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魔女リリスは男に戻りたい  作者: 夕凪真潮
第一章 四人の冒険者、集う
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プロローグ

 満月が地上を幻想的に照らす夜。

 そんな時間にボクは薄暗い森の中で、茂みの中に隠れています。

 ボクの隣には腰まである長い銀髪の十五歳くらいの少女が、ボクと同じようにしゃがんで隠れていたりします。

 彼女の頭には長いもふもふとした耳に、スカートの後ろの穴から出ているふさふさの尻尾。

 そう、彼女はリティ=シルバーフェストという名の銀狐ぎんこという珍しい種族の獣人であり、ボクの相棒です。


 木々が風で揺られ、革で出来た胸当てをワンピースの上から着ている彼女のさらさらな髪がふわっと靡く。

 月光下で煌く銀髪はまるで幻想のよう。


 そういうボクの格好は、黒い大きなとんがり帽子、膝までの黒いローブに箒型の杖と、どこからどう見ても魔女です。

 いえ十四歳なので魔女っ子?

 何だか野暮ったいけど、せっかく魔法使いという職業になれたのだから、一度はこういう服装したいよね。

 実際に着てみてわかったけど、ワンピースのようなローブって意外と動きやすいし、大きな帽子も頭を保護する役割があります。

 まー、帽子は視界の邪魔になるほうが大きいけど。



 とその時、複数の足音が微かに聞こえてきました。

 ボクは無言で隣にいるリティへ頷くと、彼女も頷き返します。


 ギルドからの依頼の残りはオーク三体。


 この足音から察するに三体くらいは居るかな。

 これを狩れば依頼は終わり。

 そう思った時、足音の中に変な雑音が混じっているのに気がつきました。

 それは何かが這いずっているような音。


 イレギュラー? オーク以外にも敵がいるのね。

 やっかいな敵じゃなければ良いんだけど。

 でも所詮はオークが連れているような魔物です。そこまで大した敵じゃないはず。


「リティ」


 ボクは隣に居た少女に小声で呼びかけた。

 ん? という雰囲気でボクのほうを見つめる少女。

 その顔はとても綺麗で、一瞬胸が高まりかけました。

 っとと、今はそんな場合じゃないですね。


「オーク以外に何か居るから気をつけて」

「うん、わかった」


 リティも囁く様に返してくれました。


 しかししゃがんだままの体勢って意外と辛いよね。

 最近また大きくなってきたし。

 下のほうへと視線を移すと、黒いローブに窮屈そうに収まっている自分の胸の谷間が見えます。

 自分の身体じゃなければ目の保養なんだけどな。


 そう思っていると、リティがボクの肩をつついてきました。

 慌てて視線を茂みの外へと移動させると、そこにはオークらしき影が三体に、三メートルほどの大きさのイモムシみたいなものが確認できました。


 なーんだ、ジャイアントクローラーか。


 知能は低く、えさを与え続けているだけで誰にでも懐くイモムシ。

 しかしその大きさに違わず力はかなり強い。

 そのためか、よく運搬要員としてオークやゴブリンなどに飼われている事が多い魔物です。

 案の定、ジャイアントクローラーはオークたちの後ろから重そうな荷物を引きずっているようです。

 さっき聞こえた雑音は、荷物を引きずる音だったらしい。

 敵までの距離三十メートル程度。

 そろそろ動くとしますか。


 リティに指で十五という合図を出すと、彼女は頷いて茂みの中からとても低い姿勢で素早く近くの木の陰へと移動しました。

 彼女が動いたのを確認して、ボクは頭の中でカウントを始めます。

 彼女は次々と木から木の陰へと移動していき、あっという間に姿が見えなくなります。

 さすがあの辺りは獣人、人間にはとても真似できません。


 そしてカウントしていた数値が十五に届きました。

 よし、ボクもいくか!


 すでに敵は二十メートルまで近寄っています。

 一気に茂みから飛び出しオークたちへ奇襲をかけました。


<凍える魂、氷雪の狼、凍てつく風>


 箒の杖を両手で持ち前に突き出して呪文詠唱を始める。

 それに呼応するかのように、ボクの身体の回りにいくつもの文字が浮かび上がり、渦を巻くようにして回り始めた。


 ボクが居るのに気がついたのか、慌てた様子でオークが武器をそれぞれ持ち始める……けどもう遅い。


<吹き荒れよ氷の吐息、氷の雨フローズンレイン!!>


 呪文を唱え終わると周囲を渦巻いていた文字が突き出した腕から杖へと一気に集まり、大きな魔方陣が正面に生まれ、そこから無数の小さく鋭い氷が撃ちだされました。

 文字魔法の一つ氷の雨フローズンレイン

 魔法が撃ちだされる勢いで、着ている黒いローブの裾が靡き揺らいでいます。

 そして氷の雨は狙い違わずオークたちの身体を撃ち抜き、真っ赤な血しぶきをあげて三体とも倒れこみました。


 毎回思うけど、この魔法って氷の雨じゃなくって氷の散弾銃だね。


 ボクの魔法の影響か周囲の気温ががくっと下がり、寒さで若干紫色に染まった唇から白い息が吐き出されました。

 魔法によって乱れた黒い長い髪を杖を持っていない手で直しながら、倒れたオークたちを超えて大きなイモムシの近くまで駆け寄ります。


 さて、リティはどうかな?

 といってもジャイアントクローラー一匹なら楽勝なはずだよね。


 ボクが駆け寄ったときには、既にジャイアントクローラーの頭に光り輝く魔法の矢が貫いて、大きな巨体が倒れこむところでした。

 真横へと視線を移すと、身体に似合わないとても大きな弩を構えていたリティと視線がぶつかる。


「リリスちゃんも終わった?」


 リティは構えていた弩の照準を上に挙げて、ボクのほうを見てにっこりと笑ってくれました。


「うん、こっちも終わったよ。これで依頼は終わりかな?」

「オーク三体にゴブリン十二体、つつがなく終了ね」

「じゃあ耳削ぎとってくるね」

「う、うん。それは任せる。お願いねリリスちゃん」


 リティは冒険者やっているのにも関わらず、グロいのが苦手。

 ボクのほうはもう慣れちゃったけど。


 短剣でオークの耳を三体分削ぎ取り、ついでにジャイアントクローラーの尻辺りに生えている触角も切り取ります。

 削ぎ取った魔物討伐の証明部位を無造作に袋へと詰め込んで、ぶらぶらと手で持ちました。


 さて、ジャイアントクローラーが引きずっていた荷物って何かな。良いものだといいね。


 簡素な手押し車の中を覗き込んでみると、そこにはEランクの魔物サーベルウルフの亡骸が二体ほど無造作に詰め込まれていました。

 あー、このオークたちはこれを狩った帰りでしたか。

 彼らの夕飯になる予定だったのかな。

 サーベルウルフの二本の牙はそこそこいい値段で買い取ってくれるし、ついでに切り落としていきます。


「よし、終わったよ。リティかえろー」

「その匂いきついからあまり近寄らないで」


 獣人の彼女は人よりも遥かに鼻が良いためか、少々しかめっ面しながら鼻を摘んでいます。


「うわっ、酷いよリティ」

「ふふっ、冗談だよ。でもあとでしっかりと水浴びしてね」

「はーい」


 そしてボクたちは暗い森を抜け、アークの町へと帰っていきました。



 ボク、リリス=ラスティーナと銀狐のリティ=シルバーフェストの二人は冒険者をやっています。




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