第四十八話「涙を拭いて」
事故を起こしたとみられる大型トラックが、電柱を二本なぎ倒し数十メートル先の民家に激突して、煙を吹きだして停止していた。音葉は、救急車に駆け込もうとしたら救急隊員に止められた。
「私も乗せてください!」
「この人の知り合いの方ですか?」
「はい!大事な人です!」
「分かりました。乗ってください!」
病院に向けて救急車が走り出す。ストレッチャーに横たわる俊樹のすぐ傍で、見守る音葉。俊樹の腹部に黒猫が丸くなってその場を動こうとしない。
「……うぅ。あ、あれ……音葉先輩?」
「鈴木君!!」
反射的に音葉は、俊樹の右手を両手で握る
「君。どこが一番痛いか分かるかな?」
「ど、どうだろ。全身痛いですけど……右足が一番」
会話の所々で言葉が途絶える俊樹。目が虚ろで焦点が定まらない。頭部からは、血が流血している。
「な、何か……お腹に。お、お前。無事だったのか」
俊樹は、震える左手で黒猫の頭を撫でるが力が入らない。
「お、音葉先輩。ど、何処にいますか?」
「ここ!ここにいるよ!傍に!」
音葉を探し目を動かすが焦点が定まらない。
「だ、ダメだ。分からない」
「右手!鈴木君の右手握ってるよ!」
「す、すいません。か……感覚がないです。麻痺してるのかな?」
「君。それ以上喋らないで病院に着くまで大人しくしてください」
俊樹の今の状態を見ていた音葉の目から、大粒の涙がこぼれ両手で顔を覆う。
「こんなことになるなら、もう少し早めの電車に乗れば駅で会えて、事故に遭遇するタイミングをずらせたかもしれたのに」
止まらない涙。事故に遭ったの自分のせいだと思い込み始めてしまう。すると俊樹は、空いた右手力を振り絞り音葉の手掴む。音葉が俊樹を見るとこっちを見ていた。
「自分を責めないでください。こんなの予想が出来ませんよ。だから、音葉先輩。泣かないでください。いつもの笑顔でいてください」
そう言って右手から力が抜けて下に向かって落ちてしまい俊樹は、意識を失った。
「鈴木君!?鈴木君!!」
俊樹を呼び続ける音葉の声が車内で何度も何度も。
病院に着いたのは、それから3分後。救急車から降りて俊樹が運ばれ後に続こうとした時、再び救急隊員に止められてしまう。
「あなたは、彼の親御さんに連絡してあげてください」
救急隊員は、俊樹のスマホを音葉に手渡した。それをギュッと力強く握る。目には、涙が落ちそうだ。
「彼は、大丈夫ですよね!?」
「ここの医師信じてください」
そう言って救急隊員は、救急車と共に去って行った。残された音葉は、涙を拭き電話を掛ける。その足元には、あの黒猫。
「もしもし、鈴木君のお母様でしょうか?」




