第三十九章 思いっきりの肩すかし
「うわあぁぁぁぁぁぁ~~~~!!」
飛び起きた途端、あたしは思いっきり叫ぶのを止められなかった。
アレクが。
やっと、アレクと、会えたのに!
思い出して、思わず七転八倒してしまう。
「なんで、目、覚めるかな~~~~!」
帰ってきて、しまったんです、あたし!
ユーリの体ごと引きずりこまれた暗闇の中。
微かな蝋燭の炎の中に浮かび上がってきたのは、
間違いなく焦がれた銀の髪。
その途端、あたしは急激な覚醒感に囚われて、
あろうことか、目を、覚ましてしまったんです!
「あ、ありえない!」
ああもう本当に、ありえない。
確かに、夢の世界って、あたしの思うままにはならないけれど。
このタイミング!
この状況下で!
なんで目、覚ますかな、あたしは!!
ベッドの横、この覚醒を引き起こした元凶たる目覚ましを、
思いっきり殴りつけるようにして止める。
力のありあまったその一撃は、
ガシャンと言う耳障りな音を立て、
まん丸ボディの背面から乾電池が飛び出して床へ転がる。
あたしはスローモーションを見るように、
自分の引き起こした事態を眺めていて――
急激に膨れ上がってきた罪悪感に、
時計と電池を拾い上げて、セットする。
秒針が動きだしたのを確認して、ホッと息をはいた。
――時計に八つ当たりして、どうすんの…
仕事…
ああ、今日も、仕事行かないと。
夢は夢。
でも…
――アレク…
そう。
「アレクだ…」
微かな光の中にいたのは、
間違いなく、あたしのアレク――
「――!!」
声に、ならない。
「…やっ、たあぁぁぁ~~~~~!!」
今日一番の大声で、あたしは叫んだ。
いきてた。
アレク、生きてた。
もう、それだけで、うれしかった。
「うるせーぞ!このバカ! 朝っぱらから何やって…」
バタン!と大きな音を立てて部屋の扉が開く。
パジャマのままで乗り込んできた兄貴に、
いつもだったら「ノックの一つもしなさいよ!」と悪態の一つもつくとこだけど。
「ええ? ああ、なぁに~?」
今日のあたしは気分がいいの。
アレクがちゃんと生きてたもん!
やっぱり、あたし、気にしてた。
考えないようしてたんだ。
あたしは信じないまま、どこかで覚悟をしてたんだ。
もう平気。
もう、大丈夫。
だって、帰ってきたもん。
これでおしまい。
あたしの理想郷での悪夢も、今日でおしまい。
アレクがいれば大丈夫。
アレクが帰ってきたから、
もう、何もかもうまくいく。
「やった~!」
思わず万歳を叫んだら、横から変な声が降ってきた。
「…お前」
「あれ?」
兄貴、いたの。
あ、そういや、さっき怒鳴りこんできてたっけ?
「有里…」
「ん?」
「お前、大丈夫か…?」
なんて、凄く真剣な顔で聞くから、思わずきょとんとしてしまう。
「大丈夫って、何が?」
「なにって、お前…」
「へ? なにかあった?」
そんな心配されること、なにもない。
あたしは現在絶好調!
矢でも鉄砲でも、持って来いって感じですぜ、旦那。
「…まあ、確かに、体は元気そうではあるけどな…」
な~にか、言いたそうだね、おあにいさん。
「――何やってんだい、二人とも!」
もう、半、過ぎてるよ!と、
階段下からおふくろ様の声が木霊して。
あたしは慌てて、さっき放り投げた時計を見る。
午前六時、四十分――
「――!」
今日、朝の申し送りがある日じゃなかったっけ?
「ち、遅刻! 兄貴!どいて!」
「ばっかやろう!お前より俺の方が切実だ!今日は、日直だってのに!」
「兄貴は、あたしより近いじゃん! まだ、間に合うよう!」
「このバカ! 時間!よく見ろ!」
競い合って階段を駆け下りて、
兄貴と二人なだれ込んだ居間のテレビで、朝のニュースが始まった。
「げっ!マジ!?」
もう、七時じゃん!!
「さっき、四十分だったのに!」
「どこが!?」
「目覚まし!」
「お前の扱いに耐えかねて、遂にぶっ壊れたか、気の毒に!」
くそ~!
今日ばかりは反論出来ないじゃない!
慌てて支度を整えて、玄関から飛び出す。
「行ってきま~す!」
エンジンをかけたスクーターから見る空は、快晴――
冬の空は、澄んだ水のように青くて。
――帰ったら、時計、合わさなくっちゃ…
そう呟いて、あたしは自分の世界へ飛び出して行く。
この先に待っているものに、
何一つ気づかずに。




