表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
濃紺  作者: 街子
1/1

ネイビー


あなたのことは大好きだったけれど、これは恋ではなかった。


「ごめん」



電話の向こうから聞こえた声は、謝罪の言葉。

弱々しくて、でも何処か芯のある声だった。



「嘘つき」



それだけ言って電話を切ると、両目からどっと雫が落ちた。


私が欲しいのは、謝罪の言葉なんかじゃない。

何を言われても納得なんてできないし、納得したいとも思わない。

謝られても、許す、許さないの問題じゃないのだ。



「っ……」



泣くな、泣くな。


自分に言い聞かせながら、必死で歯を食いしばった。

それでも、漏れる嗚咽は止まらなかった。






私、野々村チホはこの日失恋をした。


もうすぐ付き合って1年になる彼氏との別れだった。





**


学校に行くのが億劫で、このまま寝ていたいと思ったけれど、今日に限って期末テストがある。


こんな時期に別れ話をしてきたアイツを、全力で恨んでやろうと心に決めた。

おかげで勉強もしていないし、テストを受ける余裕など、この心にはない。


学校側がそんな個人の事情に対して気を使ってくれるわけもなく、相当のことがない限りテストは実行だ。

勉強はしていないけれど、せめて受けるだけ受けておこうと重たい体を起こした。



「うわ……」



机の上のスタンドミラーを覗くと、泣きすぎのせいで腫れた瞼が、もともと小さい私の目を余計隠していた。



「ひどい顔」



悲惨な顔が、更に悲惨になっている。

学校になんて行けたもんじゃない。


もういいか。

休んじゃえ。


腹を括り、もう半分自暴自棄になりながら母に体調不良だとメールを送った。



そのまま携帯を机に放り投げ、ベッドに勢い良く潜る。



「仕方ない、うん」






__さっきから「寂しい」「辛い」と悲鳴をあげる心から、目をそらしたくてひとり言が増えていることにも、私は気づいていた。







起きた時には、時計が昼の2時を指していた。

また結構、眠り込んでしまったようだ。

きっと昨日の泣き疲れからだろう。


机の上に投げた携帯が、着色を示す点滅をしていたので、ベッドから起きあがり携帯を手にとった。



「……は」



不在着信3件。

1つは母から、あとの2つは昨日別れたばかりの拓海からだった。


正直、驚きを隠せない。



「何よ今更……」



今更連絡してきて何を言うつもりなんだ。

昨日振られたばかりなのに気を使えよ。


なんて毒づきながらも、私の指は拓海の電話番号にコールしていた。


……心のどこかで、やり直そうと言われることでも期待していたのかもしれない。





数回コールしたのち、コールの音が途切れ電話の向こうで「もしもし」と声がした。




「……?」





「おー元気ー?」


「……」



電話の向こうから聞こえた声は、拓海ではなく、同じクラスの斉木浩介の声だった。


なんで、こいつが拓海の電話に出るんだ。



「拓海は?」


「寝てる」


「電話変わって」


「さっきから電話かけてたの俺だよ」



意味がわからない。

何故拓海の携帯からわざわざ私に電話をかけてくるのだ。

確かに電話番号は交換していないが、話すような仲ではなかった。



「どういうこと?」


「いや、テストなのに学校来てないからどうしてかなって思って。拓海に聞いても答えないし」



あぁ、いつも私たちが仲良く話してるから不思議に思われたのか。




「あーうんちょっと体調悪くて」


「そっか。ゆっくり休めよー」



そして電話は一方的に切られる。

1分もない会話だったけれど、少しだけ心が軽くなった気がした。


そういえば、斉木とまともに話したのはこれが初めてだ。

いつも拓海とか他の男子といるけど、あまり仲良くしたことは無かった。

だからこそ、気にかけて貰えたことにより心が軽くなったのかもしれない。







まだ目の腫れは引かない。

心の重りも取れない。

傷も癒えていない。


それでも、少しだけ胸の真ん中があったかくなったのは、斉木のお陰だと思った。

















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ