仲間
仲間だと思っていたギリーとアンの事を考えた。1人でダンジョンに潜りこんでいる僕に初めて声を掛けてくれたのがギリーだった。子供が一人で探索するのは危険であると説き伏せられた。子供じゃないと反発したかったが、反発するのも馬鹿らしくなり止めた。それから3人で行動するようになった。ギリーには毎朝剣の稽古をつけてもらった。ど素人の剣筋から、少しは戦えるようになったと思う。女魔法使いのアンには、ダンジョンの危険性やモンスターの特徴について教えてもらった。
かつてアンに教えられた掟を思い出した。『メンバーは誰も信じてならない』
その時、「アンとギリーも信じてはいけないの?」と聞いたら何て答えてくれたんだっけ?思い出せない。
ダンジョンでの死亡事故は多いので、僕がそのまま殺されても誰も調査はしないだろう。
僕が助かったということは、2人は僕を殺さずに、お金だけを選択したんだ。ちょっとだけ嬉しくなった。
ダンジョンから出ると守衛がいた。太っちょのダニーだ。いつも何か食べている。今も見たこともない肉の塊を美味しそうに齧っている。
適当に挨拶をして前に進む。入場時には身分証明書であるカードの提出が必要。誰でも無条件でダンジョンに入れるという訳ではない。
ダンジョンを囲い込むように作られたザッカリラ町。およそ5万人は住むと言われている。
ダンジョンの出口、徒歩2分の場所にあるギルドに入る。2階建ての石造りの建物。一階が受付で、2階が宿泊所と酒場になっている。
僕は2日間もダンジョンで寝ていたらしい。数時間だけだと思ってたから驚いた。果汁水に睡眠薬でも仕込んでいたのか?ダンジョンの中だと外と違うので時間が分かりにくい。
ギルド職員にお宝を見つけてからのこと報告した。ギリーとアンの事を聞くと、彼らはは昨日、冒険者ギルドを退会して、どこか別の町に去っていったらしい。「探すか?」と聞かれた。とても払えないような金額を提示されたので残念ながら捜索は辞退した。
これからどうしようか?彼ら(ギリーとアン)を探すのはもう無理だと思ってあきらめるしかない。一人だとダンジョンの奥には進めない。お宝は奥に進むほど出現して、より価値のある財宝が入っていると考えられている。よって、危険を冒してまで奥に進む必要がある。そのためには、安心して背中を預けられるような『仲間』を見つけなければならない。
冒険者ギルドの2階の酒場には軽食も提供している。カードを見せると、割引されるのでお金がない僕みたいな駆け出し冒険者には人気がある。パンとチーズと新鮮な牛乳を注文した。ゆっくり味わって食べた。パンとチーズの塊を持ち帰りに包んでもらう。水袋の水も補給した。あとは『仲間』を探してダンジョンに潜るだけだ。
食べ終わった皿を眺めて、ぼけーっと座ってしていると、横からまだ僕と同じくか、少し上くらいの年齢の女の子が話しかけてきた。この辺りでは見かけない黒髪に黒い瞳。意思の強そうな瞳は、僕の目を捕らえて離さない。背は僕より高い。茶色のローブを纏い、手には杖を持っていた。魔法使いかな?それしかないか。
「ねえ、貴方が『マヌケ』のバッレクね。私と一緒にダンジョンに潜らない?」
僕はお宝と女の子には弱い。もう返事は決まっていた。