始まり
「みなさん、こちらに集まって下さい」
シスターがそう言うと、子供達が教会の前に集まってくる。この場にいる子供達は皆今年で十歳になる少年少女達だ。
この世界では十歳になると教会で天啓を授けられ、スキルを得る。得たスキルを元にして、そのスキルに連なった派生スキルを得ていくのだ。
つまり最初の起源オリジンスキルが今後の人生に大きく影響する。そのため、子供達は今から授かるスキルに想いを馳せて、胸を昂らせる。
村にある教会に集まった少年の一人、アルベルトも他の子供たちと同様に今から授かるスキルに期待に胸を膨らませていた。
「アル!貴方はどんなスキルが欲しいの?」
アルベルトに気さくに話しかけてきたのは、いつも一緒に遊んでいる幼馴染のクレアだった。
ツインテールにしている赤い髪を揺らしながらアルベルトに尋ねてくる。
「やっぱり、騎士になるなら剣術系のスキルかなぁ」
「そっかぁ、私もおんなじかなぁ。女騎士になって、お姫様を守るの!」
クレアはそう言って胸の前で拳を握る。そうすると周りの少年たちは、クレアの話を聞いていたのかニヤニヤと笑ってクレアを馬鹿にし始める。
「お前じゃ無理だよ、だって俺らの中で一番力ないもん」
「そうだぜ、女の中でも一番弱いじゃん」
「ムゥ、これからすっごいスキル貰ってすぐ追い抜いてやるんだから!」
クレアは顔を真っ赤にして少年たちへ言う。アルベルトはそんないつも通りの光景に笑う。
「みなさん静かに!」
シスターが声を張り上げると、子供達は急に静かになる。このシスターは怒ると物凄く怖いことを村の子供たちは理解していたので誰一人として逆らう者はいない。
シスターは子供達が静かになったことを確認すると、姿勢を正して説明を始める。
「いいですか、今から一人ずつ教会の中へ入って神に祈りを捧げます。そうすると頭に靄がかかったような状態になりますが、落ち着いて祈りを続けて下さい。しばらくすると頭の中に貴方のスキルが浮かび上がってくるはずです」
シスターの説明に子供達は息を飲む。これからの人生が今から貰うスキルで大きく変わっていくのだ。
「それでは、左のものからどうぞ」
シスターの言葉で一人ずつ教会へ入っていく。教会から出てくるものは大半が浮かない顔をして出てくる。時には泣きべそをかいて出てくるものもいた。側から見たら望んでいたものとは違うスキルだった事は明白だった。彼らの様子を見て、アルベルトは自分も同じようにダメだったらと不安になっていた。そして、ついにアルベルトに順番が回ってくる。
アルベルトは教会の中に入り、女神像の前まで行くと膝をつき、両手を前で組んで祈りの姿勢をとる。そのまま目をつぶるとシスターが言っていたように、頭に靄がかかり始めた。アルベルトはそのまま数秒耐えていると、急に靄が晴れていく。そして頭の中に文字が浮かび上がる。
環境適応力Lv10
(環境適応力?なんだそれ?)
アルベルトが目を開けるとシスターから教会を出るように言われ、慌てて出で行く。教会を出るとクレアが心配そうな表情で見つめていた。
「アル!どうだった?」
「剣術じゃなかったよ」
アルベルトがそう答えるとクレアは気まずそうな表情を見せる。アルベルトはそれに気づき優しげな口調でクレアに言う。
「そんな顔するなよ、別に騎士になれないと決まった訳じゃない。それより次はお前の番だよ、早く行かないとシスターに怒られるぞ」
「はっ!そうだった、じゃあねアル!」
「おう!」
アルベルトはクレアと別れると顔を俯かせる。可愛い幼馴染の前ではなんともない様に振舞っていても、まだ十歳の少年だ。願っていたものとは違うスキルに気落ちしていた。
(やっぱり、俺は騎士にはなれないのか)
グッと拳を握り締め唇を噛み締めるアルベルト、暗い感情が頭の中を覆い尽くす。
しばらくすると、クレアが戻ってきた。顔は向日葵のように明るい。
「ねえ、アル!私『剣の申し子Lv-』っていうスキルをもらったの!これ絶対剣術系のスキルよね!」
「え?ああ、そうなんだ。凄いじゃん」
「うん!だからアルも一緒に騎士を目指して頑張ろ!」
アルベルトはその言葉にハッとする。
(そうだ、スキルが全てじゃない。俺だって頑張ればきっと!)
「そうだよな!クレアもスキルに頼ってばっかじゃダメだぞ、お前弱いんだし」
「むぅ、これから強くなるし!あるなんてすぐに追い抜いちゃうんだから!」
クレアは両手を腰に当て、前屈みになりながらアルベルトに言う。
「ははっ、そんな怒るなって」
「別に怒ってないし!」
*
アルベルトとクレアはそれぞれの家に戻っていた。今はお昼頃、アルベルトは両親に起源オリジンスキルを報告するために急ぎ足で家に帰った。
「ただいまー!」
家に帰ると良い匂いが漂ってきた、アルベルトは自分の好物であるシチューの匂いにすぐ気付く。両親はアルベルトに気づくとぎこちない笑顔で答える。
「あら、おかえりなさい」
「おお、帰ってきたか。まあ、座れ」
「そうね、もうお昼だし、丁度良いわ」
アルベルトは両親の反応に違和感を感じつつも結果を報告しようとする。
「スキルなんだけどね....」
「兄ちゃんおかえりー!!!」
アルベルトに急に向かってくる男の子 はアルベルトよりも3歳下の弟、テセウスである。
「ただいま、テセウス」
アルベルトはテセウスの頭に手をやり撫でる。
テセウスは嬉しそな顔でアルベルトを見て頬を緩ませる。
「兄ちゃん!それで何のスキルをもらったの?」
「!?、こらっ!テセウス、聞くのは食事の時って言ったでしょ!」
「だって気になるんだもん」
慌ててテセウスにそう言う母を見て、アルベルトは違和感の原因に気づく。
父の方を見ると彼もまた微妙な顔をしていた。
「アルベルト、その、なんだ、先に言っとくが結果がどうであろうと気にすることはないからな。スキルでで全てが決まるわけではないのだし」
普通、望んだスキルが手に入ることはほとんどない。それが剣術などの戦闘系の物は特にだ。
アルベルトは父が自分のことをフォローしてくれることに嬉しさを感じ、笑顔を向ける。
「心配しないで、父さん。確かに望んでいた様なスキルではなかったけどそんなに落ち込んでないよ。ただ聞いた事ないスキルだからちょっと心配だけどね。スキルが全てじゃないって事は分かってるよ」
アルベルトの言葉に両親はホッとした顔になる。常日頃から騎士になりたいと言っていた息子が落ち込んでいないか心配だったのだ。
それくらい、戦闘系のスキルは稀だと言えよう。
「そうか、安心したよ」
「そうね、てっきりもっと落ち込んでいるものとばかり思ってたわ」
「あははっ、それよりお昼にしよう。お腹減ったよ」
「そうだな、食事をしながらゆっくりとその話をしよう」
*
アルベルトは家族でテーブルを囲んで好物のシチューを食べていた。一口大の食材がたくさん入っていて、
牛乳で野菜をじっくり煮込んだシチューはとても優しい味がする。アルベルトの家は商いをしているが、普段はここまで豪華ではない。恐らく母が気を使っていつもよりも豪勢にしてくれたのだろう。
アルベルトはシチューと母の優しさに身体が温かくなるのを感じた。
「それで、結局どんなスキルを手に入れたの?」
初めに切り出したのはテセウスだった、やはり聞きたくてウズウズしていたのだろう。
アルベルトはスプーンを置いて、家族へ向き合う。
「えっとね、『環境適応力Lv10』っていうやつだったよ」
アルベルトの言葉に母とテセウスはポカンとしていた、ただ父だけは複雑な顔をする。
「父さん、何かこのスキルについて知ってるの?」
「ああ、知っている事は知っている。だが、よりによってそれか....」
「どういう事なの?父さん、教えてよ」
テセウスが気になって父を問いただす。
母もアルベルトも聞いたことのないこのスキルについて知りたいといった様子だった。
父はふぅと息を吐くとアルベルトを真剣な表情で見つめた。
「私よりもクレアちゃんの父、ゲイルさんに聞いたほうがいい。彼ならもっと詳しく知っているはずだからね。お昼の後に一緒に行こうか」
「わかったよ」
アルベルトは父のそんな物言いに疑問を感じつつ返答する。
アルベルトの心には一抹の不安がよぎるのであった。




