表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/19

第十四章  女同士というものはー1


さて、とりあえず。


「とりあえず、ビール!」


居酒屋でのこの第一声は、もはや定番ではないだろうか。

そこに突っ込みを入れてくるのは、

今日初めて一緒に飲む羽目になった元同級生。


「それはビールに対して失礼でしょう? 

ビールであれ何であれ、好きで呑んであげなきゃ失礼ってもんじゃないの?」

「じゃあ、あんたはなんにすんのよ」

「とりあえず、ビール」

「同じかい!」


いや、こんな所でノリツッコミをしている場合じゃないのだが。


深山さんの宣言通り、

残業を回避させられたあたしを関係者出入り口で待ち伏せし、

さっさとここへ連れ込んだお姉さん、

いまいち状況に適応しきれていないあたしをしりめに、

メニューを思いっきり卓に広げて吟味に入る。


「焼き鳥と~ 枝豆と~ 唐揚げ… あんたは?」

「焼き鳥追加。揚げ出しに煮付け――今日は何?」

「石鯛って書いてある」

「じゃあ、それ」


こんな時に出る女同士の軽いノリは、

たとえ親しくなくっても果たして一緒なるのかね?


まあはなっから、猫なんて捨ててかかる気まんまんだ。

もしかして、そっちも同じつもりかな?


「……しっかし、あんた…その格好…」


小汚いとは言わないが、結構年代じみている居酒屋のカウンター。

ジーンズにシャツのあたしの横だけ、

なんで、どこぞのエロゲーになってんの?


ぴっちぴちの、スタイルを思いっきり強調している

お洋服をお召しになったお姉さん。

エロ川こと、

平川…――なんて言ったっけ…?

いかんいかん――またしても、名前、覚えてねえ。


これは本当に直したいあたしの欠点の第一位。

とにかく顔覚えが悪いんだ、あたしは。


剛史敵前逃亡事件(?)は今日の昼休み。

このミニスカートのおねーさんに確保され、ここへ連行されてきた。

また晩御飯ドタキャンか?

さっきかろうじてLineだけは打っといたけど、

またおふくろさんの愚痴を聞かなきゃならんかね。 

愛用のバイクちゃんは、またまた病院に放置確定。


ここまで来て、呑まずになんていられるか!


――明日、どうすっかな。

こうなったら、歩きかな。

この頃、妙にこのパターンが多くない? 


「――なによ。なんか文句ある?」


思わず恨めしげに隣見て、

溜息を一つ付いて見せれば、すかさずつっけんどんな言葉が降ってくる。


おお。反応は鈍くないね、おねーさん。


「いえ、文句なんて述べるつもりはないですが、周りの視線が痛くない?」


庶民感いっぱいのカウンターに、妙齢の色っぽい女が一人。

――奴らの眼中にあたしが入ってない事を、きっぱり断言をしてやろう。


「有名税よ、有名税」


スタイルが良過ぎるのも困ったものね~


――うわ~~~っ! 


そんな事言いながら、

足、組みかえるな! 足! 


下着をちゃんと着けてても、思わずドキッとするでしょう?!


昔、こーゆー映画なかったっけ? 

あの女優たしかノーパンだったって評判に――

いやいや、そこじゃ、そこじゃない! 


女のあたしでも、思わず赤面するような、

仕草をするな、ばかものが。


――ううう… やっぱり早まった…


綺麗なおねーさんも、色っぽいお姉さんも、大好きだ。


だけどあくまで、見てる分。

遠くから拝謁するくらいがちょうどいい。

こんな間近で真横になんぞ、

来ていただかなくて結構です!


「……んで、なに?」

「は?」

「わざわざあたしを連れ出したって事は、それなりな用事がおありでしょ?」


こうなりゃさっさと用件を、

すませておさらばいたしましょう。


「あら、わかる?」

「そのくらいはあからさま。――して、何の御用ですか? エロ川さん」

「…ちょっと待って、その前に。

呼び方をどうにかしなさいよ。不愉快だわ」

「え? 呼び方って…エロ川?」

「そう!それ!そのあだ名!そんな呼び方されて喜ぶ女がいるとでも?!」


あら、それは確かにそうだけど。


「そのお姿でおっしゃられても、説得力ってもんがねぇ…」

「失礼ね!かえすがえすも失礼ね! まったくなによ!ゆりの分際で!」

「ちょっと待て。分際ってなんだ?分際って。

いきなり呼び捨てくらうよな、覚えはこれっぽっちもありませんが」

「呼び捨てが何よ! 呼び捨てが!

大体あんた、昔から『ゆり』って呼ばれてたじゃない!」

「それは、極々親しい奴らだけ。

あんたに、呼び捨ての許可を出した覚えはありません」


あたしは基本、自分の名前、呼ばれんのは好きくない。


「あたしだって、おんなじよ!」 


そのあだな、すっごいむかつく!


声音の忌々しさに少し驚く。

確かにそれほど親しくはなかったが、

このあだ名を本気で嫌がってたとの印象が、あたしに無い。


「…もしかして、ほんとはすんごく嫌だった?」

「もしかしなくても、いやだった」

「…そんな風に、お見受けしなかったんだけど…」

「普通に考えて、『エロ川』なんて呼ばれて喜ぶ女の子がいると思う?」

「…思いません」

「だったら、わかるでしょ!」


すごくすごく、いやだった。

本気の声音が耳に刺さる。

まずいな。配慮に欠けちまったか。


「でも、あったり前の様によばれてませんでしたかね…?」。

「あれはね、開き直りよ。開き直り! 何しろ、このナイスバディでしょ? 

制服着てても目立っちゃうし、隠そうと思うと、かえってバランス崩れんの。

変にいやらしいエロになっちゃうの!」 


だから、開き直ったの。


「開き直ると、健康的なエロになんのよ。

その方がまだまし、建設的ってもんでしょ」


――いや、傍から見たら、

しっかりその方面で自己主張してるように見えたけど。


なにしろ、あんたがいるだけで男子は目の色変えるし、

女子は…まあ、なんだ。

近付こうともしないわな。



――そうか。確かに嫌だよな。


今考えると、それは愉快なことじゃない。

その中で開き直って生きてきたのか、すごいな、あんた。

実に称賛に値する。

かなり性根が座ってる。

自然に頭が下がります。


「知らなかったとはいえ、まことに申し訳ない事をした。

今後はしっかり善処させていただこう。

――んで、どうお呼びすれば良いのかね?」

「…名字でいいじゃない」

「名字ねぇ~ エ…もとい、平川…さん?でいいのかな?」

「…なんで、そこ、疑問形なのよ…」

「だって、今までの口の慣れってもんがあるからさ。

どうしてもエ…平川さんってつまっちゃうんだよ」


あはは~… なんて、笑ってごまかしてしまおう。

悪いけどあたし、これからも、エ…で詰まる。断言できる。


「ああもう、わかったわよ! じゃあ、名前! 名前で呼んで!」

「名前?」

「そう。そうしたら、混同しないでしょ?」

「……ちなみにお名前は、何とおっしゃいましたっけ…?」


なんで、あたしのハードル上げんの?


「忘れたの? 今日の話よ、忘れたの? 忘れたのね!?」

「…すみません…忘れました…」

「まゆみ! 平川真由美! 

まは真実の真に、ゆは自由の由!みは美しいの美、よ! わかった!?」

「わ、わかった――ま、真由美さん、で良いのかな?『さん』付けいる?」

「そこは結構。同級だしね、呼び捨てで良いわ」


ありがたく思いなさい!


つん!と顔をそっぽ向けるエロ川…もとい、真由美の顔は――


あれれ…少し赤い。

え? 照れてる?

名前呼ぶだけで照れるって… 

ほんとはめっちゃ可愛い性格してるとか…


「んじゃ、あたしも有里。有里で良いよ。有り無しの有りに、里と書いて有里」

「え?」

「一方通行じゃ、申し訳ないしね。そんじゃ、これからよろしくね、真由美」

「…こちらこそ…」


もごもごもご…と、何か呟いているのが気にはなったが。

まだまだ赤みが取れてないほっぺたを、

見てたら何だか笑いたくなってきた。


「…何笑ってんのよ…」

「いや~別に」


これは楽しい誤算かも。


「――ともかく! 話戻すわよ! あたしが聞きたいのはね!」

「あ、ちょっと待て。飯が来た。ああ、すみません。おにぎりも追加で二つ。

――とりあえず、食べていい?」

「あ、あのね!」

「腹が減ってはなんとやら。きちんと話は聞くからさ~ 

あたし、お腹減ってると、聞いたことすっかり忘れちゃったりすんのよね。

まずは腹ごしらえ…OK?」

「…おーけー…」


うんうん、うんうん、いい子だね~


聞きわけの良い子は、大好きよ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ