第八章 銀と黒と黄金とー2
陽光にキラキラと透ける銀の髪。
鮮やかすぎる紫の瞳。
執務室へ続く回廊で微笑んでいるのは、
間違いなくあたしが、誰よりも会いたかった人。
「団長!」
「よぉ。良い所で」
ガイの呼び掛けに、にっこりと笑い返す端麗な微笑み…
うわ~~~~っ! アレク!アレクだ!
き、来た…
し、しかも。
極上の、微笑みつき…
マジ?
マジですか?
いつも微笑んではいるけれど、
こんな楽しそうな心からの笑顔ってあたし初めてかも…
「まさに良いところで帰ってきた。急いだ甲斐があったというものだ。
久しいな、ガイ。息災であったか?」
「それを俺に聞くのか?
俺は温室育ちとは無縁でな。ちょっとやそっとじゃ壊れんよ」
「…相変わらず口が達者だな。――変わりないようでなによりだ」
「それは、嫌味か?」
「なんとでも」
言葉だけ聞くと口喧嘩みたいだけど、二人ともとっても楽しそう。
本当に今日はツイてるわ。
アレクのこんな表情、めったに見られるもんじゃない。
しかも、こんなに近くでよ?
相変わらずどの角度で見ても、なんてお綺麗な…
あたしは美形フェチじゃない。
美形フェチではないはずなのに。
…おっとっと。
我に返ったユーリが一歩下がって礼をする。
ヤバい、ヤバい。
見惚れてる場合じゃなかったね。
――いや、あたしは見惚れてても構わないのか?
う~ん、ユーリ。
お願い、目線を上げて。
あたしに、アレクの綺麗な顔を拝ませて。
「本営からの帰りか?」
「いや、一の郭の私邸からだ。領地の諍いがまだ解決していなくてな…
どうした? その書類は」
「ああ、そこの坊やが持ってきた。お前当てらしいから、お手伝い」
「それは… すまない、ユーリ。重かっただろう」
「い、いえ。し、仕事ですから…」
緊張で、声が引きつってる。
無理もないけど、そこで噴出さないでヒューバー殿。
「おい、俺には一言もなしか?」
「そのぐらいの量でどうにかなる程、卿はヤワでもあるまいに。
それとも、この私に、気遣って欲しいとでも?」
「相変わらず良い性格をしているな…
おい、坊主。こんなのの下で働くの、嫌になったら言ってこい。
俺のとこでちゃんと面倒見てやるから」
「将来有望な部下を横取りしないでもらいたい。
この者は、私の所で一人前にする」
これって、取り合い? あたしを挟んで、取り合ってる?
さ、さんかくかんけい…
い、いや、違う。
あたしじゃない。
取り合いされてるの、あたしじゃないし!
しかし、アレクってこんなにしゃべる人だっけ?
いつも見る、頼りになる団長って感じじゃなくて、
青年のままって感じがする。
これはこれで凄く魅力的――
それだけガイに、心を開いてるってことですか?
――いいな…
いっそ、ガイになりたい。
「あ、ありがとうございます。
りょ、両団長のご期待に背かぬように、精進いたします…!」
ぴょこん!
ユーリが思いっきり頭を下げてお辞儀する。
――うわ、この子ってば、なんて…
アレクとガイが顔を見合わせて。
「…相変わらず、なんというか、お前は…」
「いい子だろう?」
「まったくだ」
ぐりぐり…
またガイの手がユーリの頭にのびて、
ちょっとだけさっきより強めに頭を撫でられる。
この人って、こういうスキンシップ好きなんだよね。
だめだよ、そういうの。
男殺しって言うの、きっと。
でも、気持ちわかる。
あたしも思わず撫でてあげたくなったもの、手があれば。
どうせならアレクにも、やって頂けると嬉しいなんて…
これはあたしの悲しき願望。あなたはそんなタイプじゃないものね。
でも、ほんの少しでも、接触とかあったら嬉しすぎ――
あたしの、体じゃないけどね。
目の端に映るアレクは笑ってる。
それだけで、嬉しい。
舞い上がってる気持ちを少しだけ落ち着けて、
背の高い二人の姿をユーリの目線で仰ぎ見る。
銀の髪と黒い髪。
アメジストの瞳と、黒曜石の眼。
実に対照的な二人なのに、並んで不思議と違和感がない。
アレクの容貌は、冷たく鮮やかな夜を思わせて。
一方のガイは、髪も眼も服装すらも漆黒なのに、
なぜか、明るく輝く夏の陽光が良く似合う。
夜と昼。
光と闇。
月と太陽。
『ソレニアの両輪』――と謳われる、紛れもないこの国の要。
国王ルード陛下が、最も頼みとするのはこの二人だって、
ソレニアの国民全部、それこそ子供だって知っている。
第一騎士団は城を。
その周り、首都全般は第二騎士団が。
第一と第二。
アレクとガイ。
二重の守りにこの城は守護されている。
第二騎士団は、警察のような仕事も兼ねてるから結構人数も多いんだ。
確か、騎士だけで五百…だったっけ。
歩兵とか入れたら、第一の優に五倍になるらしい。
第一騎士団の人数は案外少ない。
少数精鋭って奴?
その分いろんな才能を併せ持つ人がいて、
いざという時は多方面への指導的遊軍になると聞いている。
つまり、実質的な首都防衛はガイの両肩に乗っている。
二人の仲が緊密であることが、
首都の安全のためには絶対に必要不可欠なことなんだ――
これはユーリと仲の良い、馬番のトムじいさんからの受け売りだ。
でも、そんな事は関係ない。
二人がとても親しいことは、今見ているだけですぐわかる。
良いよね、こういう男の友情って。
お互いを尊重し合ってるの、そばで見てて感じられる。
――おまけに二人とも、これ以上ないいい男。
いや~眼福眼福。
おねーさんてば、今日はホントにラッキーです。
そうこうしている間にアレクの執務室の前に着く。
一歩退いて従ってきてたユーリが、慌てて扉を開けようとする。
それを笑って制して、アレクが自分でそれを開けてしまう。
――従僕の仕事、取らないでください…
「ユーリ」
「はい!」
正面の机に、書類一式をガイから受け取った分も揃えて。
踵を返したときアレクから声がかかる。
「厨房へ行って、何か酒を取ってきてくれないか?
――そうだな…、まだ昼間だから、軽い物で」
「おいおい。俺相手に、軽くで済まそうって?」
「日が暮れたら、たっぷり付き合おう――頼めるかな?」
「はい。ただいま、すぐに!」
ぴょこん!とお辞儀をして、ユーリは小走りに駆け出しかけて。
「おーい、走るな。転ぶぞ」
「は、はい…!」
なんだか、二人してユーリを笑っているような気配がするけれど。
うん。
嫌な感じじゃないのよ。
だから心が温かい。
それより、お仕事。
お仕事です。
何か、大好きな人の為に出来る事がある。
動くのはあたしの体じゃないけれど、
あたしにとっても、それは本当に嬉しい事だった。




