ゴブリン
何事もなく3階に来れた。洞窟内はいつも薄暗いので時間の感覚がおかしくなる。逆に森林と草原エリアは、どういう仕組みか不明だが外の時間と連動している。外が昼なら明るく、夜になると暗くなる。
移動する間、奴隷のフォルスを観察していた。彼の武器は中古の剣だけ。最短距離を移動してきたけど、彼は疲れているようにみえない。一人で5階まで行けると豪語するだけあり、相当優秀なのかもしれない。バッレクは4階までなら一人で行ける自身がある。しかし、モンスターの集団に襲われた場合を考えると、一人で活動するなら3階まで。
4階に向かう途中の脇道から、男の悲鳴のようなものが聞こえてきた。当然声のした方に足を向ける。暗くてよく見えにくい。革の鎧をつけた男が一人倒れていた。
「大丈夫ですか」
離れた場所から返事を待つ。
「う、うう」
「近くに行って助けないのですかい?」
フォルスが意見を述べる。
普通なら助けるがここはダンジョン。ダンジョン内で注意する相手はモンスターだけではない。
盗賊団もいるという話もアンから聞いている。
「盗賊の罠かもしれない。フォルスはあの革の鎧は着れそうですか?」
「……(体の大きさが)同じなので、着れますぜ」
身長に辺りを確認して近づく。不意に、嫌な『予感』がしてしゃがむ。
石が空気を切り裂く音がして、間一髪回避した。
しゃがまなければ頭に命中していただろう。
「罠だ!卑怯だぞ。どこにいる!出てこい。仲間の命がどうなってもいいのか」
ナイフを倒れている男に向ける。素早く男を確認するとすでに死亡しているようだ。
まずいな。この男も罠だとすると……。
「「グギャギャ」」
予想は当たり、小さなモンスターが暗闇から現れた。
ゴブリンだ。知能はあると知っていた。まさか声まで真似て、人間を囮に使うとは思ってもみなかった。
「ぬんっ」
フォルスが走り、ゴブリン3体を切り伏せていく。あっという間だ。ゴブリンは消えてアイテムがドロップされていく。
「助かったよ。働いてもらった所悪いがこの男の装備を着てくれ」
「……」
若干嫌そうにするが、主人であるバッレクの命令には逆らえない。
装備を手に入れて強化されたので4階に向かう。ダンジョンで死亡したものの持ち物は発見者の物になる。ギルドカードだけはバッレクが回収した。これを届けると少しお金を貰える。
フォルスの装備代金が浮いて良かった。
泉についた。時間はちょうどお昼くらいか。フォルスは装備を洗いたいと申し出てきたので許可を出す。
「僕はご飯の支度をするから」
一言断り作業を開始する。以前仕掛けた罠には兎がいた。4階には兎や猪といった地上の動物も生息している。4階から6階には、捕らえた動物を販売する商人までいるほどだ。
兎の肉がたっぷり入ったスープが出来た。
フォルスを呼び食事をする。
「余ったのはどうするんですかい?」
「ああ、まだ足りなければ全部食べてください」
「遠慮なく頂きます」
満腹になったら昼寝をしたくなってきた。