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魔女リリスは男に戻りたい  作者: 夕凪真潮
第一章 四人の冒険者、集う
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第6話

「「かんぱーい!!」」


 大きな木のジョッキになみなみと注がれたエール酒と、小さなコップに注がれたフルーツジュース二個がぶつかり、少しだけ飛び散りました。

 エール酒をおいしそうに、しかも一口で半分以上飲み干すドワーフのエレンドさん。

 あれ一リットルはあるよね。

 どんだけ大きな口なんだよ、と思うもののドワーフならあれが標準なんだろうね。


「うむ、冒険後の酒は格別じゃな」


 そう言って再びエール酒を口に含むと、ジョッキが空っぽになりました。

 エレンドさんは、お代わりじゃ、と近くにいた給仕さんに注文をすると、既に二杯目を用意してあったのかすぐに持ってきてくれます。

 それを満面の笑みで受け取ると、再び一口で半分を飲んでしまいました。

 このペースなら三十分もあれば十リットルくらい楽に飲んでしまいそう。


 そんな酒豪とは違うボクとリティは、ミックスジュースのような少し濃厚な飲み物を少しずつ飲んでいます。

 が、それよりもこの大きな肉の塊を切って焼く作業に勤しんでいたりします。


 ここは前世で言うところの焼肉屋。

 豪快な肉の塊を自分で適当に切って、火の魔法がかかっているコンロのようなもので焼いて食べるお店なのです。

 ボクもリティも育ち盛りで、二人で一キロの肉を頼んでいたりします。

 ちょっと食べすぎ?

 でも迷宮などに潜るとかなりの運動量になるし、これくらい食べないと身体が持たないのですよ。


 ボクたちががっつきながら食べていると、エレンドさんはエール酒なんて軽すぎてジュースみたいなものじゃ、と言ってかなり強い蒸留酒を飲み始めています。

 エレンドさんは食べ物よりも酒なのか、蒸かした芋類と干し肉という軽いおつまみ程度の量しか食べていません。



 そして四十分くらい経った頃、一頻り食べて飲んで満足しました。

 何せ死に掛けるくらい走ったりしたからね。

 そんなボクたちを見たエレンドさんは、ジョッキに注いだ蒸留酒をぐいっと煽って飲み干しました。


「そろそろ互いに自己紹介といくかの」


 そう提案してきたエレンドさんに対し、ボクから! と目で訴えます。

 苦笑いをしながら、手でどうぞというジェスチャーをしてくれました。


「じゃあまずボクから行きます! リリス=ラスティーナ、人間で十四歳。冒険者になってから一年のE+です。イースト第二城壁の更に端っこの方に家を借りて、リティと住んでいます。職業は魔法使いで氷系の魔法を得意としています、以上!」


 ひゅーぱちぱちぱち、とまだ最初の一杯をちびちび飲みながら、リティが拍手をしてくれました。

 次はリティの番だね、と言うように顔を向けてあげます。


「では次は私で。リティ=シルバーフェスト。十五歳の銀狐族で、リリスちゃんと同じく冒険者一年目でE+ランクです。職業は魔弓士で野伏レンジャーも兼任しています。リリスちゃんとは幼馴染で、生まれてからずっと一緒に育ってきました」


 ボクもお返しとばかりに、ぱちぱちぱちと拍手を贈ってあげました。

 そんなボクたちを見ていたエレンドさんが、何やらぽんっと手をたたきました。


「おお、ようやく思い出したぞ!」

「え? 何をです?」

「レミルバ国の氷の魔女と異名を取るラスティーナ大公家、そしてその従者シルバーフェスト家の事じゃよ」


 うわ、こんな離れた国でよくボクの家の事を知ってたなぁ。

 エレンドさんってドワーフのくせに博識だ。


「E+にしてはやけに強力な魔法と思ったのじゃよ。にしても、大公家のものが何故こんな迷宮都市におるのじゃ?」

「大公家と言ってもボクは四女だしね。家督がどうのこうの言われる立場じゃないんですよ」


 それに向こうにいると、婚約相手をそろそろ決めろと言われるしね。

 そりゃ貴族だし、税金で食べている身分だから自由が無いのは仕方ないけどさ。

 他の事は我慢できるけど、男と結婚だけはお断り。

 だから早く性転換の魔法を覚えたいのです。


「まあ色々とあるわけじゃな」

「はい、あまり詮索はしないでくれると嬉しいのですが」

「ここは迷宮都市アークじゃ。身分や過去は一切問わず、実力だけがものをいうところじゃよ。あまり悪さをしすぎなければ、問題あるまいて」

「ありがとうございます! で、エレンドさんの自己紹介はまーだー?」


 そう催促すると、まあまて、と言いながら蒸留酒のお代わりを頼むエレンドさん。

 まだ飲むのですか。

 かれこれ蒸留酒だけで十杯以上飲んでいるよね。しかもエール酒を入れる大きなジョッキで。


 ドワーフは底なしと言われるのが分かった気がするよ。


「じゃあ最後はわしじゃな。わしはエレンドというC+ランクの重戦士じゃ。鉱山都市ベーマルドの生まれで三十七歳。ここへは十五年ほど前にやってきての。最初は鍛冶屋を営んでいたが、いつの間にやら冒険者もやるようになったのじゃ」


 ドワーフで三十七歳って若い。

 彼らはエルフ族には負けるけど人間より遥かに寿命が長い種族です。

 確か三百年ほど生きるんでしたっけ。

 しかも十五年も前にここに来たということは、鍛冶を覚えてすぐに故郷を離れたというところかな。



 ちなみに人間は凡そ五十年~六十年程度の寿命しかありません。

 でもそれは魔力の少ない一般人であり、魔力が多い人は百歳を超えている人も少なくないのです。

 実際うちにも百五十歳超えて、なおボクより元気なおばあ様がいらっしゃるし。

 また銀狐族は百年ほどの寿命があります。



 鉱山都市ベーマルド。ドワーフたちが数多く住んでいる都市で、その名の通り鉱山に囲まれた町です。

 そういえばレミルバ国ともそこそこ近い距離だったね。

 だからうちの家の事を知っていたのか。


「じゃあエレンドさんが着ている鎧ってもしかして自家製です?」

「そうじゃ」


 確かに自分で修理できるのなら、維持費は格段に安くなります。


「まだ鍛冶屋さんって経営しているのですか?」

「わしの本業は鍛冶屋じゃよ。冒険者は自分で作った武具がどの程度使えるのかを確かめるためにやっているのじゃ」

「それではあまり迷宮に潜ることはしないのですね?」

「そんな事はないぞ? わしの作る武具なんぞ売れてないからの」


 ドワーフの作った武具が売れてない?

 そんな馬鹿な事あるでしょうか。彼らの作る武具はまさしく一級品ばかりです。


「高いからじゃよ。わしも自分の武具を安売りする事はせぬしな」


 そんなボクの疑問に答えるかのように呟いたエレンドさん。

 なるほどです。

 需要と供給があってないのですか。


 冒険者の中で一番人数の多いランクは下級者です。

 でもドワーフの作る武具は一級品ですが、ほぼ全て高額。

 それは下級者では到底買えない値段。

 逆にお金をたくさん持っている上級者だと、魔法のかかった武具を使う人が殆どです。

 だからドワーフの作る武具を一番使う人たちは中級者になります。


 そしてこの迷宮都市には数多くの鍛冶屋があります。当然エレンドさんのように他のドワーフが経営しているお店もあるでしょうけど、やはり人間の鍛冶屋が一番多い。

 つまり価格競争に負けたという事です。


 彼らの作る武具が百点でも百万ギルする武具より、人間の作る六十点でも二十万ギルの武具が売れるのは仕方ないでしょうね。

 品質の良い武具を買う冒険者もいるでしょうけどそれは少数であり、更にドワーフの経営するお店もそれなりにあるので、経営出来るほど儲けは出ないのでしょう。


 どこの世界も辛いものですね。


「それに冒険者も兼ねていれば、少なくとも自分である程度の素材は集められるしの」


 じゃあエレンドさんがボクたちのパーティに入ってくれたのも、もっと下層へ潜ってより良い素材を集める魂胆もあったわけですね。

 ただの善意で仲間になってくれるより、そっちのほうが信頼できると思ってしまうのは、ボクもアークという迷宮都市に慣れてきた証拠ですかね。


「わかりました。これからも宜しくお願いします、エレンドさん」

「おお、こっちこそよろしくな、リリス、リティ」

「私もよろしくお願いしますね」


 ボクたち三人はがっしりと握手をしあいました。

 エレンドさんは大きくて頼もしい手でした。



一度でいいから、こういうお店で食べてみたいです



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