おひめさまといぼがえる
ある日、ある時代、あるところに、おとぎばなしのだいすきなおひめさまがいました。
おひめさまはお城をぬけだし、森の中をおさんぽしていました。森のなかならおとぎばなしに出るようなすてきなようせいさんに出会えるとおもったのです。
「きっと、この森の中だったら、すてきなであいがあるわ! こんなにきれいなお花がさいて、こんなにくうきがきれいなところなんですもの!」
ものめずらしそうに、きょろきょろとまわりをみまわしながら、おひめさまは森の中をあるいていきます。
――それがいけなかったのでしょう。あしもとを見ていなかったおひめさまは、お池にぼちゃんとおちてしまいました。
おしろでそだったおひめさまはおよげません。おひめさまはおぼれてしまいそうになります。
「たすけて、だれかたすけて、このままじゃおぼれてしまうわ」
そのようすをかえるがみていました。
ちゃいろいからだをして、ぶつぶつとあわがたったようないぼがえるです。
いぼがえるはゲロリとなくと、池にとびこみ、おおきなおおきな、まあるいはすの葉のふねをおひめさまのところまでもっていきました。
おひめさまはそれにのると「ああ、たすかった」とためいきをつきました。
「あなたはかえるね? ざんねん、たすけてくれたのが、おとぎばなしにでてくるかわいらしいウィンディーネや、うつくしいユニコーンならおともだちになってもらうのに」
おひめさまは、じぶんをたすけてくれたのが、みにくいいぼがえるだと知ってがっかりしました。
「わかったわ、きっとあなたはわるいまじょののろいでかえるにかえられてしまったおうじさまね? そういうおとぎばなしをなんどもよんだことがあるわ」
かえるをお城につれてかえったおひめさまは、かえるののろいをとこうと、お城の本をよみ、いろいろなことをためしました。
のろいをとくためのおまじないもしました。
だいすきなおとぎばなしにあったように、かえるにキスもしてみました。
――けれど、それでわかったことは、このかえるはただのいぼがえるだということだけでした。
「ひどいわ、わたしをだましたのね? あなたはおうじさまなんかじゃなく、ただのいぼがえるじゃない。なんということでしょう、わたしはみにくいいぼがえるにキスまでしてしまったわ」
おひめさまがおこっても、かえるはゲコリとなくだけでした。
――あたりまえです。かえるににんげんのことばはわかりませんもの。
とうとうおこったおひめさまは、みにくいいぼがえるに石をなげつけました。
石をぶつけられたいぼがえるは、ゲコリとなくとそのままとびはねてどこかへいってしまいました。
あくる日、おひめさまはまた森にきていました。
「このあいだはひどいめにあったわ。こんどはペガサスかなにかとあえるといいのだけれど」
そうして、うえをむきながらあるいていたおひめさまは、またまたお池にどぼんとおちてしまいます。
「たすけて、だれかたすけて」
おひめさまはおよげません。このままではおぼれてしまいます。
そのようすをかえるがみていました。かえるはあたまにけがをしていました。おひめさまがなげた石があたったときのけがです。
そう、そのかえるはあのときのいぼがえるです。
「たすけて、かえるさんたすけて」
いぼがえるはおぼれるおひめさまをみると、ゲコリとないて森の中へととびはねていってしまいました。
おひめさまは、かえるに石をぶつけたことをこうかいしました。
「あんなことをしなければ、かえるはまたわたしをたすけてくれたかもしれないのに」
けれどかえるはもどってきました。
じぶんのからだより、ずっとずっとおおきな丸太をころがし、それをお池にうかべると、おひめさまのところまでもっていきます。おひめさまは丸太にひっしにつかまり、なんとかおぼれずにすみました。
「ごめんなさいいぼがえるさん。おともだちになりましょう。おしろのおにわにきれいでおおきなお池をつくりましょう。そしてきれいなお花をたくさんうえましょう。そこでわたしとまいにちあそびましょう」
そう、おひめさまがいいます。
けれど、いぼがえるはゲロリとなくと、ばしゃりとお池にとびこんで、そのままどこかへいってしまいました。
――あたりまえです。かえるににんげんのことばはわかりませんもの。
古いフォルダを漁っていたら六年前に書いたものが出てきました。
「いぼかえるさんマジダンディ」と思ってもらえたら光栄です。