母親探し2
母親探し1編の続きです。
母親探し2編は、これで完結です。
けいくんと一緒に寝ちゃった。しかも朝まで…!
でも私、何もされてないみたい。
ひょっとして…もしかして女のコ扱いされてなかったりする!?
…そういうこと、まったく知らない訳じゃない。
経験はないけれども。
だけどちょっと怖いから、あんまり考えないにしよう。
そうしよう!そうしよう!
私は一瞬頭の中に浮かんだ禁断の果実から目を背けた―。
「おはよう…あ、あったかいね…今日…」
私は一緒に寝た昨日の事を意識してないというそぶりで、まだ眠たそうなけいくんに話しかけた。
「おう…もう春も本番だもんな…」
あれ?勘違いかも知れないけれど、けいくんもどこか気恥ずかしそう。
この時私は、これから春の嵐が訪れるなんて―思いもしていなかったんだ…。
…
「―ここね」
カツコツ。ハイヒール音と青いトレンチコートの裾が風に煽られる音がする。
私は負けない。どんな処へ行っても。
けいちゃんの為なら私は…どんな事だって厭わないわ。
「けいちゃーん!!お久しぶり~」
マキとけいじが二人並んで、マンションの入り口へ続く桜の道を散歩していると、真正面から声をかけて来た女性がいた。
「!?え…誰…もしかして、早織さん!?」
驚いて目を丸くするけいじ。それに対して早織と慶治を交互に見て、同じ様に目を見開き、動揺する小さなポニーテールの少女。
「あなたが今けいちゃんと住んでる女の子なのね?初めまして。けいちゃんの従姉の若山早織ですー!よろしくねー。ポニーちゃん!」
そう言って背の高い大人の女性は少女の頭を撫でようとした。
が…。それは意外にも強い力で、小さな手によって払いのけられた。
「バカにしないでっ!」
そうしてマキは、自分より年上の早織を思い切り睨みつけた。
すると、早織は一瞬言葉を失ったが、すぐに調子を取り戻し。
「それよりけいちゃん?大事な話があるんだけれど…そうね、その子がいても別に構わないわ。端的に言うと…あたしと付き合わない?」
「えっ!?」
「何言って―」
二人が表情を固くする一方で、不敵な笑みを浮かべる年上のいとこ。
早織はさらに続ける。
「会わせてあげる」
「え?」
「あたしと付き合いなさい。けいちゃん、あなたのお母さんに会わせてあげるから」
「!母さんに…!?」
「ええ。嘘じゃないわ、本当よ」
その時の俺はどうかしていたんだ。
母さんに会えるんだ…!そう信じて疑わなかった。
それは確かに本当のことで、早織さんは嘘をついたり俺を騙したりなんかしていなかった。
ただ俺は、その事しか見えていなかったんだ―。
…
「…ちょっと、けいくん!なんなの!?あの人っ」
不機嫌な空気を全開にして、私はけいくんと家に帰ってきた。
「単なるいとこのお姉さんだよ」
…それにしてはなぜか顔が赤い。
「ふーん、本当にそれだけかなー?」
私が確かめる様に顔を覗き込むと。
「それだけだよ」
そう言って顔を背けるけいくん。だから私も…。
「分かったよ」
それだけ言って、話題を終わりにしようとしたのだけれど…。
「はあーい!来ちゃった」
玄関にはいつの間にか、先ほど強烈なインパクトを与えてくれた、けいくんのいとこが立っていたのだった…!
「!なんで部屋まで知っているの?」
呆然としながら訊くマキ。
「けいちゃんから教えてもらっちゃったから!」
弾んだ声で言いながらウインクをする早織。
「ちょっと!けいくん!?」
どうして?と言いたげな様子でマキは問いただす。
「別にいいだろ。いとこなんだし…俺の家なんだし―」
「…そっそれは…確かにマキが口出しすることじゃないけど―」
そこまで言いかけると今度は部外者だと思っていた早織がきっぱりと言った。
「そうよ。マキちゃん…で良かったかしら?今、あたしとけいちゃんは大事な話をしてるの。別に聞いてもいいけれど、かなり個人的な内容だから…やっぱり出来れば二人きりにして欲しいわ。ねぇ?けいちゃん」
上目遣いで、そして滑らかにセリフを喋るかの様に言い放つと。
慶治と早織は目と目で会話をし始めた―ようにマキには見えた。
「…わかった。マキ、公園に行ってきます。話が終わったら来てね、けいくん。
ちょっと…あのいつもの公園にいるから」
諦めがついたのか、自分一人になりたいのか、心を落ち着けて冷静になりたいのか―マキには自分の今の気持ちが分からなかった。
けれど二人と一緒にいてはいけない気がした。だからマキは駆け出した。
あの日、運命の再会と衝撃を受けた―印象深い公園へ。
けいくんと二人で来た、春の公園に―。
…
「はぁっ、はぁっ…ここで…会っちゃったんだよね―」
走って出て来たから息が切れている。
思い出していた。あの日の春の桜の咲く、この公園で。
私の本当のお母さんと、けいくんのお父さんが…これ以上は思い出したくない。
「けいくん…?その人のこと、すきなの―?」
マキは青空を見上げて、ひとりごとを呟いた。
視界が次第にぼやけて、ピントが合わなくなってくる。
「うん…?え…なんでぇ?」
限界まで溜めた涙が、ついにあふれ出した。
「マキが泣く理由なんて…ないのにね?」
少女の頬が透明なしずくの道筋をつくっていく。
「…っひっく…ううっ…」
とうとうしゃがみ込んでしまった。
「けいくんー!早く来てl…やっぱり来ないでぇ…もう…マキ分かんないよう…」
小さな両手で顔をおおい、マキは声を殺して泣いた。
頭が痛くなるくらい泣きじゃくった。
人目もはばからずに、慶治と早織のことばかりを考え思いを巡らせながら―。
…
「…わかった。でも要件が済んだら別れる約束な」
「ええ。必ず会わせてあげる。あなたのお母さんに」
こうして俺と早織は付き合うことになった。
五月までの期限付きと、母さんに会わせてくれるという条件付きで―。
「マキちゃんには…」
心配そうに首を傾ける早織に俺は言い聞かせた。
「俺が言う。けどマキには心配させたり辛い思いはさせたりしない。
あくまでも俺が本当に好きなのは―蒔希だけだからな」
「うっそー!けいちゃんの初恋はあたしだったじゃない!」
上目使いおどけながらモデルみたいなシルエットが近づいてくる。
「そうだよっ…でも今は…!」
言い終わらないに唇を奪われそうになる―。いかにもという慣れた手つきで。
「!おいっ、何するんだよっ!」
俺は早織早を引きはがした。
「だって、あたしたち恋人同士でしょう?」
今度は肩に手をかけられた。
「恋人たちのすること、一個もしないの?」
早織はとうとう自らのセーターの裾に手をかけ始めた。
「おいっ!やめろって!」
俺は早織の衣服の乱れを慌てて直した。
すると早織は。
「えっへへー、冗談だよ~っ!もしかして、けいちゃん本気にしちゃった!?」
小首をかしげ、俺のひたいを指で軽く小突く。
「ばかなこと言うなってば―俺が好きなのは…」
「はいはい!マキちゃんだけだったわよね~」
そしてまたウインクを飛ばしてくる。
数秒後、真剣な眼差しになって俺はドキッとした。
「いつにする?」
早織が聞いて来た。
「いつって?何の事だ?」
何を言っているのか意図が分からず混乱して表情を固くする俺。すると―・
「会いに行く日。けいちゃん、あなたのお母さんに会う日よっ…!」
そう言い切ると、早織は何故かどこか寂しげな表情を一瞬だけ浮かべて見せた。
「…早織?どうかしたか?何か悩みでも…っ?」
俺が早織の瞳を覗き込むと早織は慌てて目線をそらし、こう続けた。
「嫌だなーけいちゃん。あたし大ざっぱだから小さな事で、くよくよ悩んだりしないわよ」
そうして歯を見せて笑った。
「そうだよな。早織は強いもんなっ!」
俺も笑ってみせた。でも俺は分からなかったんだ。この時はまだ…早織が見せた一瞬だけ曇って見えた、その表情の意味を…。
…
「けいくん…!と、早織さん!?」
何で二人が一緒にいるの?公園のベンチに腰掛けていた私は驚いた。
「―その手は…?」
なんと二人は手をつないでいたのだった。
手を組む様に、それはしっかりと…。
「マキ、落ち着いて聞いてくれ。俺は早織さんと付き合う事になった」
こくり。隣で頷く早織。
「え!?どういうこと…?だって、けいくんはマキと―」
そこまで言うと服の袖を掴んでいたマキの小さな手は、けいじの手によって払いのけられた。
「マキ…ごめんっ本当にごめんな―」
そうして目も合わせずに踵を返す慶治と早織。
二人は仲良く寄り添いながら先を行く。
どんどんどんどん先へ行き、とうとうその背中が小さくなってやがて見えなくなるまでマキは立ち尽くしていた。
「…こんなことってあるの?」
キツネにつままれたとはこの事を言うのだろうか?
置いて行かれたことよりも、二人が何か秘密を共有していることよりも、何よりもマキは―。
けいじの心変わりがショックだった。あんなに一途に愛してくれたのに。人はいとも簡単に心で思っていることが上書きされてしまうの?永遠の愛なんて存在しないの?
二人は結ばれる運命じゃなかったの?誰か教えて―!
マキは自分の部屋に戻って来ても泣き止むことが出来なかった。
「気持ちが通じたと思っていたのは、私だけだったのかな?」
ひとりごとを口にし、その日は部屋から一歩も出なかった。
けいじにドアをノックされても寝たフリをした。
泣いていることに気づかれてしまわぬように―。
…
翌朝―目が編めるとテーブルの上に、こんな置き手紙があった。
『早織とちょっと出かけてくる。心配しないで大丈夫だから―けいじより』
急いで書いたのか、文字の所々がかすれているのが分かる。
「何よ、こんなのっ!」
マキは頭に血が上り、置き手紙をグシャグシャに丸めて放り投げた。
「…けいくんなんて、もう知らないんだからっ!」
そうしてマキは家を飛び出した。
…
俺たちは並んで歩いていた。一歩一歩踏みしめる様に。
会えるんだ、これから。母さんに…。
そんなことに期待していると早織が口を開いた。
「本当にいい?けいちゃん…」
心配そうな目をする早織。
「あぁ。母さんに会えるなら、どんな場所にだって行く」
すると早織は大きく息を吸い、頷き―。
「…分かった。じゃあ、行こうか?」
そして俺の手をとり少し早足になった。
…
「ここよ―」
「…え?ここって―」
そこは小さな公園墓地だった。緑が豊かで自然に囲まれた、それでいて適度な空間を保って並んでいる墓たち―。こんな所に母さんとの関連性見出すことは俺にはできず、今どうしてこんな場所に居るのか、それとも単に寄り道をしているだけなのか理解出来ないでいた。それを見て早織は口を開いた。重たいドア開ける様に…。
「ここにいるの。叔母さま…そう。けいちゃんのお母さんが―」
「え…?」
「信じられないかも知れないけれど、事実なの。叔母さまは三年前に亡くなったわ」
「!?なんだって…嘘だろう?何で亡くなったんだよ?」
早織は数秒おいてあ慶治に告げた。
「病死…よ。心臓病で命を落としたの―」
そう言いながら涙ぐむ早織。
「何でもっと…もっと早く言ってくれなかったんだよ!?言ってくれたら…」
最後まで言っても母さんは生き返らないし、早織を困らせるだけだ。
はっとした俺は、ゆっくりと歩き出す。母さんのお墓に向かって。
「小宮山…聡子…母さん…本当に母さんなんだな…」
無意識のうちに俺は墓石を抱きしめて。
「けいちゃん…聡子叔母さまっ…」
早織も駆け寄り、墓前に手を合わせる、
いつもの姿勢の良い真っすぐな背中背が、今は小刻みに震えている。
慶治は思ったことを口にした。
「なぁ早織…なんで母さんは小宮山の姓になってるんだ?何か知ってるか?」
すると早織からは納得のいく答えが返ってきた。
「…離婚なさったのよ…でも実家にも居場所が無くて、アパートを借りて一人暮らしをしていたみたい」
―そうだったのか。合点がいった。
一人で納得していると、隣からか細い声が聞こえてきた。
「ごめんなさい…知りたくなかったよね、こんなこと―」
俯く早織。
「どうして?」
訊き返す慶治。
「…だって、"会わせてあげる"なんて言っておいて、真相は病気で亡くなってただな…っ!」
「―それ以上言うな」
人差し指を彼女の口元に立てた。
「俺は後悔してないよ。ただ少しびっくりしただけだから…ショックじゃないって言えば嘘になるけれど」
そう言ってムリに笑ってみせた。
「けいちゃん…」
安心した様子で胸をなでおろす早織。
「また…今度はお墓参りに行こうな。次は花とかちゃんと持ってって」
「…!うんっ、でも…私でいいの!?」
「早織がいいに決まってるだろう?」
そう言うと二人は目を合わせた後不意に逸らし、ぎこちなく笑い合った。
…
「けいくん遅いなーっ」
部屋の中をあちこち動き回って、落ち着かない様子の蒔希。結局今日は思い出深いあの公園で一日を過ごした。何もなかったし知ってる人にも会うこともなかったけれども―昨日の出来事は私だけのものに出来ない!
ガチャン。玄関のドアが開閉する音がした。
「!けいくんだ。お帰り」
けいじのもとへ駆け寄るマキ。でも置き手紙と早織の事を許した訳でも認めた訳でもなく、マキはこう言い放った。
「…したから」
「えっ?」」
「付き合うことにしたから。秋野隆志くんと」
「!なんだって」
「だから…!彼女になったの。昨日告白されたから」
「よせよ」
「いいでしょ!?けいくんには早織さんがいるじゃない!?」
「…そうだな」
「じゃ、そういうことだから。おやすみなさい!」
バタン。勢いよく自分の部屋の扉を閉めるマキ。
「なんなんだよ…一体。どうなってるんだ?」
状況に付いていけないけいじ。
二人の思いは―すれ違っていく。
…
「おはよう、藍井さん」
「お、おはよう…秋野くん」
何となく気まずいのは、秋野くんに告白されたからだ。
メールや電話じゃなく、ちょっとベタ体育校舎の裏に呼び出されて―。
「ずっと好きでした―藍井さん!もし良かったら、僕と付き合って下さいっ!!」
「…いいよ」
「え?」
「付き合ってもいいよ」
「本当に!?」
「うん、これからよろしくね!秋野くん」
人気の少ない体育校舎の裏で、私は秋野くんから想いを告げられた。
…
「じゃあ…まずは一緒に帰ろうか?」
誘ったのは秋野くん。
「え…?」
戸惑う私。
「初デートってことで」
言いながら頭をかき、顔を赤く染める彼。
「うんっ!」
マキも照れくさそうにはにかみ、返事をした。
「…あっ!」
通学路を歩いてから寄り道した公園。そこで遠くに見知った姿があった。
「どうしたの?」
心配そうに尋ねてくる秋野くんをよそに、マキは目の前の光景に釘付けになった。
「けいくんと…早織さん…けいくんの彼女さん…」
ぽつり。凝視しているのも相手に失礼だと気付いたマキは目線を落とす。
彼らは肩を寄せ合い並んでゆっくりと歩きながら談笑していた。
そしてこちらの存在に気が付くと。
「マキ!それから…秋野くんだったかな。元気かー?」
手を振りながら話しかけてきた。
「うん…元気だよ。けいくんも元気?」
言葉尻から余所余所しさがうかがえて、何だかぎこちないマキ。
"私はまったく気にしてないよ"という素振りで相槌を打つ。
「そうか…!マキ、幸せになるんだぞ」
頭を撫でようとする手を、マキは払いのけて。
「けいくんこそ、早織さんを幸せにしてあげなきゃだめだからね!」
マキは秋野を伴って、公園を後にした。
「本当に良かったの?藍井さんはあの男の人のこと…」
「いいの。もういいんだ」
無意識に流していた涙。それは秋野によって不器用な仕草で優しく拭われていた。
「藍井さん…ムリすんなよ」
「うん…」
「僕は、藍井さんに笑っていて欲しい。その為に何かできる事があるなら協力する。藍井さんが―好きだから」
ぎゅっ…。そして秋野はマキを抱きしめた。心を包むくらいに体温を感じた。
それでもマキの中では何かが違った様で―。
「!秋野くんっ痛いよ!!」
拒絶していた。マキが離れようとすると、今度は手を握られた。
「藍井さんは、本当に僕の事が好き?」
正直な瞳で真っすぐに聞いてくる秋野に射抜かれそうになるが、マキはひるまずに笑顔を作って答えた。
「好きだよっでも…」
「でも?」
「恋じゃない」
「え?」
秋野の表情が固くこわばっていく。するとマキは。
「ごめんなさい!私、やっぱり秋野くんの恋人にはなれない!」
つないでいた手を放すと、思い切り走り出した。
目の前にいた、視界に入ると胸が苦しくなる―恋人たちを追いかけるために。
「…どういうこと?僕は藍井さんにフラれてしまったのか―?」
空気が読めなくなってしまった可哀そうな少年は立ちすくんでいた。
それでもまだ…藍井さんが好きだ。でも…もう片思いなんてしたくない。
秋野は少ない思い出の風船を空に飛ばす決意をした―。
そんな彼に、マキは"ごめんなさい"としか言えなかった。
"ごめんなさい"としか―。
…
「ねぇ、けいちゃん…五月まであと四日よ?」
「ああ」
「"ああ"じゃないでしょう?どうするの?」
約束の五月が、もうすぐやって来る。
この先、二人の関係をどうするのか―早織はそのことを聴いてきているのだって、頭では分かっていた。だけどどこか寂しいような、恋心とは少し違う…でも名残惜しい様な、おかしな気持ちを抱いていた。だから―。
「…いいんじゃねーの。別に。特に何もしなくて―」
すると早織がきっぱりと言い張った。
「そんなのダメよ!期限なんだから。…ちょっと名残惜しいけれど、けいちゃん」
「うん?」
「お別れしましょう?」
「何言って…!」
「五月までっていう約束だったでしょう?それにマキちゃん…あの子のことも考えてあげて」
「…マキ?」
「見てしまったの。泣いていてとても可哀そうだった。"けいくん、けいくん"って。けいちゃん、あなたの名前を何度も口にしていたわ」
「―それから、これはお餞別」
そうしておもむろに黒いトートバッグから取り出したのは、銀の写真たてだった。
そこに写っていたのは…。
「!母さん!?どうして…」
「亡くなる少し前に撮ったの。けいちゃん、あなたに託すわ。大事にしてね」
「ああ…ああ。早織…ありがとうな。今まで…」
「ええ。けいちゃん?何度も言うけどマキちゃんと一緒に幸せになってね。きっと…聡子叔母さまも応援してくれているわ」
そして写真たてに向かって手を合わせる二人。
「じゃ、私もう行くから!」
「え?行くって?」
「たまには実家に帰ってこいって両親がうるさいのよ」
腰に両手を当ててポーズ取る早織。
「けいちゃん」
「なに?」
「今までありがとね。一緒にいられて楽しかったわ」
そして俺の頬に軽くキスをした。
「それじゃあまたね!お邪魔しました~!」
バタン。こうして早織という名の嵐は去って行った。
「…問題は、マキだよな」
俺は頭を抱えた。マキまだ秋野と付き合っているのだろうか?
それとも終わったのだろうか?後者は俺の願望だ。
そうなっていてほしいという…マキとって幸せなら秋野と付き合おうが…否、それは嫌だ。やっぱり嫌だ。そんな醜い嫉妬心が俺を支配し始めていた。
…やっぱり俺は―。マキが好きなんだな…。と。
その晩、俺は決心してマキをリビングに呼び出した―。
「マキ…!話があるんだ」
「…マキも、けいくんに報告があるの」
二人の気持ちは決まっていた。
「あの…けいくんからでいいよ」
「いや、マキから話してくれ」
重なる声とともに、どこか気持ちも連なっていく予感がした。
「じゃあ…話すね。あのね、マキ―秋野くんとお別れしたんだ」
「え?」
「だから、別れたの。秋野くんと」
「どうして?」
「…ほかに、好きな人がいるから」
「え―?誰に?」
ここで"秋野くんに好きな人が出来た"なんて言われたら俺はそいつをぶん殴っていたことだろう。ところがマキは俺の予想の斜め上を行っていた。
「マキに―マキ、すきな人がいるの」
「え…?」
それが誰なのか知りたい様な知りたくない様な、複雑な気持ちでいると、マキが白状するかの様に声を張り上げた。
「けいくん…ごめんなさい。やっぱりマキけいくんのことが忘れられない。けいくんが好き―」!
そうしてすべてを吐露すると、マキは俺にしがみついてきた。
「…マキ、それが本当なら…嬉しいよ」
俺はマキのポニーテールにそっと触れる。
「俺の話も…聞いてくれるか?」
こくり。無言で頷くマキ。
「早織とのことなんだが…あいつとは五月までの期限付きと、あることを引き換えに恋人みたいなフリをしていたんだ。あることっていうのは―」
そこまで言うとマキは首を横に振り言いよどんんだ。
「つらいことなら話さなくてもいいよ?」
「!…いいんだ。マキには聞いてほしいから」
どうして彼女に辛い事だと判ったのだろう?俺には分からないが。
マキ気持ちを推し量ってくれたことに安心した俺は話し続けることが出来たんだ。
「早織が"母さんに会わせてくれる"って言ってくれたから。それでその為に俺は彼女と形だけ付き合うことにしたんだ」
「…それで、けいくんお母さんに会えたの?」
目を丸くする少女。
「会えなかった…いや、会えたよ。でも眠っていた。安らかに…。そう、俺たちは母さんのお墓に行ったんだ―」
「!それじゃあ…亡くなっていたってことなの?」
驚きを隠せない様子のマキ。
「ああ…」
俯く慶治。そんな彼を壊れ物を扱うように優しく抱きしめるマキ。
「けいくん…つらかったねぇ…うっ…ひっく」
気が付けばマキも涙を流していた。
二人は抱き合い互いの鼓動が同じ速さを刻むのを感じていた。
「…それで、けいくん…早織さんとは…?」
私は心配そうに尋ねる。
「別れたよ。なんでも実家に帰るんだそうだ」
「何も…されてない?」
「マキ以上のことは何も」
「…良かった…って思っちゃっていいのかな?」
「ああ。安心しろ。それよりマキこそ秋野にヘンなことされていないだろうな!?」
「何もされてないよー!」
こうして気づけば涙は引っ込み、二人は笑い合っていた。
「好きだよ、マキ」
「けいくん…」
真剣な眼差し。そしてマキも真面目な表情をする。
「私も…けいくんが好き―」
そして二人は心を溶かすような熱く甘い口づけをした。
「ずっと一緒だよ?もうどこにも行かないでね」
精一杯懇願するマキを。
「当然だ。俺にはマキだけだからな」
慶治はきつく抱きしめた。
―それは五月という新しい月の始まりで。
桜は葉桜になり、緑は深くなってゆく。
そしてマキは忘れられない過去の出来事を、ぼんやりとやがてはっきりと思い出していたのだった。
ユキノという名前の少女のことを…。
<母親探し2、完>
この後、4話目に続きます。




