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神との会食

作者: 尚文産商堂
掲載日:2012/03/31

ある日、私のところへ一枚の手紙が届いた。

手紙には、2月30日にお迎えに上がりますと書かれていて、いたずらだろうと思って、でも、不思議と捨てられなかった。

だからファクシミリのところに適当においていた。


2月29日が終わった直後のNHKニュースから、私は別世界にきたことがすぐにわかった。

はじめの声が、2月30日と言ったからだ。

聞き間違えだろうと思って手持ちの時計をみると、見事に2月30日。

カレンダーにも、携帯の時計も、ネットでさえも、全部が2月30日を示していた。

さすがにここまですると私も怖くなる。

「姫様、お迎えに上がりました。どうぞ、こちらへきていただけますか」

気づけば家の中に、白髪で燕尾服をきた方眼鏡の人が立って、私にお辞儀をしながら、にこりともせずにいってきた。

気づけば私は、イブニングドレスを着込んで、完全に夜会へ行くための準備が整えられていた。

自然に足は外へと向かい、白髪の方に促されるがままに、家の玄関の外に止めてあった、高級外車にの後部座席に載せられて、宴の席へと招かれた。


車は私が住んでいる場所からどんどん離れて行き、見知らぬ田舎道を通り、巨大な城の玄関へたどり着いた。

天を突かんとする尖塔は、何本も立っていて、どれだけ大きいか、私には判断がつかなかった。

「足元にご注意ください」

白髪が、私を車からおりさせると、すぐにメイドが城の中から走ってきた。

「お客様だ。8号室へご案内差し上げろ」

「かしこまりました。どうぞこちらへ」

白髪がメイドに指示をして、私を案内した。


赤カーペットが玄関に敷き詰められていて、慌ただしそうにメイドが行き交っている。

「今日は、どなたが来られるのですか」

私は案内をしてくれているメイドに聞いてみた。

「わたくしの口からは、言うことができません。ただ、偉いお方だということでございます」

そういえば神様のパーティーだとか書いてあったことを思い出した。

「こちらでございます。お部屋の中に、必要なものは揃っておりますが、何か御用がございましたら、扉のすぐ傍にございます、紫色のヒモを引いてくださいませ。すぐに参ります」

そう言ってから、真面目な顔して私に警告した。

「こちらが参るまで、決して廊下への扉を開けませんように。よろしいでしょうか」

「わかりました」

言うと一礼して私が部屋の中に入って、扉を完全に閉めるまで、ずっと外で立っているようだった。


部屋の中を見回してみても、誰がこの城の主なのかを知らせるようなものは、何一つとしてなかった。

「うーん…」

べつにどこかの貴族と知り合いと言うわけでもなく、どうして私がここに連れて来られたのかということが、本当に理解できなかった。

「さて、どうしようか」

とりあえず、部屋の中には、住めるように一通りの設備は整っている。

トイレ、風呂、シャワー、ベッド、冷蔵庫もある。

此処にいても、十分に暮らせるだろうが、私はやっぱり家に帰りたい。

そう思っていた時、扉が開いた。

「お待たせいたしました、どうぞこちらへ来ていただけませんか」

執事が私を出迎えてくれる。

体が自然に動いていく。


「こちらへ」

それは巨大な広間だった。

そこには、見たことがない顔がずらりと座っていた。

私が座ったのは、上座のすぐ横の席で、3番目に当たる席だ。

誰が来るのか知らないが、誰もかれも着飾っていて、目がちかちかするほどだ。

天井からはシャンデリアが吊られていて、光を放っている。

上座に座るはずの人はまだ来ていない。


数分ほど、誰と語ることもせずじっと待っていると、急に扉が開かれて、みんながざわつきだした。

「主人がご到着しました」

執事が宣言をして、その人を連れてきた。

若い男の人だ。

その人が私の横に座る。

「さて、では会食をはじめよう」


それから1時間ほどは、ただ、楽しい食卓と言った感じだ。

「そう言えば、あなたをこの会食に誘ったのは私なんですよ」

「そうだったんですか」

私は彼にそう言った。

「ええ、一般の方も参加したほうが楽しいでしょうからと思って」

「でも、私以外にも理想的な人ならいたでしょうに」

「いや、あなた以外にはいい人なんていませんでしたよ」

「どうしてですか」

彼は、ワイングラスを片手に笑いかけながら言った。

「あなたには、その資格が元々あるんですよ。ここに来れるような資格が、ね」

「資格と言いますと」

「あなたは、私と遠縁の親戚なんですよ。10世代ほど前に別れたので、DNAは程遠いですがね」

「あら、そうだったんですか」

わずかに酔いが来たような、そんな感じの私が答えた。

「ええ、不思議なものでね、私の執事があなたを見つけるまでは、向こうの、じゃなくて世界に私の血族がいるとは思いもしませんでした」

「私も初耳ですわ。このような城をもつ、遠縁の親類がいるとは」

口が流暢に動き出した。


語らいは2時間に及んだ。

デザートが運ばれてきて、それを食べ終わる頃、彼が全員に向かっていった。

「今回の会食に来てくださった皆様に、心より感謝申し上げます。また、来賓の方々にも、どうもありがとうございます」

拍手が食堂を温かく包む。

「さて、本日はもう遅い。ですので、皆さまには部屋を用意いたしました。どうぞ、おくつろぎください」

執事やメイドたちに案内されて、それぞれの部屋へと向かう人の群れから、私は彼と離れた。

「あなたには伝えておかなければならないことがあります」

「なんでしょうか」

食堂の中に人は、私たちとメイドしかいない。

「私は、時の神として、この虚数時空間上に存在している全ての時を管理しています。あなたにもその力があるはず。そのことをお知らせしたいのです。本日が2月30日だということは、知っていますよね」

「ええ、残念ながら」

確かに出てくる時に、家にあるカレンダやらネットやらを調べたが、2月30日という普通ならあり得ない時間だった。

時が操れるというのであれば、2月30日を作ることもきっと可能だろう。

「あなたにも、その力がある、そのことを知っていてください。訓練を受けたくなったら、またこの場所に来てください」

「分かりました」

私は彼にそう言って、メイドに連れられて、部屋へと戻った。


それからはベッドにそのまま向かって眠ってしまったようだ。

気付いたら、家に戻っていた。

家のベッドの上で起きて日付を確認すると、3月1日になっていた。

2月の欄を見ると、ちゃんとうるう年らしく29日までになっていた。

「なんだったんだろう…」

私はさっきのはきっと夢だろうと思うことにした。

でも、手紙は、まだおいたところにおかれていた。

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