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魔女リリスは男に戻りたい  作者: 夕凪真潮
第二章 撃ち砕け火の門番
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第17話


「うおおおぉぉぉ!!!」


 ドアを開けたエレンドさんは、愛用のハルバードを肩に担いで、大きな盾を前に構え叫びながら部屋の中へと突入していきます。

 部屋の中からエレンドさんの叫びに対抗するように、聞きなれたオーガの雄たけびが響き渡ってくる。


 そしてきっかり五つ数えたとき、ボクの隣で未だにしがみついてきているララさんを、部屋の中へと蹴り飛ばしました。


「はよいけ!」

「あううぅぅぅ~~」


 情けない声を上げるララさん。

 でも彼女は素早く立ち上がると、石畳の床を蹴って奥へと走っていきました。


「じゃあ私たちも行くよー」

「うん」


 一呼吸置いた後、ボクとリティは互いに頷くと部屋へと足を踏み入れました。

 そして目の前に広がる光景は……。


 三メートルに達する巨体のオーガが棍棒を構えながら部屋の中央に立っていて、走っていくエレンドを迎え撃とうとしています。

 そのオーガの向かって右側に、緑色の肌をしたゴブリン三体が、エレンドさんを囲もうと移動し始めています。

 そのゴブリンたちの背後へと、無表情のララさんが剣を構えて駆けていました。


 完全にゴブリンたちの背後を突いています。


 オーガの大きな棍棒が振り下ろされ、エレンドさんの持つ盾に当たり鈍い音を立てました。

 三メートルの巨体から出される棍棒の一撃は、まともに喰らえば人間の身体なんてミンチになります。

 たとえ盾を構えていても、並みの戦士ではそのまま吹き飛ばされる事でしょう。

 しかしさすがドワーフの重戦士エレンドさん。

 あの一撃を受けてもびくともしません。


 そして棍棒と鉄の盾がぶつかる音に合わせたように、ララさんの神速の剣がゴブリンたちを襲い、一瞬にして三体とも肉塊へと変えていきました。

 そのままの勢いでオーガへと迫るララさん。


 エレンドさんは、棍棒の一撃を盾で受けたと同時に肩に構えたハルバードを一閃。

 見事オーガの左足を石畳の床もろとも袈裟切りにします。

 黒い血が辺りへと飛び散り巨体がぐらりと傾くところに、高く跳んだララさんの細剣が唸りを上げてオーガの頭を切り刻みました。


 ……あれ? もう終わってるじゃん。


 エレンドさんが部屋に入ってから三十秒も経っていません。

 本気で何もやることがありませんでした。

 まさしく圧勝だよ。


 オーガの巨体が床に倒れこむと、ボクの隣に居たリティは構えてた弩を降ろしました。

 弩にチャージされていた魔力の矢が、霧散するように消えていきます。


「リリスさぁぁぁぁん! 大きかったよおぉぉ~~! 怖かったぁぁぁぁぁ!」


 ぴょんぴょん跳ねるように跳んでくるララさんを、構えてた杖で牽制しながら「魔法使うどころか、歌って踊る暇すらなかった」と呟いてしまいました。

 それが聞こえたのか「あはは……」と苦笑いをするリティが印象的でした。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「さて、どうするかの」


 オーガの部位証明である角は、ララさんの攻撃により頭と一緒に切り刻まれて、床に散らばっています。

 それを悲しそうに見るエレンドさん。

 その元凶は、今だボクを抱きしめようと迫ってきています。

 それを巧みに杖で牽制し続けながら「このまま十一階へ潜りましょう」と提案しました。


「えええぇぇぇ!? 怖いよっ!」

「ふむ、確かにオーガすら相手にならんかったしの。十一階へ潜ってもいいとは思うのじゃが……」


 ハイエルフの娘の叫びをスルーしたエレンドさんは、言葉を濁します。


「何か気になる事でもあります?」

「十一階から出てくるエレキシャドウは、魔法を使ってくるのじゃよ」


 エレキシャドウはCランクの魔物で、その名の通り影のような姿をしていて雷系の魔法を使ってきます。

 ランクだけ言えば、さっき倒したオーガと同レベル。

 何をそこまで気をつける必要があるのかわかりません。


「つまりリリス、リティ、お前さんらにも魔法が飛んで来る可能性が高いのじゃ」

「ああ、そうか」


 魔法だから、ボクとリティがいくら後ろにいたとしても、狙われるということ。

 飛び道具なんて卑怯だ!

 ボクも使うけどさ。


「ララミスはミスリルの鎧をきておるし、わしも鉄の鎧を着込んでおるから、雷系の魔法は殆ど効かぬ。じゃがお主とリティの防具ではちと不安が残るのじゃよ」


 確かにそうです。

 ミスリルなら魔力を通しておけば、魔法だってかなり軽減されます。

 鉄の鎧も、雷なら表面を撫でるだけで中身までは届かない。

 でもボクは単なる布のローブだし、リティだって革の鎧だ。

 どちらも雷系の魔法を喰らえば痺れが残るだろうし、最悪ショック死することも考えられます。


「エレキシャドウは力が無いし、動きもそこまで速くないから、わしにとっては良い相手なのじゃが、お主らにはちと厳しい」

「でも魔法を軽減するような防具って高いですよ? それにリティならともかくボクが鉄の鎧なんて着た日には、三歩で体力が尽きる自信がありますっ!」

「リリスちゃん、胸はって言うセリフじゃないよ。しかも大きいからってそんな自慢げに揺らさないで」

「ばっ! リティ! なんてこと言うんだ!」


 思わず両手で胸を隠したじゃないか!

 そしてボクの牽制が無くなったのを見たララさんが、すかさず抱きついてきました。


「ああ~、やっぱりリリスさんの抱き心地良いですぅぅ~」

「ボクは抱き枕じゃないっ!」


 しかし雷の魔法かぁ。

 確かに十一階層からは中級の冒険者たちが来る階層です。

 中級ならば、一つや二つくらい魔法を軽減する鎧を持っていても不思議じゃない。


「リリスは魔法を軽減するような呪文は知っておるかの?」

「うーん、一つ知ってはいますけど……それは呪文を唱えている間だけ効果のある魔法だから、それ使うとボクは事実上戦力外になりますね」

「それは複数人にかけられるかの?」

「人にかけるというより障壁を張るタイプの魔法だから、二人並んでいれば大丈夫ですよ」


 でも目の前に障壁が出来るのです。

 つまりリティの弩も撃てない。

 これで二人とも戦力外通知されます。


「ふむ、ならば一回潜ってみるか。十一階なら、わしとララミスが居れば何とかなるじゃろ。一度経験するのも勉強になるしの」

「はいっ!」

「ううぅぅぅ、潜るのいやぁぁぁぁ」

「さ、いくぞ」


 エレンドさんはいつものように、ボクからララさんを引き剥がして、十一階層へ潜る階段へと向かいました。




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