第十話「一緒にどう?」
月曜日の昼休み。教室で一也とパンを食べている。
「で、お嬢様とのデートは、どうだった?」
俊樹は、この間の美咲とのデートの内容を教えた。
「うえ~。何も知らなさすぎだろう。ゲーセンは、いいとして海を見たことないとか」
「だろう。俺も聞いたときは、ビックリしたよ」
「過保護だな。娘だからって大事にしすぎじゃないか?」
「色々あるんだろう」
「……あ、そういえば。この間の町田先輩、今日また来るんじゃないか?」
「俺もそう思う」
「ひょっとしてこの前の告白OKなんじゃね?」
「んなことあるか!」
「いや、分からんぞ。告白された後にお前のことが好きになっちゃったとか?」
「ないないない」
昼休み。俊樹たちのところに町田先輩が現れることは、なかった。
「俊樹帰ろうぜ」
学校が終わり鞄を持った一也が俊樹のもとに来た。
「あぁ」
鞄に教科書やノートを入れていた時だった。教室の前の方のドアが開いた。そこにいたのは、町田先輩だった。教室内を見渡し俊樹を見つけて中に入って来た。周りにいた生徒たちも、突然の先輩の出現にざわめく。俊樹の前で立ち止まり上から見下ろすように俊樹を見て。
「色々話したいことがあるから途中まで一緒に帰らないかしら?」
その誘いに口が開いたままで閉じることができない俊樹。
「色々とは、どういった内容で?」
隣にいた一也が聞いてみると先輩は、一也の方を見て。
「ごめんなさい。君に言うことではないわ」
「そ、そうですか~」
「どうかしら……鈴木君」
「俺の名前覚えててくれてたんですか?」
「えぇ。私は、気に入った方しか名前を憶えないの」
その言葉に教室にいた生徒たちが一斉にえぇっと心の中で思った。
「わ、分かりました。帰りましょう」
鞄を持って立ち上がり教室を出る。廊下を歩くとその隣には、冷静な顔をしている町田先輩。全然表情がよめない。靴に履き替えて町田先輩を待つ。数分後やって来た。二人は、並んで学校を後にする。下校途中の生徒たちがあちこちで、こちらを見ている視線を俊樹は、感じていた。何も会話が無くただ歩く。何度か町田先輩をチラチラ見るが変わらない表情。俊樹が喋ろうとした時。
「あれ、一緒に食べない?」
突然町田先輩が前方の移動式のクレープ屋に指をさした。
「鈴木君は、甘いの苦手?」
「い、いえ。好きです」
「じゃぁ食べましょう」
その瞬間町田先輩が少し笑顔になったのを俊樹は、見逃さなかった。