見たら絶対いいと思う。」

「そうね幸村さんは好きな川へ釣りに行って、そこで誰の性でも無く、自分で足を踏み外して事故にあったのなら仕方ない事で済むからね

「そのように思って、僕らの冒険て言うか探偵ごっこって言うか幕を下ろそうよ?」


「どっちでもいいわよ。私は正直、人を追い詰めるような事、素人がしても無理が在ると思うわ。俊介、最近私にさえ声を掛けてくれないのも、何か嫌な気がしていたの。かおりさんに何か起こらないかと思ったり、誰かに何かが起こって事件にならないかとか、それが俊介だったかも知れないし、心の重い日が結構在った気がするわ。」                       

「そうだね、人を疑うなんて事って辛い事だね。だから警察なんて仕事は、余程使命感が無ければ勤まらないよ、正義感とか、探偵なんて職業も同じだと思う。春華の事も何度も探偵さんて言わせて貰ったけど、それもお終いだね。」


「そうか、残念だわ。素質があったから。」

「素質?」

「そうよ先見の目があったでしょう?」

「本当にその様に思っていたの?」

「思っていた」

「そうですか」

「何よ?俊介そのように思って居なかったの?」

「思っていた事にするから?」

「それって聞き捨てならないわね。はっきり言って」 

「・・・」


「言ってよ」

「分かったよ探偵さん」

「よしよし、それでいい」 

「何?まだ続けたいの君は?」 

「だからどっちでもいいって言ったでしょう。」 

「でももう何も起こらない事を願うほどいいな。これで幕引きでも。自分が通っていた大学に、汚点をつけた張本人に成ってしまったのだから、これは反省もしなきゃいけないな僕は。」

「分かるわ俊介の気持ち。でも誰かがしなきゃ。」


「でもどんな意味がったのかな僕のした事は?現にかおりさんのように、採用を取り消された者も実際居るのだから、まだ僕らが知らない所で、泣いている学生も居るかも知れないし、妙な噂に晒されているかも知れないじゃない。

だからもうこの話は終わりにしなきゃ、返って罪作りに成るような気がして来て、僕は・・・僕は・・・」

「俊介?」

「僕何故か涙が出て来て辛いよ。畜生!泣けてくる、本当に辛いよ。」

「こんな時泣いちやあ駄目だって。貴方は何も悪い事なんかしていないじゃない。あんな悪い奴に嵌められていた子も居ると思うよ。将来を狂わされた子も。それを助けた事も確かだと思うわ。

だから貴方が苦しむ事なんか無いじゃない。ねぇ泣かないでねってば、泣いちゃあ駄目だって。」


田川俊介は春華に抱き寄せられながら泣き崩れていた。

春華が更にやさしく俊介に、

「私はかおりさんは初めからあまり好きでなかった。前にも言った様に馬が合わないと思っていて避けていたわ。

でも貴方は親友の幸村さんの彼女だから大切な人だと思っていた。

でも幸村さんが亡くなった事で何もかもが狂いだした。彼が書き残した日記が、更にみんなの関係を可笑しくした。

そして疑いたく無かったが貴方は、彼が残した日記を見て疑問に思う事を見つけた。

幸村さんに、かおりさんとは二年も付き合っていて、まるで夫婦のように聞かされていたのに、始めて作ったと言うおにぎりがと思うと不思議であった。


勿論何も起こら無かったなら、愛情の印として幸村さんから惚気のろけ話でも聞かされていたかも知れないが、幸村さんはそのおにぎりを食べて死んでしまった。おにぎりも死んだ原因かも知れないと、だから貴方は疑いたくなったが、彼の一番大事にしていたかおりさんを疑う事になった訳ね。


それがどれほど辛いか、計り知れない心の葛藤が続いた。それでも貴方は親友幸村の大らかで純朴な心に打たれて、どのようにしてでも犯人が居るなら、見つけ出してやろうと彼のお墓に誓った。

そして今一年半が過ぎて幕を下ろそうとしているのね。

何も解決していない気もするけど、何か終わった気もする。そして三人の逮捕者を出し、大勢の疑惑に染められた女子大学生を出し、母校が汚され辛くて辛くて泣けてくる。


俊介貴方は一生懸命幸村さんの為に、友達として頑張ったわ。それでいいじゃない。誰も貴方を攻めない筈よ。泣くなって俊介。」


幕が下ろされた。起承転結と言うような綺麗な終わりではないと思いながらも、俊介も春華も、二度とこの事に触れる事は無いように努力しようと思った。

そこには言いようの無い、終わる事の無い疑心が、常に心に潜んでいた事が辛かったからである。


春も近づき桜の芽も膨らんで来て、俊介と春華は久し振りに遠くへ行きたく成って来ていた。

幸村の事で明け暮れしたこの一年半ほどの間の、ストレスと言うか、何とも言えない空気を常に吸っていた事が、見えない重荷に成っていたようであった。

だから何もかも忘れて羽を伸ばしたかった。

一年前の今頃は、後輩たちに囲まれて金剛山へ登って、お別れ登山をしていた。


そして九州の幸村の実家へも行っていた。しかし今年は、俊介も春華も山の話は口にしなかった。思い出があり、辛いものが在り、寧ろ山には背を向けたく成っていた事が心に中にあった。

「とりあえず電車に乗って、電車を乗り継いで、またまた電車に乗って。」と春華が背伸びしながら口にした。

「それって何?」と俊介

「だから田舎に帰ろうとするとそんな感じ。あ~ぁ長崎に帰りたいな」と寂しそうに春華 

「俊介、電車で廻らない?近畿沿線めぐり、ぐるっと。」         

「全部電車で」 

「そうよ。白浜から周参見それからなんだっけ」

「串本、勝浦だろう、新宮、熊野、尾鷲、紀伊長島とか錦、それから松坂、それから、それからは近鉄だね。伊勢、中川、宇治山田、それから青山、名張、榛原、桜井、八木、高田、河内国分、八尾,布施、鶴橋、それからは環状線で天王寺へ、そこからは時間の都合で、特急黒潮で白浜まで。」

「行こうか?春休みになると又忙しく成ってしまうから。

それで何処かでご飯食べて」

「面白そうだね。行こうか」 

「私おにぎり作ってあげようか?」 

「おにぎりは辞めよう。」

「そうか。おにぎりは思い出すね。じゃあ何処かで美味しそうなの見つけよう。

スマホを二人で見つめながら話に弾んでいた。

翌日朝一番に、白浜の駅から電車に乗り込んだ春華は、ウキウキとしながらシートに座る事もしないで、後三回程止まれば周参見に付くからと立ったままでいた。 

ルンルン気分で電車の先頭車両で、つま先立ちをして俊介と出会う事を楽しみにしていた。

「周参見の駅で俊介が待っていた。

「おはよ。」

「おはよ」

ハイタッチをしながら俊介が電車に乗り込んで来た。

「さぁー今日は楽しまないとね。久し振りだね。あれ以来だね、かおるさんを尋ねて四国の高松へ行って以来。」

「そうね。なんか久し振りって感じがするわ。心に何も無いような旅行なんて。」

「そうだね。スカッとしているね。心の中は快晴って感じだね」

「この何も無いって言うのいいわ。 目的が電車に乗る事だって言うのも」

「そうだね面白ね。何処へ行くなんて事も無いからね。それで嫌になれば帰れば良い。それに朝から晩まで同じ景色が無いって言うのも楽しいね。」

「でも気が向けば何処かで下りましょう。」

「そんな事も決めないで行こうよ。」 

「わかった。」

新宮までの絶景に心が奪われる気がした俊介は、窓際で座る春華の顔越しに息をするのを忘れる位に、心の内を感じていた。

幸せってこの事を言うのだろうと、流れ行く景色も手伝って、満たされた思いで言葉さえ忘れていた。

春華もまた俊介を意識しながら、まだ少しは冷たい風が吹く砂浜で、遊ぶ子供の姿を見続けながら、何時か自分も同じような日が来るだろうと思って俊介を見つめた。

「ほら可愛い子供たちが、」

「そうだね。まだ寒くないのかな?」

「でも子供だから、風の子っていうじゃない。」

「みんなあんな時期があったのだね。僕たちも」

「そうね。俊介。私その積りだから」

「何が?」

「何がってそんな事言わせるの?」

「だから何が?」

「疎い男」

「・・・」


「愛し合っている男と女が詰まり私たちが、海辺で可愛い子供を見つけて、それで心に思った事を言っている事がそれが何か貴方は読めないの?」

「余計に分からなく成って来たよ」

「ばかねー色気も何も無いじゃない。こんな綺麗な景色が勿体ないわ。綺麗な砂浜も」

「それって春華、僕と一緒に成りたいのじゃないの?その事を言いたいのじゃないの?」 

「分かっているじゃない。」

「ならそう言えばいいのに、どうか私と結婚して下さいお願いしますって、はっきりと 

君は探偵をし過ぎたから、そんな言い方をするようになったのかもね。」  

「何よ今気が付いたくせに。最初から判っていたような言い方をして。今日の目的は電車に乗る事と、口喧嘩をする事だっけ?」

「やめてくれる、探偵さん」


二人のテンションが何時もより少々高く、電車の旅が始まったばかりなのに言い争いに成ってしまった。

しかし新宮を乗り継ぎ、熊野を越え尾鷲に入った頃に弁当を買った。朝ごはんである。

急に二人はお腹満腹になると、子供のように眠く成って来て、俊介が春華の肩に手を掛けて、仲良く眠りに付いた。

あっと言う間に電車は松坂に着き、近鉄電車に乗り移るためホームを離れた。

近鉄のホームへ入る所で、目覚ましに缶コーヒーとレモンジュース、それと新聞を買う事にした。

まさかそこで、寺田の事件を報じられている事など知らずに、新聞を無動作に開いた俊介は自分の目を疑った。

そこにはまたしても寺田洋介関連の記事が載っていた。


【賄賂・女・覚せい剤】 

『この事件は和歌山県と大阪府で起こった事件である。

約一ヶ月前

和歌山県海南市在住の寺田と言う男が逮捕され、学校関係に文具や商品を納入している業者で、その納入先の学校関係者(事務局長など)に賄賂(金品)を渡していた事が逮捕のきっかけに成った訳であるが、その関係していた大学などで、今噂になっている事がある。

その寺田や学校関係者(逮捕済み)に騙されて、或は口車に乗って、或は承知の上で、女子大生が関与していたと言うのである。

そして今回その女子大生の一人が、覚せい剤を所持していた事が発覚して、事件は一層大きく成って来た。


裏社会の組織が関与してる事が考えられ、今後更に広がって行く可能性も出て来た様である。

覚せい剤を所持していた大学生は大阪府に在住の女子大生で四回生、この春卒業予定で既に就職先も決まっていた。

先に逮捕された寺田と付き合っていて、覚せい剤も寺田から貰っていたようである。

 既に薬物反応が出ていて、皮肉にも寺田が逮捕された事で覚せい剤が入らなく成って朦朧もうろうとしている所を保護され、その事がきっかけに成って何もかもが分かって来たようである。

この女性によると寺田は何種類もの薬物を持っていたようで、更に広がる事も予想が出来る。また既に名前が分かっている女子大生を、今緊急で全て調べているようである。

又彼女たちから更なる情報が飛び出す事も考えられる。

最高教育の大学で学び、夢と希望を持って社会に出ようとしたにも関わらず、まともな就職先が無いジレンマ。何十社も受けてやっとの事で内定を取り付けたにも関わらず、取り消しに成って、この女子大生も聞けばこのような悲運な一人のようである。

可哀相に、立ち直るのにどれだけ時間が掛かる事か、決して世の中甘くは無い事を、肝に銘じて生きて行かねば成らない。】



田川俊介と磯崎春華は、近鉄線の入り口の待合室のベンチに腰を下ろし、鬼のような目をして新聞を睨みつけていた。


「春華どうする?これから近鉄で奈良方面に行く?それとも引き返す?」

「貴方は帰りたいのでしょう?」

「帰りたいって言うか、今しなければいけない事が何かありそうに思えて来た事は確かだけど、それが何かなんて分からない。でも何かをしなければと思う。」

「ねぇ私たちが関わる事って無理じゃないの?」

「そうかも知れない。こんな風にしていても、かおりさんが何かを隠していたなら、あの人だって狙われるかも知れないよ口封じに」

「わたしは怖いわ。絶対無理よ。これは可成大きな事件じゃないの?」

「そうかも知れない。この新聞のように、何か裏社会の組織が関与していたら、僕たちは関わらないほどいいかもしれないね」

「でもかおりさんが心配だわ」

「そうだね。とりあえず警察にお願いしておくから」

「ええそうしてあげて」      


 田川俊介は携帯で橋本警察署に電話を入れた。

「すみません私周参見町の田川と申します。刑事の岩田健次さんか吉村隆文さんに取り次いでいただけないでしょうか?四国高松の早瀬かおりさんの事でお願いがあります。」

「今は二人とも出かけていますが、」

「緊急と言いますか、事が起こってからでは悔やまれますので」

「どのような事を。」

「はい彼女が危険なら保護して頂きたいと思いまして、口封じされる可能性があるように思われますので・・・」

「分かりました直ぐに連絡を入れさせます」

「お願いします。お二人とは何日か前お会いさせて貰っています」

「分かりました。とにかく早瀬かおりさんを保護ですね。」

「ええお願いします。」


直ぐに電話がかかって来た。

「私橋本警察署の岩田です。ややこしく成りましたねぇ。

田川さんはまさか動いたりしていないでしょうね。海に浮きますよ。彼女は外国へ売り飛ばされますよ。狙われれば。

決して動かないで下さいね。それと早瀬かおりさんは逮捕しました。寺田が口を割り始めたので緊急逮捕です。

かおりさんも今の段階ではどのような種類かは分かりませんが、薬やっていたようです。

あのまま行けば寺田の金ずるに成っていたかも知れないですね。

今の所回数的には数回と言うぐらいで、中毒に成っては居ないと思います。

立ち直るのは早いでしょう。覚せい剤って決まったわけでもありませんから。いい時に止めることが出来たと思いますよ。

それでこれから貴方方が一番気にしている、幸村さんて方の件で調べさせて頂きますから、この件は奈良県警吉野警察署の方も関係がありますので、彼女はあちらに護送されるかと思います。又お知らせ致します。何しろ貴方は特別ですなぁ大変ご協力頂いた訳ですから。」

「では宜しくお願いいたします。」

「絶対探偵ごっこはいけませんよ殺されますよ。奥さんに強く言って下さいね。では失礼します。」

「だって。だって。」

「なに?なによ?」

「かおりさん逮捕されたんだって」

「たいほ?逮捕されたのかおりさん?」

「そうらしいよ。覚せい剤をやっていたとか言っていたな。はっきり覚せい剤とは言わなかったけど、薬って言ったと思う。」

「それで、だってだってて二回も言ったわけね、びっくりして」

「それは違う。それは秘密」

「秘密?ならいいわ。それでかおりさん今は拘置所なの?」

「そうだと思う。でも返って安心じゃない。口封じに狙われたら、あっと言う間だろうね殺されるのは。

僕たちだって刑事さん殺されるって言っていたよ。

特に気をつけてあげてくださいって言っていたよ。」

「わたし?」

「そう尾崎刑事さんはこんな言い方をしていたなぁ

『絶対探偵ごっこはいけませんよ。得に奥さんに強く言って下さい。』って」

「うふっ」

「何も思わないの?」

「今変な事言ったわね。探偵ごっこはいけませんよ。特に奥さんには強く言っておいてくださいって?確かそんないい方しなかった?奥さんって言わなかった?馬鹿ねーあの刑事。尾崎さんだっけ?本当に馬鹿だわ。勘違いして失礼だわ・・・」

「と、言いながら春華ちゃんは嬉しくて心で笑っているのであった。」

「黙れ。俊介。」

「なぁ春華やっぱ奈良へ行こう。せっかくここまで来たのだから。それに慌てて帰る事も無くなったから、僕らに出来る事なんかかおりさんを心配する位の事だから、そのかおりさんが今警察に保護されているのだから」

「保護じゃないのでしょう?」

「ああそう逮捕だった。でも保護も同じだよ。一番安全な所だよ。寺田が何時出てくるかだろうな、かおりさんが安全で居られるかは。

でも寺田の罪は大きいと思うから、可成入る事になるのじゃないのかなぁ。」


「ずっと入っていればいいのに。よーし奈良だ近鉄だ。

次の特急で奈良を目指そうよ。遅くなるよりその方がいいと私は思うわ。」

「ああそうしよう。切符だ切符買わなきゃ。

寺田の奴、何かを自供しているようだけど、その中でかおりさんの事を自供しているから、かおりさんも逮捕される事になったわけで、更にこれからもまた何かが分かる事に成るだろうね。詰まり寺田は毎日のように罪を重ねて行く事になり、全部足し算すると成ると早速娑婆には出られないと言う事に成るね。」

「かおりさんは?」

「知らない。初めて覚せい剤を打たれたのか、自ら打ってほしいと言ったのか、それでも違って来るだろうね」

「ただ私が気に成っている事を言いますよ。かおりさんが覚せい剤を手に入れて、勿論他の薬かも知れないわ。

それを幸村さんに使ったとしたら、やはり俊介が最初言っていた事に繋がるわ。

俊介もその点は感づいているでしょうけど。」

「勿論分かっているよ。だからその事を刑事さんに、寺田にもかおりさんにも問い詰めてほしいなって思っている。


 明日吉野警察署の岩田巡査長にもお願いしてみるから。寺田もかおりさんも、関係している可能性が在ると思うから、幸村が二人の悪知恵で、あんな目に遭わされたのなら、徹底的に解明して貰わないと。吉野警察署の威信にかけて頑張って貰わないと。

とにかく電話をしてみるから。」

「そうしてあげて。それって誰の為とかじゃなくなって来ている様に私には思えて来ているの。

みんなが知らなければ成らない事のように思えて来ているの。

大学にいる後輩たちも、社会に出た人達も、勝ち組と言われる優秀な人達も、社会全体で考えなければ成らない事だと私は思えているわ。

あまりにも多くの人が絡んでいる気がするわ。

これからも又何処かの学校で、高校かも大学かも知らないけど、誰かが摘発されると思うわ。寺田と言う悪党が、多くの人を引っ張り込んで狂わせている事が許せないの。


あの男さえ居なかったら、こんな大事に絶対ならないと思うわ。

よくこんな事件が起これば、騙された方に大いに責任があるって、今の世の中は成っているけど、それっておかしいよね。

大学生にサラ金が金を貸すって事も変でしょう。

働いていない者に、高利でお金を貸すのだから、そんな事って間違っているよね。

この事件は女子が多く犠牲に成っているけど、軽いとか甘いとか言われているけど、本当にそうかな?

それじゃあ民主党は何をしているの。何も出来ていないじゃない。まるで無才無策無能じゃない。

働きたくっても働けない現実が在るじゃない。一体働くために何社受けたら受かるの?

そんなのっておかしいわ。

それが当たり前だって言うけど、みんな企業は外国へ仕事持って行っているじゃない。仕事を減らして外国へ移し、尚日本へ外国の安い賃金で働く人を連れて来て、それで私達に皺寄せをして、こんなの間違っているよ。

今回畜産大学は僅かだったけど、他の大学でも同じ事が起こったわ。

寺田がどれだけ多くの人の人生を狂わせたか計り知れないわ。

あんな男死刑にしなきゃ気が納まらないわ。」


 一生懸命話し続ける春華は涙目に成っていた。

「春華。君にも辛い思いさせたね。本当に申し訳ない。

でも僕はこの事が終わったら解決したなら、君に言いたい事があるから楽しみにしていて。」

「ええ」



 南紀アニマルパークランドは、満開のさくらが咲き誇り、多くの子供たちや家族連れで、盛況に毎日が過ぎていた。

田川俊介も磯崎春華も持ち場を一歩も離れる事も出来ない毎日に泣かされる思いであった。


だから気に成っていても、幸村の事も考える事すら出来ない毎日で、寮や家に帰っても只眠るだけの繰り返しであった。

そして気にした所でどうにかなるものでも無いと思う事で悶々とした気持ちを抑えていた。


夜に成って何回か田川俊介の元に電話が鳴る事があったが、それは紀州新報の大林幸一からで、無理をしないようにと言われた事が唯一の情報であった。


俊介が大林に、先日近鉄の松坂駅で読んだ新聞の事を口にすると、笑いながら『あれは譲ってあげました。』と言った。

そして覚せい剤と成って来ると、あのニュースは大手さんに任さないと、此方が持ちませんと言っていた。

それは危険が伴うネタであったので、でしゃばらないように心がけなければ、長続き出来ないと言う意味で、そして素人は手を絶対出さないように、しつこく言われた。

それでも田川や磯崎たちが仕事に追われている間に、同じように橋本署の刑事も大いに頑張っていたのである。

更に学校関係者が二人逮捕され、新たに女子大生も挙げられた。

観念したのか寺田が渋々吐き出すように更に口を割っていた。

それが大林の新聞紀州新報に載る事に成り、


【四月は新人たちのデビューの時、真新しいスーツに身を包み、多くの新人が志し新たに大海原に飛び出す。

この人達がこれからの日本を支える動脈に成る戦士であり、逞しい限りである。

しかしこのような晴れの舞台に立てない新人も、今だ相当数いる事も確かで、約二十%が涙を呑んでいる。

この溢れた弱き人達にターゲットを絞り、学校関係者と悪徳業者が手を組み、その羊のように弱っている新人を食い物にして来た、そんな組織が存在した。


和歌山県海南市在住寺田洋介がその男である(現在和歌山橋本刑務所に拘留中)

この男は女子大学生の弱みに付け込み、更に公立高校や大学の事務関係者に悪の手を伸ばし、賄賂、更には女、更には薬(覚せい剤など)をセットにして、多くの組織を蝕むしばんで行ったのである。


自供によると、女子大生の彼氏までも狂わせるようにして弱体化させ、排除していたようである。

複数の女性からもそのような発言を警察は自白させている。

反対する者、逆らう者、従わない者などその全てを排除しようとしていたようである。その為には手段を選ばず、薬を使った様である。こんな事を平気で繰り返していた寺田の残忍な姿が明るみになった。

しかしそれを実行したのは女子大生と言う事になり、この男は薬を提供しただけになるから、仮に恋人の男が死んだとしても、殺人罪は適用されないわけである。狡い男である。

こんな話がこれから湯水の如く出てくると思うと、全身に憤りを感じずにはいられない。この事件はいまだ終わる気配が無い。】


「なんて男だこいつは」

田川俊介は只その言葉を発するだけで精一杯であった。

この記事には相当残酷な事が書かれている。

先ずかおりさんが親友幸村を寺田から入手した薬で事故を起こすように仕込んだ。若しくは殺害する事を企んだ。そしてやはり最初から思っていたように、おにぎりに細工して実行した。

それは寺田から指南されてなんら問題なく実行出来た。それというのもかもすれば寺田から栄養剤であると言われていたかも知れないことも考えられ、悪質であったと一概に言えない事もかおりの言葉から予測できる。


幸村は上北山の渓谷の何処かで、美味しそうにおにぎりを食べ死んでしまった。しかし激しく雨が降る事も、捜索願いが出る事など、誰も予想していない筈で、致命傷になるような薬物をおにぎりに混入する事は考えにくく、寧ろ六時間で消える風邪薬のような成分の物であったのか、あるいは睡眠薬か・・・それに似たもの。尿検査をすれば反応が出ても、生死に関係なくそれは何ら違法性も疑われる事も無いものでなければ成らない。

 幸村を黙らせ、寺田は薬と巧みな言動で、女たちを支配したかったのかも知れない。

俊介は以前、春華に説いた説を思い出しながら、大洲目に来ている寺田とかおりの殺意を説いていた。

かおりは寺田に覚せい剤を打たれて、自分を見失って、それで幸村の事を口にしていた。

「彼氏いますよ。寺田さん知っているじゃないですか。でもうっとうしく成って来て、お金も無いのにパチスロに嵌まっているから、私の事なんかそっちのけ、二年も付き合っているけど胡散臭くて、田舎物だから彼は。」

「じゃあ別れたら、そんな男と」

「別れたくは無いけど夫婦みたいなものだから。」

「別れさせてあげようか?」

「どうして?」

「簡単だよ」

「・・・」

「これをさぁ、何か食べるものに入れれば、簡単に別れる事が出来るから」

「これってなに?」

「薬」

「だから何?どうなるの?」

「男じゃなくなってくる。要するに立たなく成ってくる。そんな男と付き合いたいか?立たない男と」

「それって男じゃないでしょう?」

「だから簡単だよ。それに絶対怒らない。かおりを追っかけたり、ストーカーに成ったりしないと思う。だって立たないのだから。」

「へぇ~そんな薬が在るんだ。面白い。」

「今度何処かへ行くとき弁当でも作ってあげて、その中へ入れれば。そんな事を何回か繰り返せば、かおりから離れて行くから。どこかへ行かせれば。嗾けしかけて言えば」

「じゃあそうする。いい加減うざいから。」



 『かおりは少なくとも何回か覚せい剤を打たれているかもしれない・・・。僕にはそれがどのような物かなど分からないが、もしドラマなどで見ているようなものと同じなら、二回目から打ってほしくなって来たら、何でもするだろうから、寺田の言う事でも全て聞く事になるだろう。


 この推測は正しいか間違っているか、それを知る事は簡単である。

寺田がその事を自供すれば何もかもが成立する。かおりさんに何か薬を渡して、それをおにぎりに仕込めと言った事を自供すればそれでいい。

この事件は幕を閉じる事になるだろう。』

翌日俊介は、橋本警察署の刑事尾崎省吾に電話を入れ、気になる二点をはっきりさせて貰いたい事を告げると、


寺田洋介と早瀬かおりは、殺人罪及び殺人ほう助、殺人教唆の疑いで、奈良県吉野警察署に護送された事を知らされた。

殺人教唆および殺人幇助罪と言うその言葉を耳にした俊介は堪らなかった。

かおりさんは同級生である。

当然幸村も同級生、この事件が解決すれば、結婚を申し込もうと思っている春華も同級生


 いやこの事件で多くの犠牲者が出たがみんな同級生。

おそらくこの一連の出来事は、自分の生きて来た道で、一番の汚点かも知れない。決して思い出したくない出来事になるだろう。

同級生が同級生を殺すなんて、それはどれほど情けなく切ないものであるか、計り知れない出来事である。

いよいよ最後の舞台に来てしまった事に、言い切れない悔しさが込み上げて来た。

幸村の死因が事件なら、おそらく最後は吉野警察署になるだろうと、初めから思っていたから、それが正しく今その様に成ってしまった事に憤いきどうりを感じていた。


早速俊介は、一連の事態がそこまで進んだ事を、磯崎春華に伝えるため、仕事が終わると同時に待ち合わせして話し込んだ。

「春華、かおりさん奈良の吉野警察署に護送されたって。殺人容疑か若しくわ殺人教唆若しくは殺人幇助の罪で、幸村の件を徹底的に調べるようだよ。やっぱり幸村は殺されたのかと思うと辛いなぁ


勿論主犯格の寺田も一緒に。」

「へぇーそんな事になったんだ。怖くなって来たね。それにしても俊介が初めから言っていた通りに成って来たね。」                  「そうみたいだね。」 

「でもそれって一番望まなかった事でしょう。幸村さんもかおりさんも、貴方も私もみんな同級生じゃない。

同窓じゃない。なんて悲しいのこの現実は。吉野警察へ連れて行かれたと言う事は、幸村さんが外部の手によって命を落としたって事になるのでしょう。間違いなく。いやだなぁそんなの。」

「多分ね。寺田が自供すれば、寺田が殺人教唆か殺人幇助で、かおりさんが殺人の罪になるかも知れないね。只何を混入させたかが問題だけど。」

「寺田って人、何もかもしゃべるか分からないのでしょう?」


「でも今回は自供するように思うな。あまりにも罪が多いから、観念するだろう。諦めてと言うか、自棄になってと言うか。それと自供するって事は、絶対青酸カリとか致命傷に成る様な物ではないと思うからだよ。

幸村が死んでいて、解剖されても問題ないものを混入する程度で、決して罪に成らない物と思うから」

「なるほどね。」



「六月五日まで後一ヶ月に成ったね。又幸村の誕生日をしてあげないと。」

「そうね。二十三歳ねあの人も。それまでに解決しないかな。私たちもこの環境から正直抜け出したいものね。」

「そう同窓会に行って殺人者と殺された者が居るのだから堪んないよね」

「今度の六月五日はあまり誰も来ないかも知れないわ。俊介もいい様に言われていないかも知れないし、色々在ったからね、この半年ほどの間に。」

「だからこうやって頑張って無理をして、それでこんな結果になるのだから、辛いよね。こんな事早く卒業して春華と・・・」

「春華と?その後は?」 

「その後は・・・」

「その後はプロポーズとか?この前何か言っていたでしょう。言いたい事があるって。この件が解決したらって。それがその後は?ってことでしょう。」 

「・・・」            

「ねぇ?」

「その後は美味いラーメンでも食べに行こうよ」

「何よ、ばか!まったく・・・」



数日が過ぎて、俊介が仕事に行こうとしたとき電話が鳴った。

紀州新報の大林幸一であった。

「すみません朝早くに。田川さん知らなかったらと思いまして、実は今日の奈良新報に吉野警察署の記事が載っています。私の会社と同じ系列ですから、此方の新聞には載りませんが、知って居られましたか?」

「いえ、さっぱり分かりません。何が載っているのでしょうか?」

「はい。寺田が薬物をかおりさんに手渡して、食べ物の中に入れるように指南した事を自供したようです。


貴方がおっしゃて居た通りに成ったようです。」

「それで薬物とは?」

「睡眠剤の様な物のようです。それも強烈なものだと言っているようです。」

「それをかおりさんがおにぎりに入れたと?」

それはまだ分かりません。でもその内かおりさんも自供するでしょう。」

「そうですか、可成罪が重いのでしょうか?」

「さて寺田はどうなのでしょう?寧ろかおりが直接入れたとなると、ましてその事が原因で、幸村さんが亡くなったと成れば、彼女の罪は重いでしょうね。」

「へぇ~そうなるのですか?」

「只殺人に成るかは分かりません。どのような罪に成るか裁判で決まるのでしょうね。指南してそそのかす殺人教唆とか、手助けする殺人幇助とかありますから。でも私には分からないです。」

「ありがとう御座いました。ここまで来たら仕方ないですね。罪を犯した者は、罰を受けなければ成らない訳ですから、只死んで行った幸村が可哀相で。」


「ええ、そうでしょうね。犠牲に成った人が一番不幸ですからね。どんな事件でも。生きていれば又って事もありますから、その内に。では失礼します。」

「はい。ありがとう御座いました。お世話に成りました。色々助けて戴きました事感謝申し上げます。」


会社に向かいながら俊介は、西の空に夕陽が沈むように、物悲しい黄昏の風景が眼に浮かんできた。

かおりさんがどの様な刑に成っても仕方ないと思えて来た。

俊介がこの一連の事件に、立ち向かう決意をしたのは、九州で幸村のお墓に向かって発した言葉が最初であった、正に起承転結の「起」の部分であり、今静かに「結」の部分に差し掛かっている事に、万感の思いが込み上がって来る事を感じていた。


 得たものが在ったとか、失くしたものが在ったとか思う事より、今人間として出来るだけの事を、正々堂々として来た様な思いに駆られていた。

それが幸村に対する同級生としての友情であると思えて来た。

寺田は拘置所へ、又かおりも否認していたが、その後泣きながら詰問攻めに晒され、拘置所へ送還される事になった。


 それから僅かの間に奈良地方裁判所吉野支部で裁判と成った。

幸村貞夫変死に関する裁判であった。


求刑論告

【被告人寺田洋介、被告は平成二十二年六月五日、奈良県吉野郡上北山村一之谷において、大阪畜産府立大学幸村貞夫二十一歳が死亡した事に対して、同氏の殺害に関する教唆及び幇助の容疑が認められることにより審議を執り行う。


被告人は同大学の学生早瀬かおり二十一歳に殺害前日の六月四日に直接薬物(睡眠薬・米国ネルシス社製)二グラム三袋(致死量)を渡し、食べ物おにぎりの中に混入する事を教唆し、早瀬かおりがその渡された薬を幸村貞夫に、自ら作ったおにぎりに投与した事が、早瀬かおりの自供によって証明されている。


結果幸村貞夫氏は命を落とすことになった。この結果は言い逃れ出来ない事実である。よって被告の行為は許しがたく刑を持って償わなければ成らない。

罪名、殺人教唆。求刑懲役六年八ヶ月を求刑する。


幸村貞夫氏殺害に関して審議を執り行う。

【早瀬かおり、被告は平成二十二年六月五日、奈良県吉野郡上北山村一之谷において、大阪畜産府立大学四回生幸村貞夫二十一歳が、死亡した事に対して、被告が寺田洋介から入手した睡眠薬を、幸村貞夫氏に自ら作ったおにぎりの中に(致死量)混入させ、結果として殺害したことに関して審議を執り行う。


被告人は、平成二十二年五月就職活動を始め出した時、大学の事務局長から出入り業者の寺田被告を紹介され、その寺田から、

和歌山市北町の島谷動物病院で働く事を打診され、その見返りに数人の男性と関係を持つ事を強要されたが、自分の意志でそれを受け入れ、内定を取り付ける。更に気持ちがよくなるからと寺田から薬を飲まされ、更に自らもそれを求めた。


被告はその時二年間に渡り男女関係にあった。

まるで夫婦の様な関係でもあった貧乏学生の幸村貞夫と名乗る男が居たが、常に貧乏癖が付いていて、被告の奨学金を無心に来るなどしばしばで、実に鬱陶しい存在になっていた。

そこで寺田被告人に相談。寺田は薬物を飲ます事を教唆し、六月四日ついに実行するに至った。

 おにぎりの材料を買い求め、同日深夜おにぎりの中に、寺田に言われるままに、睡眠薬・(米国ネルシス社製)二グラム三袋(致死量)を混入させ、それを食べた幸村貞夫氏は眠気に強襲され、又はその薬がもたらした弊害により、命を落とす事となった。


罪名 薬物混入による殺人


早瀬かおり最終弁論

「被告人早瀬かおりさん。前へ出なさい。何か申したい事は無いですか?今日が最終弁論ですから、何かあれば申しなさい。次回は判決となります。


【私はここで最後の答弁として何もかもをお話いたします。先ず検察官が私にしたことは決して許されることではないと先ず言いたいです。

検察の方に自白を強要されたと申し上げます。言い換えれば検察官に申し述べたことはすべて撤回いたします。

果してあの場で毎日黙秘を貫く事が出来るのでしょうか?「いいえ」「ちがいまう」「しりません」と言い続ける事が出来るのでしょうか?

長時間に及び、強引な詰問の嵐で、どのように主張すれば良いのでしょうか?

そもそも私がこのように被告席に立たされる事になったのは、同級生の田川俊介さんと磯崎春華さんが、声を大にしたからだと思います。

田川俊介さんは亡くなった幸村さんと大の親友で、私も仲の良い友達だと理解しています。


 でも今回の件に関しまして、彼はその心配りが幸村さんに傾いていたようです。

男同士であったから、そのように成ったか知りませんが、しかし彼の行動がみんなを狂わせる結果に成ったと思います。

和歌山の橋本警察署も奈良の吉野警察署も、私がおにぎりに毒を盛ったと一辺倒でした。

誰も見ていない事が、何故皆さん一辺倒に成るのでしょうか?


更にマスコミもまた同じ道を辿っているような気がします。

ここに居られます全ての方は、若しかすると私がおにぎりを作り、その中に何か毒とか睡眠薬を含ませて、それを幸村さんが食べてと想像しながら、この朝廷に来られているのじゃないでしょうか?

でも誰かがその私の姿を見られましたか?私がおにぎりを作り、その中に毒や睡眠薬を入れている姿を。

傍聴席の皆さんは見ましたか?誰も見た事が無いはずが、このようにして検察の方の強引な取調べで、罪になり罰を受けなけらば成らなくなるのです。


もし私に発言の機会が与えられなかったら、私は検察の言うような罪に、服しなければ成らなくなる訳です。

詰まり人を罪人扱いする事は実に簡単な訳です。

相手が黙っていようが、追いかけて捕まえればいいからです。逃げたら何処までも追って行けばいいからです。


「違う」と言えば、違わないだろうと言い返して引っくり返せばいいからです。

「していません」と言えば、しただろうと言い返せばいいからです。そして攻め続けて人とも思わず、手段を選ばず、サインをさせばいいからです。」


「被告人貴方は一体何を言いたいのですか?端的に申しなさい。」

「分かりました。しかし裁判長がこのように口にする事は、全員がまともであると捕らえるのです。

しかし今私が何かを言っても、殆どの方は疑いの目で私を見ると思います。

それは罪を逃れたいのだと先入観を持つからです。

私は過去の裁判で、冤罪であると被告が言い張り、再審されている裁判も幾らも知っています。

裁判は証拠や証言に無理があると、何処かで嘘が混じり、出鱈目な結果を導く恐れが在ると思われます。

今皆さんが心で思っている事は、私がおにぎりに入れた睡眠薬の事だけを、多くの方は何はさておき考えていると思われます。

残酷な女だと・・・

確かに寺田から渡されました。


しかしその睡眠薬は、今でも私は持っています。使った事実は無いのです。

この事は弁護士さんにも言っていません。誰にも言わない事で秘密が守れるのです。

それで自分の命を守る事が出来るのです。

だから私が今、何処に薬があるか等決して言えません。在っては困る人が、一人でもこの中に居れば、それで私は命取りになるからです。

しかし裁判長が私の命を守っていただけるのなら、弁護士さんと貴方だけにお教えします。


何故かと言うと、私は今どのような立場でしょうか?

覚せい剤を打って、売春をして、好き勝手生きて

その様に成っているのじゃないでしょうか?

私が逮捕されるまでは、新聞も見ていましたし、テレビも見ていました。

この一連の出来事は、そのような報道が多かった様に思われます。

それは女子大生が絡んでいるから、面白おかしく書くからです。

その内私などは、三流週刊誌にむちゃくちゃだったり卑猥であったり

曝されるのでしょうね。。

しかし私は自らこの世界に入って行った訳ではありません。勿論薬や覚せい剤を自ら飲むとか打って下さいと言った覚えもありません。

当然売春を自らした事もありません。


詳しく話させて頂きます。

ある日寺田被告が近寄って来て、幸村さんの事を言いました。貧乏学生で煙の出る車に乗っていて、お金に困っているだろうと言われ、事実私の奨学金を貸したりしていたので、仲はとてもよかったのですが、まるで貧乏夫婦のように彼を庇かばって支えていました。

彼が亡くなった時より数えて、二年前に彼と知り合い、それから私が彼を支えて来た様な格好です。

彼はそれでも無駄な事をしていました。

パチスロが好きでラーメン店でアルバイトをしていましたが、それでも足りなくて私に言って来ました。

 四回生になり就職を考えるようになり、そんな時事務局長さんに寺田を紹介され、寺田と知り合いに成り、大いに期待して寺田に言われるままに付いて行きました。


 そして二回目に会った時に、私はいつの間にか眠らされ、気が付けば服装が乱れていて、何が起こったのか直ぐに察しが着きました。

 しかし目の前に五万円のお金が置いてあり、島谷動物病院の内定通知者が置かれていました。

 そして「君で決まりだよ。」と言われ、全ての事が分かりました。

それから私は寺田の指図で動かされました。そして幸村さんの事も、考えてあげても良いからとまで言われて、抵抗する理由がありませんでした。

 ところがある日、又同じように眠く成って来て、訳がわからなくなって、気が付けば背中に大きな刺青を入れた人が側にいました。

それは何が起こったのか、何分薬か何かが利いていて朦朧もうろうとしていたのです。


寺田は幸村さんの事も、何もかも知っていました。

釣に行く事が大好きであるとか、パチスロが好きであるとか、田舎が九州であるとか、多分事務局長から情報が流れていたと思います。

だから彼が何時釣りに行くのか、しつこく聞くから適当に言うと、無動作に薬を渡されたのです。

栄養剤とか言っていました。おにぎりのような食べ物に、含ませて食べるように言っていました。


元気が出るっても、でも私は二度眠らされていますので、その頃は既に警戒をしていたから、一応受け取りバッグの中に隠しておきました。

今それはきちんとしまってあります。

 でも今私はあらぬ罪で裁かれようとしています。

しかしこのような私のどこが悪いのでしょうか。こんな私や幸村さんを苦しめている、大人たちや社会が何故改善されないのでしょうか。俺俺詐欺は誰が悪いのでしょうか?

この裁判は、老後の資金をこつこつと貯めて来た真面目なお年寄りを裁いているようなものです。


 私は余計な事を言っているかも知れません。

しかし、私は殺されるかも知れないけど話します。何もかもを

私を眠らせ、もて遊んだ者とは、おそらく裏社会の人で、背中に大きな刺青が彫って在る人でした。毘沙門天の。

その事を口にすると言う事は、私の命は何時終わるかも知れないと言う事なのです。


皆さんそんな私を何方か守って下さいますか?

裁判長も検事さんも弁護士さんも傍聴されている皆さんも、二十四時間四六時中私を守って戴けますか?

誰も守ってくれないでしょう。検事さん私を取り調べしたあの勢いで、私を裏の社会で生きている人から守ってくれますか?

今直ぐにこんな裁判を中止してでも、その人を捕まえれば覚せい剤を大量に持っているかも知れませんよ。」


「被告人、お話し中遮さえぎって申し訳ありません、被告人早瀬さん。本件に関係ないことまでおっしゃっています。もし証拠があるならそれを速やかに提出してください。罪のない者を捌くわけにはいきません。

 よって本日は被告人に意義があるようなのでこれにて閉廷として、明後日同時間に改めて最終弁論と致します。検察側も弁護側もそれで宜しいですね。」

「異議御座いません。」

「異議御座いません。」

「被告人は証拠を。」


この裁判を遥々和歌山から奈良地方法務局吉野支部に傍聴に来ていた記者が居た。あの紀州新報の大林幸一であった。

今まで積み上げて来たものが一気に崩れる様な思いと、記者として培って来た物が、かおりによって蘇らせて貰ったような、確信を持てたような暖かいものを感じて、心を熱くしていた。反骨精神を貫く大林にとって堪らない時間であった。


『私は殺されるかも知れないけど話します。何もかもを』と、それは計り知れない勇気と、何か魂のような叫びを感じずにいられなかった。

『まだ何かがあるこの女には。』

大林幸一はそう心で呟いていた。

 生憎仕事で来られなかった田川俊介と磯崎春華も、この裁判を相当気にしていて、複雑であったが、かおるが有罪に成って、幸村がそれを知ったならどのように思うだろうと思ったが、解らなかった。

もし恩縁が彼にあれば、少しは晴れるだろうとも思っていたが、紀州新報の大林幸一から電話がかかって来て、

「田川さん、大林です。今宜しいですか?話が長くなりそうですので」

「いいですよ。大丈夫です。」

「今日はね、かおりさんの独り舞台でした。それで最終弁論でしたが、新たにかおりさんが証拠を言い出して、閉廷に成り、明後日にやり直しと成りました。


でも彼女凄かったですよ。

私は何か怖さまで感じました。あんなに迫力のある、魂のようなものまで感じる被告人も経験ありません。

絶対貴方も行くべきだと思います。貴方の事も言っていました。

貴方がこの裁判の仕掛け人だとも。そして誰もが、自分が毒を盛って幸村さんを亡き者にしたように思っている事も言っていました。」

「それで結果として、どのように彼女は?」

「全く知らないと言っていました。そしてその後に口にしたことが凄かったのです。何もかもをぶちまけるように話しました。あさって又あります。彼女は多分無罪になる気がします。」

「そうですか。それもまたいい事だから。誰もが本当の悪を退治すればいい事だって分かっていますからね」

「もし出来るなら来てください。かおりの言った言葉を利用すると、貴方が起こした話のようですから、貴方が結ばなきゃいけないのだと思いますよ。起承転結ってあの熟語を引用すれば。」

「わかりました。」


二日後、

田川俊介と磯崎春華は共に

盆の休みは一切取らないと言うことで、上司にお願いして休暇を取ることにして、心躍らせて奈良の吉野の裁判所へ車を走らせていた。

「かおりさんが無罪に成るなら、それでもいいじゃない。それでも良かったと僕は思う。何となく。春華はどのように思う?」

「ええ私も。かおりさんが幸村さんに何もしていないのならそれが一番よ。

だって私たち同級生なのだから、今までの展開なら傷を舐め合いするような事ばかりだったでしょう。そんなの嫌だったものね。ゴールの無いような話。」



「そうだね。今迄でそれが一番引っ掛かっていた事だからね。辛過ぎて。

でも大林さんが、かおるさんは無罪だって事つい言っていたから、あの人は言わばプロだから、きっとその様になると思うよ。

そりゃ何もかもって訳には行かないと思うけど。現に待ち合わせして寺田と行動していたのだから。」


「ねぇ私今日は楽しみにしているの。だって裁判なんて初めてだから、正直どきどきなの。」

「でもかおりさんは被告席だから、その事を思うと人のことを軽はずみに疑ったりしたらいけないって事だと思うね。それで人生が変わる事だってあるかも知れないから。


今日ね僕らが会社に、いや課長に休暇届を出して、勿論すんなり受託して貰ったけど、これが被告であったとしたら会社を辞めさされるかも知れないからね。

例え無罪であってもこんな時代だから、何が起こるかわからないからね。」

「そうね。この二年間で私たちは何回もかおりさんを疑って掛かったわ。

私なんか特に。それって彼女のことを何も知らないのに、二人で話し合ったこと一回も無かったのに、私は彼女を毛嫌いして、それって私が我儘とか世間知らずとか、心が小さいとかなのかも知れないと今思って来たわ。

 この機会に彼女のことはともかく、私も何かを、多分心だと思う。心を変えないとと思って来たの。これからの人生の為に。


 みんな同級生だったの。私たちは信頼しあってこそ同級生と思ったの。」

「そうだね。この裁判がどのような結果に成っても、僕らは反省をして、これからの人生に生かしていかないとね。」


《彼女は多分無罪になる気がします。》

大林が発した一言に二人は心を一変させていた。



【最終弁論再開】

「被告人前へ出なさい。前回被告人が申し出られた証拠品は裁判所で確認の結果、相違ないものとし証拠品と致します。

又それが寺田被告人から受けっ取った薬である事も、確認出来ましたことを付け加えます。


結果被告人が幸村氏に、その薬を飲ませたと言う疑いは晴れたことを証明するものであります。

被告人は他に前回の続きを言い述べる事がありますか?」

「はい裁判長。ありがとう御座います。私は最後の最後まで、言わば口を貝にしていました。言えなかったのです。言わない程得策であると思ったのです。


先日も言いました様に、何もかもを話せば、何もかもが全ての人の耳にも目にも入ると言うことです。検察の方は、先日の私の発言で、二日前の、私を眠らせもてあそんだ毘沙門天の刺青をした男を、手配なり、調べるなりして頂けたでしょうか?

もし直ぐに手配されていたなら、そして直ぐに検挙して頂いていたのなら良いですが、今日に至っても、何も動いていないなら、そしてそれはここだけの話だと聞き流すのなら、私は今後見せしめとか口封じに、狙われるだけの結果になると言うことです。

それは生涯続くことに成るのです。

これは私の考えではなく、刺青をしていた男が口にした言葉なのです。

もしあなた方が言うやくざが悪なら、検事とは正義じゃないのでしょうか?

そこを間違えているから、心が籠もっていないから、何時までも同じことが続くのではないでしょうか?



 私は仕事を失いました。本当は意地でも努めたかったです。体を食い物にされて迄して摑んだ仕事ですから。

意地でも立派に努めたかった。

しかし騙すのも大人、そしてそれを叱咤するのも大人、私たちは社会人としてはまだひよこです。そのひよこを利用してもてあそんで、挙句の果ては、お前たちは甘いとか軽いとか言われるのです。

それも立派と言われる大人に。

常識と言われるマスコミに。


私を相手に、心をゾクゾクさせて興奮させて遊んだ男も全部大人。社会的に立派と言われる人ばっかり、これからの裁判の間に、何もかもをお話しする積りです。

裁判はまだまだ覚せい剤所持とか、管理売春とかで、他の裁判所で続くでしょう。寺田が生きている限り。

私は多くの人から疑われ、多くの人に怖がられて来たと思います。しかし私は決して誰が何を言おうが信念は変えませんでした。

寺田に手篭めにされた時も絶対心まで売る積りはありませんでした。

男の人から見るとこれって女の身勝手な理屈と思われるかも知れませんが、私はその男の人の為に必死でした。方法が間違っていたのかも知れませんが、幸村貞夫の為に、二人の為に、

私はどれだけ彼を愛していたか、口で言い表せないほど愛していました。


そして彼は、幸村貞夫は、貞夫は、それ以上に私のことを愛してくれていました。

死んでもいいと思うくらいに・・・」


かおりは両手で顔を拭い、その間から涙が迸ほとばしる様に飛び出した。

「被告人、被告人、どうされましたか?被告人、早瀬かおりさんどうされましたか?」

被告人早瀬かおりは両手で顔を拭いながら、その場にしゃがんで汲汲と泣き続けた。


思わず弁護士の早坂大輔がそのかおりの背中にそっと手をやり、

「かおりさん後は私に任せてください。あれを読めばいいのですね?」と言って机を見つめた。

「裁判長、裁判長、」

「どうされましたか?弁護人」

「裁判長、被告人に代わって私からお話しなければと思います。ご許可下さい。これは被告人に代わって被告人の言葉として、お受け継ぎ戴きますようにお願いいたします。」

「いいでしょう」

「これは、実は冒頭で裁判長からお話頂いた証拠品と全く同じ場所に、被告人が保管していたものです。

二日前にその証拠品と一緒に持ち込んでほしいと被告人に言われまして持って来ました。

これは手紙です。

今は亡き幸村貞夫が書いて、被告人に出した手紙です。

そして日付は平成二十二年六月五日になっています。

幸村貞夫氏が亡くなっていたとされる日です。

読み上げます。

《 かおり嫌がっている君にお弁当作らせて申し訳ない。

でも一度でいいから作ってほしかった。君がこのようなことを今迄から嫌がっていたから。


だからおにぎりでいいからって。今そっと覗いてみたら、美味しそうなおにぎりが見えている。今食べたいけど、上北山の渓谷の一番綺麗な所で食べる積りだから、楽しみにしている。

今は奈良県川上村の国道百六十九号線の踊場のような所で、この手紙を書いている。道向に郵便ポストがあるから、多分これから先には無いと思う。

民家もまばらだから。ここで書くことにした。

でも涙が出て来て、涙が出て来て、便箋を何回も破って、そんなことを繰り返している。


かおり、この二年間ありがとう。俺迷惑ばかり掛け続けていたね。

大好きだったけど、本当に好きだったけど、俺だらしない男だったから、俊介のようにきちんと出来なかった。駄目な奴だった。

何時だったか、はっきり覚えていないけど、パチスロをしていたら、中年の男が来て、その時負けていて、いらいらしていた時に、その男が近づいてきて、話があるって言われて車へ行って、それでかおりの写真を見せられたんだ。


そしてお金を摑まされて、

「別れろ」って、

その写真には口で言えないようなものばかりだったから、信じられなかったけど、その見返りに就職先を世話してあげたって言っていたから、その後君に聞いたら、

「内定貰っているの」って言っていたから、それ以上何も言わなかったんだ。

でもその男は、名前は寺田って言っていた。それで、

「裏社会の者も絡んでいるから、大人しく手を引くことだと言われたよ。それからかおりが何となく様変わりしていくのが怖かった。

でも寺田が、

『幸村さんはこの二年間の間、いつも貧乏臭くて、私の奨学金まで借りに来る男だけど、大好きだから、何とかしてあげたいの。』ってかおりさんが言ってたぞって言われたよ。


あの男に二回金を摑ませれ、あんたの仕事も世話してあげるとも言われたよ。

俺いつの間にか腐ってしまって。かおりまで俺の為に狂わせてしまって。

こんなだらしない男と何時までも付き合ってくれてと思うと辛くて、それでも自分にはきちんと出来ない軟弱な所があって。

多分大学も俺だけ単位不足で取り残されると思う。

俺って九州の田舎で、椎茸を作っている方が良かったのかも知れないと思うよ。

こんな自己管理も出来ない男なんか、今の時代に、誘惑の多い都会で、生きて行く事など出来ないのかも知れない。


かおりもう疲れたよ。


俺なんか居ない方がいいと思う。君に世話を掛けっぱなしで。

それと、これからは、今までのかおりではなく、あの写真のような姿を頭の隅で気にしながら、付き合って行かなければならないのだろうと思うと、辛い。辛すぎる。

辛すぎるから。もういい、


 九州の二人にはかおりを嫁さんに貰うかも知れないって言ったりして、

俺は、おれは馬鹿だなぁ

でも俺

かおりを嫁さんにした気持ちに成っている事は以前から。

だから辛い。愛する人を苦しませている事が、どんなに辛いか、そして苦しいか、


俺、もういいから もう十分だから 俺なんか何処へも戻らない程いいと思うから。もういい。

さようなら かおり

お世話になりました。


これは二人だけの秘密だよ、俺は大好きな釣りをしていて事故にあってと、格好良く死なせてほしい。

そしてかおりも憧れの動物病院で、俺の事なんかまるで何もなっかた様に、これからは元気よく働いてほしい。

では、さようなら

 平成二十二年六月五日車中にて》


裁判長、

これで終わります。証拠品として提出致します。」



「これをもちまして閉廷と致します。判決は同場所同法廷同時刻にて執り行います。閉廷。」


 傍聴席に座っていた田川俊介と磯崎春華は、考えもしなかった結果に、唖然とする心と安堵感で一杯になっていた。


そして今に至っても俊介には、おおらかな性格の幸村と自殺が結びついていなかった。

それでも彼の心の中で燃え続けていた炎が、確実に消えて行く事がはっきり分かった。


「春華二年間ありがとう。これからも宜しくね。色々あったけど上手く収まりそうだね。」

「お疲れさん。俊介も幸村さんもかおりさんも、みんな同級生で良かったね。俊介は私が付いて居ないとね。これからも一緒に居てあげるから。」

「まぁしぶしぶ我慢するかぁ。」

「しぶしぶ?がまん?何よその言い方?」

「春華僕その積りだからね。」

「何よ?」

「だからその積りだって」

「はっきり言いなさいよ。

貴方と結婚したいって、春華僕の嫁になってほしいって、はっきり言いなさいよ。」

「・・・。」

「はやく」

「よし思い切って」

「思い切って、男らしく・・・・・」

「らーめんだ~」




完結です。お疲れさまです。




この物語はフィクションであり、登場する全てと

実存する全てとは一切関係ありません。)



      題名 同級生の詩      

      作者  神邑凌

簡潔です。おつかれさま。。。。

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