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第十七章  第二騎士団


目の前に大きな門。


前に、一度見た事がある。

これはシュロスの市街地の南にある、

第二騎士団の隊舎の門。


――って事は、今晩もこちらにお邪魔って事?

おお…! 二日ぶっ続けってのは、珍しい。

本日もよろしくお願いします。


ちょっとだけユーリの記憶の中を探ってみる。

……な~るほど。

今日は、こちらへのお使いですか。

はいはい。なんとアレクからガイへのお手紙持って。

珍しいわね、手紙なんて。

ガイに直接渡すようにって厳命付き。

密書とか何か重要書類ってこと?


これって信頼されてるって事だよね。

ユーリってば凄いじゃん。


気合いを入れて、もう少しユーリの記憶を探ってみる。

アレクと一緒に遠乗りに出てから――

そっか、五日程経ってるの。

あの日、アレクとユーリの帰還を見届けず、

あたしはそのまま目覚めちゃったけど、

どうやら無事に二人して帰ってきてたみたいだね。

いや、帰らないと問題だけど。


なになに… 


帰ったら、隊舎に宰相閣下がいらしてて、

そのままアレクを王宮に拉致して行った…とな?


わっはっは。

アレクってば、本当に逃げてきてたんだ。

アレクのそんなトコ見れたなんて、この前はラッキーだったのね。


けれど目覚めたあたしと言えば。

貴重な休みを丸一日、

おふくろ様の掃除に付き合わされる羽目に陥って、

疲労困憊ぐでぐで中。

家中――それこそトイレから風呂場から廊下の隅の柱まで、

文字通りピカピカに磨き上げるまでその勢いは止まらない。

付き合わされたあたしがへとへとになって、

夜九時に就寝しちゃっても仕方ない。

疲れたんだよ。もう限界!――でも、こんなご褒美になるなんて。


昨日から今日に掛けての二夜連続。

アレクにガイ。イケメンのそろい踏み。


二人とも、もの凄く忙しい人だから、

こっち来てても会えない事の方が当たり前。

お使いを頼んだ時のアレクには会いそびれたけれど――


やった! ガイに会えるよ。 


――って、いえ、あの、そのですね。


一応確認。

あたしの本命はあくまでアレク、です、はい。


…でも、ガイもカッコいいんだもん。 

やっぱり会えると嬉しいじゃん。

このぐらいの役得は許容範囲だよ~!

――なんて、ユーリの中であたしはただひたすらに自己弁護。



門のところで番をしている騎士に用件を告げて、

そのまま案内の人と一緒に中へ。


この中まで入るのは、あたしもユーリもほんとに初めて。

石造りの強固な壁が、要塞のようにぐるりとまわりを取り囲む。

第一騎士団の隊舎に比べると簡素、剛健って感じの建物。

石むき出しの外観は、騎士団の隊舎としては質素に見えるかもしれない。

けれど、その大きさは半端無い。

一騎士団の隊舎としては、ユーリが暮らす第一団より確かに広い。

これはもう隊舎とかじゃなくて、砦のレベルではなかろうか。

さすが首都の防衛を、一手に引き受けるだけの事はある。

人数も遥かに多いしね。

市街地の中に入り切らないで、

こんな外れにあるのもわかる気がする。


向こうに見える広場は、練兵場みたいなものかしら? 

あんな広いトコに騎士が一斉に整列なんかしたら圧巻だろうな。 

その騎士達を統率していくガイの姿――う~ん… かっこいい…

まんま映画のシーンみたい。

確かガイは鎧や外套、黒で統一してたよね。

本人の黒い髪、黒い瞳と相まって―――

おお! 黒衣の騎士ってか? マ、マニア受け、メッチャしそう。


ユーリが物珍しそうにきょろきょろしてくれるから、

あたしもあっちこっちを、この眼に収める事が出来る。

君のその好奇心、実にありがたいことだけどね、


仮にもお使いが、そんなに落ちつきの無い態度でどうするよ。


「――どうした? なんか珍しい物でもあるのか?」


いきなり背後からかけられた声に、文字通り飛び上がる。


「ヒュ…ヒューバー、団長…!」


振り向いた回廊の柱の前で、笑っているのはガイその人。

び、びっくりした! 

何? え?この柱? 

柱の影に隠れてた?

気配とかって、あったっけ?


「どうした? 坊主がこんなトコ来るなんて珍しいな」


案内してくれた従僕――ユーリと違って年配の、

穏やかそうなおじさんに目線を向けてガイが問う。

おじさんは、ユーリがアレクからの親書を携えている事をきちんとガイに伝えてくれて。


「そうか。ここからは俺が連れて行く。ご苦労だったな、トマス」


そうか、トマスさんと言うのか。

トマスさんは、あたしたちにも退去の挨拶をして下がっていく。

ユーリが慌てて案内の礼を返すと、

にこりと笑って今来た門の方へ帰っていく。


――さすが…


こんな小僧っ子のユーリにも、きちんとした客人への対応。

卑屈にならずにさりとて傲慢にもならず。


これはきっとガイの目が、隊舎の隅々まで行き渡ってるんだろう。

ユーリが所属している第一団も、目下の者を無下に扱う事は無い。


けれど貴族により近い、城内にあるからこそ、

あたしに見えるものもある。


従僕でしかないユーリに向けられるのは、決して好意ばかりではない。

だからこそ。


――――凄いよ、ガイ。


この大所帯で、この雰囲気。

空気が明らかに吸いやすい。


「おい坊主 ……と、ユーリだったか? こっちだ」

「は、はい!」


ありがたくも団長直々のご案内ですよ。これはレア。

ゆったりと歩くガイの後姿を見ながら歩くなんて… 

――ふっふっふっ… 

昨夜に引き続き、

今日もなんてついてるんだろう、あたしってば。


ガイは相変わらず黒っぽい服で全身を固めているけれど、

城で見かける時より、その生地は慣れた感じで印象が柔らかい。

いつもはきちんと上まで止めている胸元も、

軽く鎖骨が見えるくらいまでくつろげて、

下げている剣だけが騎士だってことを教えてくれる。


これは… 

ヤバい。

これは、ヤバいですよ。

マジ、凄くカッコいい…


――だ・か・ら! 


元々の好みからしたら、あたしはガイ(こっち)だったんだ!

王子様系よりワイルド系? 

ちょっとイケてるおじさまとかに弱いんだ。


――でも、大丈夫。

そんなことで揺らぐほど、

あたしの気持ちは軽くない。


「――で? アレクがなんだって?」


向かった先の一つの扉を、ガイが開く。(また、仕事取られた)

中に入り、

さっさと奥の椅子に腰を下ろしたガイの前にきっちりと立って一礼。


「いちいち、そう改まらんでも」

「いえ! そういう訳には参りません」


めんどくさそうなガイに、ユーリが生真面目に返答する。


「コールター団長から、ヒューバー団長へ。

確かにお渡しいたします。詳細は中に」


大事に懐へしまいこんでいた封書を差し出す。

おもむろに受け取って封を切り、

中の紙を取り出して読んでいくガイの眉が一瞬だけ動く。


「――で?」


――で?

って、あなた…


「お返事を、いただいてこいとの事です」

「……お前、この中身、知ってるのか?」

「わたしは存じ上げません。ただ、お返事を…と」


あれ?

なにかな? 

ガイってば凄く真面目な顔…

でもね、実際この子、手紙の中身なんて知らないしーー


いや、これ知らなくて正解なのではないですか…? 


ふう…と、ガイが大きな息を吐きだして。


「面倒ごとを言いやがる。

……坊主。ユーリと言ったか? 一緒に来い」

「え?」

やつと直接話した方が早そうだ。今日、奴は居るのか?」


奴って…

それってアレクの事だよね。


「はい。今日は午後から隊舎におられるとお聞きしています」


だから、返事もらって来いって言われたの。


「こっちも色々聞きたいことが出てきたな。俺はこの後、どうとでもなる。

返事が歩いて行ってやるよ。案内しろ」


案内って… 

一緒に、来るって事ですか?


「で、でも! 自分は歩きですし!」

「馬には乗れるんだろうが」

「ハ、ハイ! しかし…」

「こっちの一頭貸してやる。一緒に乗ってこい」

「はい?」

「一応着換えるから、先に厩に行って鞍を置いておけ。

案内はさせる」


えっと、あの… 

なんか、変なこと言ってませんか? ガイさん。

一緒に乗って…って、乗馬? 

また乗馬ですか?


「あの! 一緒にって… ヒューバー団長と、ですか…?」

「他に誰がいる」


そんな、いかにも当然みたいに言わないで。

え、まじなの? 

マジですか?

馬って軽く言うけれど、


ここの馬だって、そんじょそこらの駄馬じゃないでしょーが!

また、不相応な名馬に乗るの?!


「あの! わ、私は歩いてまいりますから!

ぜひ先に行かれてください!」


高級外車に、初心者が、またまた続けて乗るなんて~!


まだまだユーリは半人前。

また、なんか言われちゃうじゃないか。

部屋を出て行きかけていたガイが、ユーリのその言葉に振り返る。


「返事を持って帰らなきゃならないんだろ? 

俺が返事。一緒に行かなきゃ意味がないだろうが」


いや、それは余りに正論ですが。


「でも!」

「それに…」


一瞬、わざとの様にガイは言葉を溜める。


……あれ? 

なんか企んでる? 

目が変なふうに光って見えるのは気のせいですか…? 


「第一騎士団の団長様の馬に比べたら、ここの馬なんて大したもんじゃねぇよ。

そんなにかしこまるなって」


「……!!」


――なんで、あんたが知ってんだ!


五日前の遠乗り―――知ってるね、知ってるよね!

ニヤッ…と笑ったね、今!


「じゃあな。着替えたらすぐ行く」


先行ってろ。

気軽に言ってくれちゃうわよね! ガイってば!

どうすんのよ! この子――ユーリが、パニック起こしちゃったじゃない!


子どもを大人が、

からかっちゃいけないんだぞ!






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