奴隷
目を開けると、ダンジョンの薄暗い洞窟内ではなかった。
「ここはどこだ?僕は助かったのか?」
「ようやく目が覚めたのかい。あんた、丸3日間もうなされてたんだよ。看護してたこっちの身も考えてくれよ。宿泊代も私の手当てもちゃんと払ってもらうからね」
声の方を見るとギルド職員のおしゃべりリロがいた。
彼女の説明によると太っちょダニーが助けてくれたらしい。訓練の為にたまに2階でゴブリンを相手にしているのは知っていた。倒れているバッレクを見つけて、ここまで運んでくれたらしい。リロにお礼を言い、宿泊代と彼女に看病代をしはらう。ダニーにお礼に行こう。その前にギルドで報告をしなければ。
3日間寝ていたのは本当らしい。少しふらつく。それにしても、ここ数日で色々なことがあった。死んでもおかしくない事態が2回もあった。普通ならもうダンジョンに行くのは止めて、真面目に働こうとするだろう。だけど、それが何だ。もう一歩。あと手で擦れる近くまで大金を掴んでやめられるわけがない。
「それで、ラコの処遇はどうなるんですか?僕は殺されかけました。貴重なダンジョン産の魔導書も彼女に奪われました。彼女の席がまだあるのなら、対処していただけますよね?」
ギルド受付の職員相手にみっともなく大きな声で話す。周りも注目しているようだ。だが、金貨100枚だ。なりふり構ってはいられない。
「バッレク。そのことなんだがのう。何度調べても、ラコなんて名前のやつはいないんだよ」
「そんなぁ。確かに名前はラコであってるはずです。年は16、性別女。もう一度探してください」
「おいおい、爺さんを困らせるなよ。マヌケ。名前が無いってことは偽名でも使ってたんじゃないか?」
酔っ払いの男がバッレクに絡んできた。
「そうだ!ギルドの入り口で身分証の提示がありますよね?あの時は見慣れない守衛がいたけど。その人に聞けばきっと名前が分かるはずだ!」
「……いなくなったよ」
あぁ……なんてことだ。がっくりして、床に頭をぶつける。
「まぁ、気を落とすでないのぉ」
「はは」
とぼとぼと外に出る。
「金貨100枚も、魔導書も僕が見つけたものだ。許さない。許さない。おっと、ダニーの為に食べ物と飲み物を買っていこう」
ダンジョンの入り口に着く。ダニーは珍しく何も口にしていなく職務を遂行しっていた。
「ダニー。助けてくれてありがとう。これはお礼に食べて」
「おうよ。あとで貰うわ。話は聞いた。災難だったな。2回も裏切られたんだって?何で奴隷を買わないんだ?多少高くてもダンジョン攻略するには役に立つぜ!」
「考えときます」
奴隷か。今まで考えてなかった。バッレクの村にも奴隷はいた。税が払えなくなったり、犯罪行為をしたりいろいろな立場がある。奴隷は主人の命令に忠実だということは分かる。気分は良くないが有り金をはたいて奴隷を買おうか。
ダンジョンのすぐ裏手に奴隷商の館がある。この町でも珍しい3階建て。建物の周りは掃除をしているのかとても綺麗だ。相当儲かっているんだろう。中に入って出てきたのは小太りの男だ。良い物を食べているのだろう。
ニコニコと張りついた笑みで迎える。
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか?」
「ダンジョンで共に戦える奴隷を探している。裏切らない真面目な奴隷が欲しい。性別は問いません」
金額を告げると、考え込むようなポーズをとりこちらを値踏みするように見る。
「かしこまりました。当店のおすすめをご用意しましょう」
しばらく席をはずしていた小太りの男が2人の男女を連れてきた。
「こちらの男はフォルス。年齢は35。戦士をしていたので前衛が得意です」
その男の第一印象はニコリとも笑わない。ご主人様になる可能性があるので、もっと愛想よくした方がいいのではと勝手ながらに思った。短髪にがっしりした体形。自分より恐らく強いだろう。接近戦にしても勝てるビジョンが思い浮かばない。
「次の女の名前はケイト。年齢は19。弓術にたけています」
彼女の青い瞳とバッレクの瞳が交差する。
「それで、どちらにしますか?」
小太りの男は聞くが、どちらを買うかなんて見た瞬間から決まっていた。悩む必要はない。