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即興小説

停滞した関係への終止符

作者: 西おき

お題:調和した境界 制限時間:30分

 私達は仲の良い姉弟ではなかった。


 三つ下の弟を私はどう扱っていいかまるきりわからなかったし、弟の方でも私への接し方に当時苦手だった算数以上の難問を見出したようだった。

 同じ家で寝起きしているのに、私達の間にはこわばった厚い壁がある。

 それは5年経った今も変わらないはずだった。





 上がりきらない熱が膿んで、じめじめと湿度が肌にまとわりつく梅雨の季節。


 同じテーブルにつき、一言の会話もなく朝食を食べ進める私達姉弟に向かって、化粧をきっちり塗り込めて外着に着替えた母が家庭の余命を宣告した。


「舞、奏。お母さん、今月を持ちましてお父さんとの夫婦関係を解消します」


 弟は飲んでいたマグカップに口をつけたまま固まった。 

 私はトーストをかじった姿勢のまま凝固した。


「お母さんはこの家を出ます。もともとお父さんの持ち家だからね、ここは。引っ越しよ。舞もだから荷造りをはじめてね」


 母の言葉は唐突過ぎた。

 いつか訪れるべきできごとであったとしてもだ。

 私と弟は姉弟ではなくなる。

 私は母と二人の生活に戻り、弟もまたこの家で義父との二人暮らしに戻るのだ。

 私達は本当の姉弟ではないから、義父と母が離れたら家族ではいられない。

 そう思った時、心にさびれた風が吹いた。

 顔をあげる。

 前を向くと、対面の弟も私を見ていた。

 普段は私と目があっても取り澄ましている顔に今は微かな動揺が浮かんでいる。

 私達は強張った顔を見交わし合った。

 母は言うことを言ってしまうと私達にお構いなしに食事の席についた。

 鼻歌さえ口ずさみながらトーストを持ち上げている。

 ふいに何事もなかったかのように視線をそらし、弟は再びマグカップに口をつけた。

 私はかじりかけのトーストに視線を落とした。食欲がわかない。

 肌にまとわりつく水分が冷えて凍ってしまったみたいに体が凍え悪寒がした。


「ごちそうさま」


 私が言うより早く、マグカップを空にした弟が言って席を立った。


「なによ、まだほとんど残ってるじゃない」


 弟を捕まえてテーブルの上の平皿を指さし、いっそのんきに母が言う。


「間に合わない」


 弟は母の手を払って鞄を手にとった。

 私は少し時間をずらし、席を立つ。

 背後に置き去りにした朝食が恨めしげな視線を投げて私を責めている。

 平皿の上の食べ物たちはきっとあのまま捨てられてしまう。

 わからないなにかに追い立てられて私はその場を逃げるように離れた。





 あののんきな母が、私だけでなく弟も連れて出て行ってくれればいいのに。

 玄関を出るとき一瞬そんな考えが頭をよぎって、ばかみたいだと笑いたくなった。


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