第三十六話「少し遅めに」
俊樹は、ビックリした。
「お、音葉先輩!」
「駅まで一緒に帰りましょう」
「あ、はい」
俊樹の横に並んで歩く音葉。自分の隣に音葉が久々にいるということに俊樹は、緊張している。
「なんだかこうして並んで歩くの久しぶりだね」
「そ、そうですね」
緊張しているせいか受け答えがぎこちない。
「鈴木君は、夏休みどこか行くの?」
「いえ、特にないので宿題をやろうかと」
「そう」
会話が途切れる。頭の中で必死に話題を考える。が、全然出てこない。
「ねぇ。ここ数週間私のこと避けてなかった?」
「え、そんなことないかと」
目線が上に向く。
「この前職員室から出てきた時、私と目が合って逸らさなかった?」
「そうですか?気のせいじゃないですか?」
俊樹は、自分から逸らしたことを自覚していた。
「鈴木君は、私のこと嫌いになったの?」
「急にどうしたんですか?」
「答えて。どうなの?」
「嫌いじゃないです」
「……そう。嫌いじゃないんだ」
話していると遠目に駅が見えてきた。すると、横に並んで歩いていた音葉のスピード少し遅くなったように感じた俊樹。具合でも悪くしたのかと横目で見るが、特に変わった様子は、ない。聞いてみることにした。
「音葉先輩。歩くスピード遅くしました?」
「うん」
真顔で言われた。
「え、えっと。どうしてですか?」
「だってさっきの速さで歩いてたらすぐに駅に着いてしまう」
「遅くしても着きますよ」
音葉は、一回溜息を漏らして。
「少しでも長く鈴木君といたいからよ」
それを聞いて俊樹は、ドキドキした。素直に嬉しかった。音葉は、恥ずかしくなって顔を見られないように右を向く。俊樹は、遅くなった音葉の歩くスピードに合わせる。
歩く速度を落としていなかったら30分かからない道を、およそ一時間ほどじっくり時間をかけながら二人は、歩いた。何件か店も回ったりもした。その間俊樹は、なんだかデートをしているかのような気分で嬉しかった。音葉は、店を回っている間考え事していた。もし、自分の傍にずっと俊樹がいてくれたらと。




