第六話「ファーストデート」
美咲にデートの誘いを受けた俊樹は、いつも利用している美咲と出会ったあの駅前広場に来ていた。集合時間は、11時。俊樹は、10時30分に到着していた。自分が着てきた服装が変じゃないかチェック。しばらくして美咲がやって来た。
「お待たせ~」
駅の階段を下りてくる美咲は、周りの人達と明らかに違う雰囲気を漂わせていた。
「遅れてないよねぇ?」
右手首に付けている腕時計を見る。綺麗に整えられている髪に、お嬢様らしい清爽な服装。膝まである可愛らしいスカート。完璧なコーディネート。
「だ、大丈夫ですよ。俺が早く来てるんで」
「待たせてない?」
「はい、大丈夫ですよ」
気が付けば周りの人たちがこっちをチラチラ見ている。それもそうだ明らかに一人だけ違うオーラを出しているお嬢様と普通の男子。
「えっと、今日は、何処に行くんですか?」
「海行きたい!」
「何故海!しかも今5月!まだ、早いんじゃないんですか?」
「私ね。海見たことないんだぁ~」
それを聞いた俊樹は、膝を地面についた。
「ど、どんだけ箱入り娘なんだ……」
「ん?何か言った?」
スッと素早く立ち上がり。
「いえ!何でもないです!」
「フフッ俊樹君面白い」
「あははは。それでわ行きますか!」
「はい。お願いしますわ」
歩き出す俊樹。すると。急に右腕に掴んで抱きしめる美咲。
「な~にをしてるんですか美咲さん?」
「ん?だってデートしてる人ってこんな風に女性の人が男性の人の腕を掴んで歩くんでしょ?」
「確かにしますけど……俺とじゃ」
「何何?駄目なのかぁ?」
つぶらな瞳で上目遣いして俊樹の顔に覗き込んで訴えてくる。そんなことをされてたら俊樹は、観念したかのように。
「……分かりましたよぉ」
「ヤッタ~レッツゴー」
電車に二時間ほど揺られ乗り換えを一回して美咲が行きたがっていた海にやって来た。5月ということもあってあまり人がいなく静かな波音が聞こえる。
「わぁ~海だ~!」
美咲は、初めて見る海に興奮して裸足になって波打ち際に走り出す。一時的に引く波を追いかけ、再び戻ってくる波にはしゃいでいる。
「まるで子供だな」
「俊樹君!こっちおいでよ」
足元を濡らして俊樹に対して手を振る。
「いや、俺は……」
「おいでってば冷たくて気持ちいいよ」
「……分かりましたよ。今行きます」
俊樹も裸足になって美咲の元へ。すると、美咲は海の水をスッとすくって俊樹の顔にかける。
「ちょ!やめてくださいよぉ」
「い~や~だ。それそれ~」
再び水をかける美咲に負けじと俊樹もやり返すのであった。