存在論的アンモナイトの午後
「てくな、何やってるの?」
「見ての通り、煙草の解剖だよ」
「ああ、てくな先生の非生体解剖シリーズか」
「微妙に矛盾してる言葉だけどね」
「これまで解剖の対象となったものは数知れず、カロリーメイト、プロテイン、読まなくなったライトノベルなどなど」
「もともと生きていた素材の組み合わせを分解するのが楽しいんだ。ロマンだよ」
「……それって、発掘したアンモナイトの化石を海に帰すようなものだよね」
「それは究極の自己満足ということかい?」
「いや……あえて言えば、あらゆる実存の無意味さを露呈させる存在論的試み……」
「ちょっと。そういうのはもういいから。あえて言わなくていいから」
「冗談だよ。まあ、自己満足というのかな。うん、自己満足なのかもしれない。ただ、ロマンって言ったからさ。その気持ちはわからないでもないってこと」
「そう……私はこの行為そのものにはあまり意味を求めないようにしているが」
「それでもだよ。というか、だからこそさ」
「なんだ、釈然としないな。君はロマンという言葉がいったい何を意味するか知っているのか?」
「知ってないわけでもない」
「ほほう。じゃ、言ってみるといい」
「言わない」
「言わない?」
「うん。だって、あえては言わないようにしてるから」
「なんだ、さっきの話を根に持ってるのか?」
「いや。そうじゃなくて、根を掘り返さないようにしてるだけ」
「なぜ根を掘り返さない?」
「なぜって、木が死んじゃうからだよ」
「……わかった。もういい」
「今日は静かにしていよう」
「ああ。眠っている後輩を起こさないように」