第二話「その人物は」
「どけどけ!」
俊樹が振り返ると一人の男がカバンを抱えてこちらに走って来る。おそらくさっき叫び声が聞こえた人のカバンであろう。俊樹向かって来る男に対して前に塞がり自分のカバンを地面に置いた。
「どけガキ!」
道を塞がれた男は、興奮状態だった。俊樹は、冷静に男に向かい合う。男は、俊樹をかわそうと左に走り去ろうとするが、俊樹は、素早く男の右足を蹴り飛ばすと豪快に転んだ。男の背中に飛び乗って跨り、手を押さえつけようとする。
「放せこの野郎!」
捕まらせないと男は、必死で振り解こうとしてうまく態勢を変えて俊樹と向かい合うと、俊樹の顔面めがけて右の拳を繰り出してクリーンヒットする。俊樹の唇が少し切れて血が出る。そこへ、騒ぎを聞きつけた駅前の交番の警察が来て男は、そのまま連行されて行った。
「っ痛」
俊樹は、男からカバンを取り返して切れた唇を気にしていると。
「あ、あの」
カバンの持ち主であろう女性が現れた。その女性は、学生服を着ていた。
「これ貴女の?」
「はい。ありがとうございます」
カバンを女性に手渡す。
「いいよ。気にしないでください」
「あ、唇から血が!」
「これくらい大丈夫ですよ。それじゃ」
「あ、名前を」
俊樹は、呼び止めを聞かずにその場を後にした。それから電車に乗った俊樹は、さっきの女性いや、女子高生が着ていた学生服に見覚えがあったが、どこの学校か思い出せなかった。
「……どこだっけ」
一方俊樹がいなくなった駅前では、ベンチに座っている先ほどの女子高生が手に持っていたのは、生徒手帳だった。
「……川北第三高校二年生の鈴木俊樹君か」
翌日。川北第三高校二年C組。
「よぉ俊樹。昨日は、どうだったんだ?」
「聞かなくても分かってるくせに」
席に座っていた俊樹のもとに来たのは、同じクラスの林 一也だ。先輩後輩関係なくよく告白せれるモテ男。一也とは、一年からの友人である。
「駄目だったんだろ~そりゃお前じゃ無理だぜ」
「うるさいな!」
「窓の外見て黄昏るなよ~あれ、唇の絆創膏どうしたんだ?」
「ん?これは……」
「分かった!町田先輩に殴られたんだな!いくら先輩のことが好きだからって強引にいくのは、ダメだろ~」
「違うわ!」
立ち上がる。
「わ~俊樹が怒った~」
「待て!一也」
ホームルームが始まる前の日常。
放課後の事。
「俊樹帰ろうぜ」
「あぁ」
俊樹は、一也と帰ることになり靴を履きかえて学校を出たとき。
「あれ、なんか集まってるぞ」
学校の門の所で学生の人だかりが出来ている。俊樹と一也は、その人だかりをかきわけると一人の女子高生がいた。
「あ、見つけた」
「貴女は、昨日の」
その女子高生は、昨日俊樹が男から鞄を取り返した主だった。
「どうしてここに?」
「これ昨日落としてたから」
生徒手帳を取り出して俊樹に渡した。
「あ、俺のだ。わざわざこれを?」
「昨日の事ちゃんとお礼がしたくて」
「いや、お礼なんか、えっと……」
「ごめんなさい。私まだ名前を言ってなかったね」
その女子高生は、スカートの裾を軽く摘む。太ももがさらに露出する。周りの男子が息をのむ。
「桜水女子高等学校三年A組。神代 美咲です」