神との会食
ある日、私のところへ一枚の手紙が届いた。
手紙には、2月30日にお迎えに上がりますと書かれていて、いたずらだろうと思って、でも、不思議と捨てられなかった。
だからファクシミリのところに適当においていた。
2月29日が終わった直後のNHKニュースから、私は別世界にきたことがすぐにわかった。
はじめの声が、2月30日と言ったからだ。
聞き間違えだろうと思って手持ちの時計をみると、見事に2月30日。
カレンダーにも、携帯の時計も、ネットでさえも、全部が2月30日を示していた。
さすがにここまですると私も怖くなる。
「姫様、お迎えに上がりました。どうぞ、こちらへきていただけますか」
気づけば家の中に、白髪で燕尾服をきた方眼鏡の人が立って、私にお辞儀をしながら、にこりともせずにいってきた。
気づけば私は、イブニングドレスを着込んで、完全に夜会へ行くための準備が整えられていた。
自然に足は外へと向かい、白髪の方に促されるがままに、家の玄関の外に止めてあった、高級外車にの後部座席に載せられて、宴の席へと招かれた。
車は私が住んでいる場所からどんどん離れて行き、見知らぬ田舎道を通り、巨大な城の玄関へたどり着いた。
天を突かんとする尖塔は、何本も立っていて、どれだけ大きいか、私には判断がつかなかった。
「足元にご注意ください」
白髪が、私を車からおりさせると、すぐにメイドが城の中から走ってきた。
「お客様だ。8号室へご案内差し上げろ」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
白髪がメイドに指示をして、私を案内した。
赤カーペットが玄関に敷き詰められていて、慌ただしそうにメイドが行き交っている。
「今日は、どなたが来られるのですか」
私は案内をしてくれているメイドに聞いてみた。
「わたくしの口からは、言うことができません。ただ、偉いお方だということでございます」
そういえば神様のパーティーだとか書いてあったことを思い出した。
「こちらでございます。お部屋の中に、必要なものは揃っておりますが、何か御用がございましたら、扉のすぐ傍にございます、紫色のヒモを引いてくださいませ。すぐに参ります」
そう言ってから、真面目な顔して私に警告した。
「こちらが参るまで、決して廊下への扉を開けませんように。よろしいでしょうか」
「わかりました」
言うと一礼して私が部屋の中に入って、扉を完全に閉めるまで、ずっと外で立っているようだった。
部屋の中を見回してみても、誰がこの城の主なのかを知らせるようなものは、何一つとしてなかった。
「うーん…」
べつにどこかの貴族と知り合いと言うわけでもなく、どうして私がここに連れて来られたのかということが、本当に理解できなかった。
「さて、どうしようか」
とりあえず、部屋の中には、住めるように一通りの設備は整っている。
トイレ、風呂、シャワー、ベッド、冷蔵庫もある。
此処にいても、十分に暮らせるだろうが、私はやっぱり家に帰りたい。
そう思っていた時、扉が開いた。
「お待たせいたしました、どうぞこちらへ来ていただけませんか」
執事が私を出迎えてくれる。
体が自然に動いていく。
「こちらへ」
それは巨大な広間だった。
そこには、見たことがない顔がずらりと座っていた。
私が座ったのは、上座のすぐ横の席で、3番目に当たる席だ。
誰が来るのか知らないが、誰もかれも着飾っていて、目がちかちかするほどだ。
天井からはシャンデリアが吊られていて、光を放っている。
上座に座るはずの人はまだ来ていない。
数分ほど、誰と語ることもせずじっと待っていると、急に扉が開かれて、みんながざわつきだした。
「主人がご到着しました」
執事が宣言をして、その人を連れてきた。
若い男の人だ。
その人が私の横に座る。
「さて、では会食をはじめよう」
それから1時間ほどは、ただ、楽しい食卓と言った感じだ。
「そう言えば、あなたをこの会食に誘ったのは私なんですよ」
「そうだったんですか」
私は彼にそう言った。
「ええ、一般の方も参加したほうが楽しいでしょうからと思って」
「でも、私以外にも理想的な人ならいたでしょうに」
「いや、あなた以外にはいい人なんていませんでしたよ」
「どうしてですか」
彼は、ワイングラスを片手に笑いかけながら言った。
「あなたには、その資格が元々あるんですよ。ここに来れるような資格が、ね」
「資格と言いますと」
「あなたは、私と遠縁の親戚なんですよ。10世代ほど前に別れたので、DNAは程遠いですがね」
「あら、そうだったんですか」
わずかに酔いが来たような、そんな感じの私が答えた。
「ええ、不思議なものでね、私の執事があなたを見つけるまでは、向こうの、じゃなくて世界に私の血族がいるとは思いもしませんでした」
「私も初耳ですわ。このような城をもつ、遠縁の親類がいるとは」
口が流暢に動き出した。
語らいは2時間に及んだ。
デザートが運ばれてきて、それを食べ終わる頃、彼が全員に向かっていった。
「今回の会食に来てくださった皆様に、心より感謝申し上げます。また、来賓の方々にも、どうもありがとうございます」
拍手が食堂を温かく包む。
「さて、本日はもう遅い。ですので、皆さまには部屋を用意いたしました。どうぞ、おくつろぎください」
執事やメイドたちに案内されて、それぞれの部屋へと向かう人の群れから、私は彼と離れた。
「あなたには伝えておかなければならないことがあります」
「なんでしょうか」
食堂の中に人は、私たちとメイドしかいない。
「私は、時の神として、この虚数時空間上に存在している全ての時を管理しています。あなたにもその力があるはず。そのことをお知らせしたいのです。本日が2月30日だということは、知っていますよね」
「ええ、残念ながら」
確かに出てくる時に、家にあるカレンダやらネットやらを調べたが、2月30日という普通ならあり得ない時間だった。
時が操れるというのであれば、2月30日を作ることもきっと可能だろう。
「あなたにも、その力がある、そのことを知っていてください。訓練を受けたくなったら、またこの場所に来てください」
「分かりました」
私は彼にそう言って、メイドに連れられて、部屋へと戻った。
それからはベッドにそのまま向かって眠ってしまったようだ。
気付いたら、家に戻っていた。
家のベッドの上で起きて日付を確認すると、3月1日になっていた。
2月の欄を見ると、ちゃんとうるう年らしく29日までになっていた。
「なんだったんだろう…」
私はさっきのはきっと夢だろうと思うことにした。
でも、手紙は、まだおいたところにおかれていた。




