結末・悔
攻めてきた龍の将軍が天女様を見付けると、
『おお これは うつくしい』
『あなたも すてきね』
外見だけしか見ないから、私が醜いと気付かない。
外見だけしか見ないから、
私には容姿だけしか価値はない。
天女様は雲の上へ昇っておいでになったばかりの頃は勤勉でございました。
それが長い月日を経て、多数の男性から愛される為に、知識ではなく愛嬌を取ったのでございます。
天女様も虚しさはありました。
多数の男性は褒めて頷いてくれれば誰でも良いからです。
天女様でなくても、褒めて頷いてくれれば。
今頃、天女様の代わりに何人かの別の天女様と神々は戯れているのでしょう。
つまらないことだわ。
飛龍の乗り物で移動の道中、麹塵の鱗に日光をきらきら反射させて、龍将軍は始終楽しげでございました。
戦での功労者として褒美が、だの、そなたは龍の国でも愛でられる、だの。
天女様はたいそう退屈で、瞬いた光を目で追っておられました。
丁度、龍将軍の話が好物の花で天女様を着飾らせようと両手を左右に広げた頃でしょうか。
天女様は雑音の主をじぃっと射るように凝視し、それからゆっくり高く口角を上げられました。
にっこり
『… ぱちんッ(赤い実のはじけた音)』
私を知りもしないくせに。
龍の王国に到着した頃には既に将軍は骨抜きでございました。
必死に取り繕う姿の滑稽さを嗤いながら、天女様も何喰わぬ顔で龍の王様に謁見することになりました。
龍将軍は恭しく、頭を垂れ、御言葉を頂戴します。
前にいた国の王とは違って、雰囲気が龍王にはありました。雲の上の神々とは違って、慎重にお言葉を選んでいるのがわかりました。龍の将軍と違って、王として己の感情の機微を悟らせぬ威厳がありました。
きっとこの方は今まで間違えたことも恥じることもなく、立派に生きてきたのだ。これからもそうやって、生きていくのだ。
この王は、唯一無二。代わりはいない。
私も、あんな風に。
ーーほろりーー
天女様の頬に涙が伝います。
私が勉学に励んだままなら、誰かの唯一になれたのかしら。
民は王を選べない。
人は生まれる場所を選べない。
私は居場所を選べない。
王との違いをまざまざ見せつけられて、天女様は久しく感じていなかった感情が胸に芽を出しました。
側近が王の言葉を伝えます。
「女、何故泣く?」
『私の矮小さを思い知ったのです』
「何故、今?」
『龍王様ほどの方と今までお会い出来なんだのです』
「如何様にすれば汝の憂いは晴れる?」
『お側に置いてくださいませ』
「…… 是」
そうして龍王という目標を得た天女様は、愛敬は適度に活かしつつ、龍の国で勤勉に学び始めました。
天女様が徳を積み、龍の国を守護する一人になる日もそう遠くはないでしょう。