第3話
「リティ、そっち二匹!」
「はーい」
石で出来た比較的広い部屋。ひんやりと冷気が漂い足の動きを阻害してきます。
ところどころにある光るコケがたいまつの代わりをしていて、それなりに内部は明るいけど、それでも目を凝らさないと部屋全体は見通せない程度です。
そんな部屋の中にボクとリティは武器を構えて、敵と対峙していました。
ボクが声をかけると、彼女は自分の身体の半分はあろうかという、とても大きな弩を構え無造作に放ちます。
魔法で出来た光の矢が三本同時に射出され、二匹いたゴブリンの身体を貫いていきますが、僅かに急所から逸れたのかゴブリンはめげずに頑張ってリティへと突っ込んでいっています。
しかしリティは落ち着いたまま再び弩に魔力をチャージし、新しい三本の弓を生み出して放ちました。
魔弓士って詠唱いらないし、便利だなー。
っとと、そんな事考えている暇はない。
ボクの前には三メートルに達するような巨体が立っていました。
ボクの身長の二倍近くあるね。
薄汚い布を腰に巻きつけただけの格好、手にはボクの身長と大差ない大きな棍棒が握り締められています。
口からはよだれをたらしながら、ボクをエサと認識している醜い鬼。
それはCランクの魔物オーガです。
ここは迷宮の十階層にあるボス部屋と言われているところです。
そしてあのオーガーは十階層のボスになります。
迷宮は十階層ごとにボス部屋があり、その部屋を通らない限り下の階層へは潜れません。つまり下の階へ行きたければボスを倒していきな、という事です。
また、ボスを倒しても数時間後には復活してきます。
ちなみにボス以外の魔物ならば、もっと速いスパンで沸いてきたりします。
これは最下層に住むリッチロードから発せられている巨大な魔の力で、生み出されているといわれています。
いくら魔物を倒しても迷宮から居なくならないのはこの為と言われていますね。
また一つの階層で一定量の魔物が沸くと飽和状態になるのか、突然沸くのが止まります。
魔物は魔素によって生きている。
そして一階層ごとに魔素を保持できる上限が決まっていて、消費が保持できる魔素の上限を超えないようにできています。
下の階層へ行けば行くほどリッチロードの魔の力が大きくなり、その分強力な魔物が出没するようになっています。
うまい仕組みだと思うよね。出来すぎだよね。
さて、迷宮は百階層から成っていると言われています。
F~Eランクが五階層まで、Dが十階層、Cが十五階層、Bが二十階層、Aが三十階層、そして最高峰のSは五十階層までが適正と冒険者ギルドでは設定しています。
五十階層以降はSランクの人でも非常に危険なところであり、そして人類が到達した最高が八十階層となっています。
オーガが、今夜の晩飯は人間の肉だぜヒャッハー、というような顔つきで手に持っている巨大な棍棒をボク目掛けて振り下ろしてきました。
あんなのに当たったら、オーガの夕飯はミンチ肉になってしまいます。
<風よ!>
短縮詠唱を唱え、風を生み出してボクの身体を後ろへと吹き飛ばしました。
ボクは運動がからっきしダメで、こういった小技を使って戦う必要があるのです。
予想外の強風で転びそうになったけど、何とか踏みとどまったボクは続けて魔法詠唱を唱え始めました。
<凍える魂、凍れる槍、凍てつく風>
詠唱しながら杖を持ったまま両手を突き出すと、文字がボクの周りに浮かび上がり、そして渦を巻きながら腕に集まっていきます。
<氷に秘めし射抜く槍、氷の槍!!>
文字たちが腕から杖を伝って前に大きな魔方陣を生み出す。
その魔方陣から氷で出来た鋭い槍が数本飛び出してきて、勢い良くオーガのほうへと飛んでいきました。
氷の槍は見事オーガーの心臓を正確に貫きます。
大量の血が飛び散るが、しかしオーガはまだ倒れずに、そのままゆっくりとこちらへ向かってきました。
「タフだなー」
更に後ろへ距離をとりながら、再び同じ詠唱を始めました。
<凍える魂、凍れる槍、凍てつく……>
その詠唱途中に、右側から飛んできた光の矢がオーガーの頭を貫きました。
あ? という表情をして身体を痙攣させたまま、その巨体の歩みが止まり、前へと倒れこみました。
リティの仕業ですね。
「リティナイス!」
ぐっと親指を突き出すボクに対し、リティは口を手で押さえながら「気持ち悪い」と涙目で呟いていました。
「そりゃ頭を狙って撃ったら、ああなるのは仕方ないよ」
ボクは脳みそを撒き散らしながら絶命しているオーガを指して言いました。
そういえばゴブリン二匹は?
と思ったけど、ゴブリンもリティの矢によって頭を撃ち貫かれていました。
気持ち悪いといいながら頭を狙う奴なんです。
「これでボス終わりだね」
「うん、お疲れ様リリスちゃん」
「リティもお疲れ様」
ここ最近迷宮に潜ると、十階層まで来てボスのオーガを倒して帰るのが定番になっています。
正直十階層までの魔物の素材は大した値段にはなりません。
十一階層からが、ようやくそこそこの値段で売れるようになります。
早く次の階層へ行ってみたいけど、ボクたちは未だE+ランクの初心者。
十階層のボスだって本来であれば、超危険なところです。
幸い十階層までは魔法に抵抗のある魔物がいないから、こうして勝つことが出来ているだけであって、普通に魔法使いがいないEランクのパーティだと十階層なんてとても到達することすら不可能です。
そして魔法を使える人は極少数です。百人に一人居れば良い方だ、と言われています。
ボクとリティ、二人とも魔法を扱えるのは運が良いってことですね。
自慢じゃないけどボクは運痴ですから、魔法がなければ冒険者なんて絶対になれなかっただろうね。
本当に自慢じゃないや……。
でもそろそろ前衛欲しいなぁ。
ボクたちは魔法を使えるためか、かなりあちこちの人から声がかかっています。
誰でも良いのであればすぐ前衛は集まるだろうけど、出来れば同レベルで将来有望な人がいいですよね。
あと出来れば一人、多くても二人まで。
例えば四人いるところにボクたち二人が入れば、当然主導権はあちら側になってしまうからね。
そして同レベルの人は既に四人~六人とパーティを組んでいるからか、この条件だと殆どいないのが現実。
合致するような人は、本当の冒険者になったばかりの駆け出しか、もしくはソロで頑張っている高レベルの人しかいないんだよね。
どこかで妥協するべきかな。
取りあえずD-ランクに上がるまでは現状維持で頑張ってみましょう。