第四十七話「黒猫」
水曜日。午前11時。すでに学生服に着替えて部屋で音葉に伝える練習をしている俊樹。時には、壁に。鏡にと。独り言のように喋り続ける。練習なのに緊張して正面ではなく、上を向いたり下を向いたりし目を瞑ったりしてしまう。その都度、気合を入れ直すかのように自分で頬を叩く。
「あぁ~。緊張が解けないな。大丈夫。今は、緊張して落ち着きがないけど本番は、大丈夫だ!そう。大丈夫、大丈夫。……なぁ~。本当に大丈夫かな」
ベットに座って手を上にあげて後ろに倒れる。
「……音葉先輩」
そのまま、眠りについてしまった。
「……ハッ!!」
パッと目が覚めて時計を確認する。
「1時!なんとかセーフ。腹減った。飯食べよう」
部屋を出て一階に下りるとカレーが出来上がっていてテーブルには、書置きが置いてあった。
『午後から仕事。カレー作ったから食べなさい。 母』
椅子に座ってカレーを食べ始める。まだ少し暖かった。
2時5分。駅に着いて学校に向かう俊樹。向かう途中、念のためにと家を出る前に告白文をメモ書きにして、それ見て暗記出来るようにしていた。
「俺は、音葉先輩が好きです……」
そうしてブツブツ唱えているといつの間にか、学校近くの十字の交差点に辿り着き、信号が青になるまで待つ。メモ書きをポケットに突っこんで、両手で頬を二回叩く。
「よし!」
あと少しで青になる。交差点を渡って坂を上れば学校。あと10分あれば到着。
「うぉ!ビックリした!」
信号待ちをしていた俊樹の右足の元に、いつの間にか黒猫が一匹いた。
2時30分。駅に音葉が到着した。
「鈴木君。もう着いてるかしら。久々に制服だけどどこも変じゃないよね?」
駅の改札口にある大きな窓を使って、全身を移してチェックをする。その姿に行き交う若い男性が、音葉のスタイルに目が行ってしまう。
「さて、少し急いだ方がいいかな?」
腕時計を見て時間を確認して学校に向かう。
綺麗な黒髪を風になびかせ、僅かにお菓子のような美味しそうな、香りがする香水が漂う。夏服の学生服。上は、Yシャツに青いリボン。よく見ると薄く透き通って下着が見えてしまう。スカートの長さは、膝ほど。
「ふんふん」
自然に鼻歌が漏れる。そして、学校近くの十字の交差点に近づいた頃だった。音葉の視線の先に沢山の人と一台の救急車が停まっていた。どうしたんだろうっと音葉は、人と人の間をかきわけて前に出ると。
「!!」
今まさに救急車に運ばれようとしている俊樹がいた。




