2度目
次の日もはぐれ個体のモンスターを狙って狩る。
たまに、同業者を見かけるがこちらをチラっと見て、どこかへ消えて行った。
2人でいるのはバッレクたちだけだろう。大体4人から~10人くらいの少数で探索しているようだ。
中には、モンスターに襲われて仲間と別れてしまったと解釈して、御節介にも「大丈夫か」と話しかけてくる者もいた。ちゃんと事情を話したら目を大きくして去って行った。
バッレクは周囲を見て、罠がないか。またはお宝がないか注意深く観察する。
ダンジョンの壁側をじっと見つけると違和感の正体に気がついた。一部の壁が幻のようなもので覆われて、実際は隠し通路があった。人が一人辛うじて通れる狭さだったのでバッレクだけ通る。進んだ先には小さな部屋があった。部屋の中央には小さな銀色と木の宝箱があった。
銀と木の箱。噂には聞いていた。7階以上にしかでないという幻の宝箱。それがたった、4階で見つかった。自分はついているぞと調子にのりそのまま開けてしまった。
宝箱に罠はなく、中身は魔導書だった。魔法使いはこの魔導書から魔法を習得する。
ダンジョン産の魔導書だ。金貨100枚以上は稼げるだろう。2人で分けても50枚以上は手に入る。笑いが止まらない。バッレクは魔法に興味はないので、魔導書を読んでみたいという欲求はない。むしろ、魔導書を早く現金に換算にして、いくらになるかにしか考えていない。
「ねえ、少しくらい見せてくれてもいいじゃない」
しかし、ラコは違う。彼女は魔法使いで魔法に興味がある。魔導書の事はよくわからない。価値が落ちるかもしれない。魔導書をラコから遠ざけねば。
「僕が見つけたんだ。報酬はしっかりわけるから大人しくして」
「ちっ、しょうがないわね」
今は2階の洞窟エリアの隅で休憩をしている。
ラコは猫なで声で話す。
「今日は私がご飯を作るよ」
「いや、魔法を使って疲れているだろう?僕に任せて」
本当はギリーとアンに裏切られた事で危機感を持っている。
3カ月同じ釜の飯を食ったやつですら、お金の魔力には逆らえなかった。ましてや、ラコは出会って2日かそこらだ。魔法は頼りになるが、また裏切られるかもしれない。食べ物や飲み物に薬を盛られる可能性を考えて、自前ですべて用意して正解だった。
それにしても、宝箱から金貨100枚を見つけたり、魔導書を見つけたりついてるぞ。
ようやく自分の土地を持って生活できそうだ。一度は裏切りにより諦めかけた夢がようやく叶う。ダンジョンは死ぬ危険が大きいが、一攫千金を稼ぐことも可能だという夢を見せてくれる。後は何事も無いように神に祈りながら脱出するだけだ。
ご飯の準備をしていると、段々と自分では逆らえない程の睡魔が襲ってくる。頭がぐわんぐわんと揺れる。
正体不明の攻撃を受けている。これは攻撃されているのか?2階にいる強敵はゴブリン。外見は緑色。血と肉を好む残忍なモンスター。大きさは子供程だけど、知能があり、集団で襲われるとやっかいなモンスターだ。あいつらではないな。どういうことだ。食事や水は全て気をつけた。何か盛られたとは考えにくい。必死に頭を働かせ、考察しているとラコの声が聞こえてきた。
「マヌケめ。天才である私がご飯に毒でも仕込むと考えたのか。それは三流の仕事だ。一流の私は違うぞ。攻撃魔法以外に支援魔法が使えると言ったのを覚えているか?私が使える唯一の支援魔法は対象を眠りに誘う睡魔の魔法!その魔導書は私の物だ!寄越せ」
必死に魔導書を話さないように掴んでいたが、体が動かなくなりどうにもできなくなった。
「殺しはしない。だけどゴブリンどもから生き残れるかな?生きていたら私に感謝しろ。マ ヌ ケ」
もうラコの声は聞こえない。ただ気持ちよく眠るだけだ。睡魔の魔法か……。聞いたこともない魔法。騙されるは2度目か。ああ……マヌケか。