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魔女リリスは男に戻りたい  作者: 夕凪真潮
第二章 撃ち砕け火の門番
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第18話

調子に乗ってたら、少々長くなりました←


「……ここが十一階」


 ボス部屋にある階段を降りたボクたちの前に広がった光景は、十階までとは異なり壁から不思議な燐があちこちに漂い、ぼんやりと通路を照らしていました。

 慣れかも知れないけど、十階までの光るコケのほうが見やすいねこれは。


「ここからの隊列は、わしが先頭、次にリティリリス、最後がララミスじゃ」

「気配探知の魔法かけますから、背後からの奇襲は分かりますよ?」


 一番最後にララミスさんを置くということは、背後からの奇襲を想定しているのでしょう。


「いやそうではない。奇襲もそうじゃが、それよりも挟み撃ちが怖いのじゃよ」

「挟み撃ちなんて、魔物がしてくるんですか?」


 十階までは戦っている最中、たまたま背後に魔物が沸いた、偶然背後から魔物が移動してきた、という理由で結果的に挟み撃ちになる事ならありえます。

 でもわざわざ通路をぐるっと回りこんでくる魔物は居ません。


「サーベルタイガーがしてくるのじゃよ」

「えっ? 意外と頭が良いんだ、びっくり」


 リティが驚くのも無理は無いです。

 サーベルタイガーはCランクの魔物で、サーベルウルフよりも大きな体格と、強靭な顎と鋭い爪を使ってくるかなりやっかいそうな魔物です。

 でも所詮は獣程度の知能しかないと思っていたのですけど……。


「あやつらは、獲物を効率よく複数で狩ることに特化しておるからの。それくらいの知恵はあるのじゃよ」

「なら、戦闘の間はエレンドさんだけが前で戦うんですか?」

「そうなるな。わしは十三階までソロで潜ってたから、心配は要らぬ。その代わりララミスは、背後から来た奴らを任せる」

「ふえぇぇぇぇぇ?!」


 今だエレンドさんに首根っこを掴まれたままのララさん。

 うーん、心配だ。

 やっぱりもう一人前衛欲しいな。


「では準備はよいかの?」

「気配探知かけますので少し待ってください」


 気配感知の魔法は、魔法使いにとって基本的な魔法です。

 魔力操作が出来るのであれば一日もあれば十分に習得可能で、魔法使いの冒険者はまずこれと基本的な攻撃魔法を一つ覚えるのが、必須と言ってもいいくらいです。

 ボクもアークに来てから、一番最初にこの呪文を覚えました。


 箒型の杖を掲げて呪文を詠唱する。


<世界を照らす魔力の網よ我に伝えよ、周囲探索サーチ


 ボクの身体から見えない魔力が蜘蛛の巣のように広がっていきます。

 それと共に頭の中に周辺の地図が浮かびあがり、まるで上から眺めているかのように伝わってきました。


「オッケー」

「うむ、ララミスは一番後ろじゃぞ?」


 そのままララさんを片手で持ち上げて、ボクの後ろへ軽く放り投げました。

 ドワーフとはいえ、人ひとりを片手で持ち上げて投げるなんてすごい力だ。

 しかも彼女は鎧や剣を持っているんだよ?

 軽く空中で身体を捻ってきっちり着地するララさんも凄い。


「あうぅぅ~~、背後から誰か肩を叩いてきそうで後ろ怖いですぅぅ~」


 ……肩を叩いてくるだけなら楽勝じゃん。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 エレンドさんは、盾を前に構えてハルバードは脇に添えた状態で、静かにそして慎重に前を先導しています。

 十階層までとは全く違う動き。

 それに、あれだけがちがちに鎧を着込んでいるのに、音が殆どしません。

 これがC+ランクの実力を持つ冒険者か。

 そんな彼とは打って変わって、ボクは気楽に歩いていたりします。

 今のところ感知に引っかかる魔物はいないしね。

 適度な緊張感はいるけど、ガチガチに緊張しすぎると動けなくなるしね。


 それにしても煌く燐が飛ぶのって幻想的だ。まるで暗い夜空に雪が舞っているかのようだね。

 ここが安全な場所なら絶好のデートスポットになりそう。


 ちらっと隣を歩いているリティを覗き見する。

 頭に生えている二つの長い耳が、わずかな異音も聞き逃すまいと猫のように前や左右へ動き回っています。

 さすがのリティも初めての階層だし、普段より緊張している様子。

 本来であれば野伏レンジャーのリティが先行するのが普通だけど……。

 そして視線をエレンドさんへと移す。

 彼はE+ランクの冒険者に十一階層を先導させるのは危険と判断したのだろう。

 実力……いえ、経験が足りないのは分かる。

 初めて潜る場所だから、というのも分かる。

 でもあまりにも彼に頼りっぱなしなのは……信頼されていないと思ってしまうよね。


 もやもやとした感情が湧き上がっている時、ボクの頭の中の地図に一瞬赤い点が浮かび上がった。

 その反応はすぐに消えたけど、浮かび上がった点の場所は……ボクたちが居る背後だ!

 誤感知? いえ、魔法に誤感知なんてない。

 つまり気配感知の範囲外ぎりぎりのところに、何者かが居るという事。

 気配感知は魔力を薄く糸のように広げて、それに触れたものを感知する魔法。

 このため、魔力に敏感な魔物ならこのような動きも可能とギルドで教わった。

 となると、既に囲まれている可能性が高い。


「エレンドさん、背後に何者かの反応」


 ボクの声が静かな暗い通路内に木霊した。

 それを聞いた瞬間、エレンドさんの動きが止まる。


「ララミス、後ろは任せた。リリスとリティは中央に固まるのじゃ」

「ふ、ふえぇぇ……」


 ドワーフとエルフは暗視能力を持っています。

 この二人なら、この見にくい通路でも普通に戦えるはず。


 とその時閃いた。

 まてよ? 後ろ側の通路を氷で塞いでしまえば、敵は前だけになるんじゃないかな。


「エレンドさん、ララさん、後ろの通路に氷の壁を作って敵を塞ぎます」

「そんなことができるのかの?」

「うん、ボクは氷の魔女の家系だよ? 氷系の魔法なら大抵知っているよ」

「ふむ、まあお主の判断に任せるのじゃ」


 何か微妙に引っかかる言い方?

 でも挟み撃ちを防ぐにはこれが効果が高いはず。


「ララさんの前に出すからそのまま動かないでね」

「う、うん。寒くならない?」


 目の前に大きな氷の壁を作るのだから、そりゃ寒くなる。

 全くララさんは着眼点が違うね。

 ボクは彼女の疑問を無視して杖を前方に突き出し、呪文の詠唱を始めた。


<凍える魂、我らを守護する壁、大地に根下ろす氷河>


 ボクの高らかなる詠唱とともに魔力が両腕に伝わり、そして杖へと注ぎ込まれる。

 そして、ボクの高まっていく魔力を感じ取ったのか、脳内の地図に多数の赤い点が浮かびあがった。

 どうやらボクたちが気がついたことに敵も気がついたようで、逃がすまいと飛ぶように近寄ってきている。

 その数……前に六、後ろに五。


 そして前から来た魔物の姿がエレンドさんの視界に入ったのか、鋭く叫んだ。


「来るぞ!」

「ララちゃん、リリスちゃんをお願いね!」

「はぅぅぅ~、こわいぃぃぃぃ」


 前方から襲い掛かってくるサーベルタイガーの集団に、エレンドさんがハルバードをゆっくりと肩から脇へと移動させました。

 リティは弩を構えると一瞬にして魔力をチャージし、矢を生み出します。


<地より出でよ大なる氷柱>


 リティの矢が正確に先頭を走っていたサーベルタイガーの眉間を貫き、血しぶきが舞い散った。

 一匹脱落したものの、残り五匹はそのままの勢いで向かってきている。

 その前に立ちはだかるは重戦士のエレンドさん。

 長いハルバードを横へ通路いっぱいに広げ、敵を一歩も通さないようどっしりと構えています。


 また、背後にいるララさんは細剣を両腕で持ち、いつ魔物が襲い掛かってきても良いように待ち構えています。


 さて、サーベルタイガーはミスをしました。

 脳内の地図に浮かび上がる、ボクたちへと移動してきている前と後ろの赤い点を確認しながら考えます。

 挟み撃ちという戦略は前方の敵が襲い掛かったあと、時間差で背後から襲い掛かる。

 これは普通なら正しい。

 前方に意識を向けさせた瞬間に背後から来るのだから、大抵は意表を突かれる。

 でも今回は事前に挟み撃ちと分かっているので、その時間差がありがたい。

 呪文詠唱の時間が稼げるのだから。


<氷雪を束ね英雄の盾となれ>


 そしてサーベルタイガーの姿が、背後の暗い通路に浮かび上がった。

 魔物たちはララさんの姿を見るや、唸り声を上げて速度をあげてきた。

 しかし……同時に来られたらおそらく間に合わなかったであろう呪文が、今完成しました。


氷の壁アイスウォール!>


 杖の先端から淡い青い光が生まれ、突如ララさんの目の前に通路ぴったりサイズの分厚い氷の壁が現れた。

 いきなり現れた氷の壁に、サーベルタイガーたちは止まれず次々と激突していく。

 ぶつかる音が四つ響き渡るが、氷の壁は頑丈でヒビ一つ入っていない。


 ……うわ、痛そう。


「うわわわわわっ、これリリスさんの魔法?」

「ララさん、早くエレンドさんのほうを手助けしにいって!」

「はぅっ? 責任重大?!」

「重大だからはよいけっ!」


 ララさんは「はうぅぅ、リリスさんの意地悪っ!」と叫びながら、跳ぶようにエレンドさんの方へと走っていきました。

 これで前のほうは大丈夫でしょう。


 そう安心しきった時、違和感が走る。

 後ろからの反応は五つあったはずだが、壁にぶつかった音は四つしか聞こえなかった。


 はっと壁の向こうを見た瞬間、ボクの目の前に雷光が生まれ襲い掛かってきました。


「あああぁぁぁっ!」


 強烈な電撃を喰らい、意識を持っていかれそうになりました。

 倒れそうになる身体を懸命に堪え、顔を氷の壁の向こうへと向けると、一体の人影のようなものが浮かび上がっているのが見えます。


 エレキシャドウ!


 くっ、まさかサーベルタイガーの集団に混じっているなんて、気がつかなかった。

 急いで距離を取らないと、魔法の的になってしまう。

 しかし思うように足が動かない。


 そんなボクをあざ笑うかのように、奴の手がこちらに向くと、再びボクの目の前に青白い雷光が生まれました。



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