第四十五話「ご褒美」
「急にどうしたの?」
美咲が下を向くと真っ直ぐな瞳で俊樹が見ていた。
「音葉先輩のことが諦めきれないでここ最近、一緒に出掛けたり話とかしてましたけど、このままだと自分が駄目になる気がしてだから、もう一回自分の気持ち伝えてそれで駄目なら音葉先輩のことは、きっぱり忘れます。前に進めためにも」
俊樹の決断を聞いた美咲は、心の中で失敗してしまえと思う反面そこまで想われている音葉に、嫉妬心が湧き上がる。持っていた筆に力が入り、折れてしまいそうだ。
「み、美咲さん?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと嫉妬してしまって」
力が抜ける美咲。
「音葉ちゃんが羨ましい。俊樹君がそこまで想われて」
「な、なんだか自分が言ったことが恥ずかしい」
顔を横に背ける。
「素敵だと思います。自分の気持ちと向き合って相手に伝えることは、いいことですよ」
「そ、そうですか?」
「えぇ」
俊樹は、目を閉じると眠気が襲ってきて深い眠りについた。
「……くん。とし……くん。俊樹君」
美咲に呼ばれる声が聞こえて目が覚める。
「フフッ。おはようございます。絵が完成しましたよ」
目を擦りながら起き上がると的確に風景をスケッチされて、綺麗に絵の具で色付けされていた。右下に小さくローマ字でMisakiと書かれていた。
「わぁ~。凄いですね。まるで写真みたいでリアルですね」
「もう~。そんなに言われると照れるじゃない」
「本当に上手ですよね。趣味の領域越してますよ。買ったらいくらぐらいだろう……」
絵に見惚れると。
「よかったら。これ受け取ってほしいな」
「イヤイヤイヤ。俺には、勿体ないですよ。貰えませんよ」
「いいの。持って帰っても部屋の隅に置くだけだし、それなら自分の好きな人に貰ってほしいの。プレゼント!」
絵と美咲の顔を交互に見て。
「わ、分かりました。大事に部屋に飾ります」
「ヤッター。嬉しいな~嬉しいな~」
五時のを知らせるチャイムが町に鳴り響く。
「あ、帰らなくちゃ」
「門限ですか?」
「違うけど今日は、五時に帰るってお母様に伝えてるから」
手際よく身の回りの道具を片付ける。
「帰りは、電車ですか?」
「うんん。車が迎え来てくれるの。絵乾いてるけど持って帰れる?無理そうなら……」
「あ、多分大丈夫だと思います」
片付けを終えて二人で土手の斜面を上る。自転車に跨り左の脇に絵を挟んで、右手でハンドルを掴む。
「大丈夫?凄く心配なんだけど」
「平気ですよこのくらい。それじゃ」
ペダルに足をかけて走りだそうとした直前で美咲に腕を掴まれた。
「どうしまし」
振り返ろうとした時、左頬にキスされた。
「なななな何を!?」
「フフッ。今日私に付き合ってくれたご褒美よ」
そう言ってまた、同じところに少し長めのキスされた。ボッと顔が赤くなる俊樹に美咲は、可愛らしく笑って見せウィンクしてその場を去って行く。その後ろ姿が見えなくなるまで俊樹は、呆然と立ち尽くしていた。




