表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/21

第十一章  何かと毎日起こりますー1


――う~ん…


考えてもしかたない事って、あるよね。


――う~~ん……


でも、どうしたって考えてしまう事だって、あって。


「う~~~ん………」


お昼休み。既に昼食は食べ終わってる。

この時間、事務室で机に向かって頬づえを付いて、

考え込むようなあたしじゃないんだけど。



昼休み、それはここでは概念でしかない。

我々は時間に対して、非常にアバウトにならざるをえない。


なぜなら、ここが病院だから。


普通の会社ならきっと、

十二時になったらすぐに、昼休みを取るのだろう。

しかし、病院――基本的に昼休みも昼ごはんも、

取れる時に取る、食べれる者から食べるのが当たり前。

時間ぴったりに『さあ、皆で仲良くお昼!』なんて、最初から論外。

特に外来と救急は、本当に凄まじい。

体力気力精神力のデスゲーム?――ってたまに思う。


あたしのいる栄養室は、

ありがたいことに上記の二つほどの緊急性は元から無い。


それでも事務室ここは職場の最前線。

お昼休憩だって、誰かにつかまったら最後、

急に入った仕事やら、いきなりの欠員の補充やら、

否応なくそのまま午後にもつれ込むのが実情で。


しっかりお昼休みを取りたかったら、

物理的に距離をとる――という、選択肢しかありえない。


まあ、うまく回避しても、その分後にずれ込んで、

残業確定という憂き目にあうこともざらじゃない。


目に入ったら猫でも使え――いや、これ本当にマジだから。


そんな事情があるもので、

いつもだったら近所のショップモールとか、

公園とかに逃げ出しちゃったりしてるんだけど。


今日はなんだか、考える事が多過ぎて、体を動かす気がしない。


ああ… コンビニの新作スイーツ今日からだっけ…

すぐ売り切れるんだよね… 

帰りで間に合うかなぁ…


ぐだぐだと未練がましく思いながらも、

お尻をペタンと椅子に下ろしたまま動かない。


原因は、一つ。

間違いなくこの前見た夢。

それが原因。


一週間ばかり前に見た夢は、アレクが思いっきり出ずっぱりで、

それはそれは満足感満載のものであったはず。

アレクだけでなく、おまけのようにガイまでも。


あっちの世界での二大イケメンそろい踏みだったんだ。

これは間違いなく、その後一、二週間、

それだけでご飯が美味しい夢ライフ!――なのに。


その最後。

目覚める前に見た景色。


アレクの婚約者を目の当たりにした衝撃もさることながら。


――あれは、なに?


あたしが見てしまったミルヴァーナ姫の視線の先。

アレクの婚約者として見たはずの、姫の視線の微かな色。


――だめ、だよ。


わかるから。


あたしにはその意味が、こわいぐらいにわかるから。


だから、だめ。

それを、認めちゃいけない。


だって、婚約者だよ?


アレクの、婚約者なんだよ?

あの、恐ろしいまでにイケメンの、

男としても結婚相手としてもこれ以上ない完璧な、


アレクの、婚約者なんだよ、あなたは!


金と銀。

青と紫。

一対の、理想が作り上げた様な完璧なカップルだったじゃない。


おとぎ話の王子様とお姫様、

二人は結婚して幸せに暮らしました。


それで、完結。

そうでしょう?

こんなにもアレクが好きなあたしでさえ、

「ああ、かなわないな…」と、おもったのに。


ガイに惹かれる気持ちがわからない訳じゃない。 

アレクさえいなかったら、あたしも夢中になっていた。


でも、だからこそ。

それは、きっと、あってはいけない。


なのに、あの眼。

あの眼差し。

――どうしてあなたが、そんな目をするの。


口に出せない。

言葉にして形にしてしまったら、

崩壊する。


――ガイ…


ガイも変だ。

気さくで、微笑ましいぐらいに自由に振る舞うあの人が。

いくら王族相手でも、あれほど謙るなんてらしくない。

絶対に合わせなかった視線。

堅苦しい口調。

距離を感じさせる仕草。


――まさ、か…


考えちゃいけない。

きっとこれ以上、あたしは考えちゃいけないんだ。


あの後も、ユーリの世界は平穏に流れている。

ガイにも、そしてアレクにもその後は会えていないけど。


それでいい。

それがいい。


あたしがどれだけ悩んでも、あたしは何もできはしない。

あたしはいつも見てるだけ。

ただの傍観者でしかない。



「――どうしたの~? 元気ないねぇ、神戸ちゃん」

「ああ、深山さん…」


ポン!と手にしたプリントを丸めて、深山さんがあたしの頭を軽く叩く。

どうでもいいけどあたしの周り、

あたしの頭を、太鼓かなんかと間違えてる人が多くない?

いや、深山さんのこれは、決して痛くないからいいけどね。


「神戸ちゃんが元気ないと、なんとも空気が重くてね~ 

どしたの? 具合でも悪い?」

「…具合の悪い人間は、お昼、完食しませんって」


深山さん、一緒に食べたじゃないですか。

今日は久しぶりのカレー。

美味しかったです、ごちそうさま。 


「それにしては溜息が多い。神戸ちゃんらしくない」


いや、確かにそーなんですが。


「もしかしたら――突発性のはやりやまい?」

「違いますっ!」


なんですか、その突発性のはやり病って。


「ここは仮にも病院ですよ。

そんなけったいなものが出たら、保健所行きまっしぐらじゃないですか」

「あら、保健所に関係のないはやり病だってあるじゃない」

「は?」

「思いっきり突発で、人を選ばない――ずばり、恋」

「――へ?」

「だ~から、恋の病!――当たり、でしょ?」

「違います」


いえ、当たらずとも遠からず、ではありますが。


「ええ~っ 違うの? 絶対絶対そうだと思ったのに。

やっとやっと、神戸ちゃんにも春が来たと思ってたのに~」

「深山さん…」


頼みますから、

両手を胸のあたりで握り締めて、力説しないでくださいませ。

あなた、おいくつでしたっけ?


「残念ながら、今回は違います」

「今回はって、いつのはそうなの?」

「何時のって、それは… ――! み、深山さん!」


誘導尋問ですか!?


「あら残念… もう少しで引っかかってくれそうだったのに」


けらけらと笑いながらいうことですか、それが。

いつまでも、茶目っ毛を失わないのは深山さんの良い所だが。


頼みます。

あたしでは遊ばないでくださいませ。


「でも、本当に変よ、あなた」


なんかあったの?


あたしと向かい合わせ。

自分の椅子に腰をおろしながら真面目な顔で尋ねてくるのは、

いつもの落ち着いた上司の顔で。


「いえ。もう、考えてもどうしようもない事だって、わかったんで」


すみません。ご心配かけました。


ぺこりと頭を下げてみる。


ふざけてるなってわかる時は、友達みたいにしてあしらえるけど、

こんな風にしっかりと年上の立場で来られると、どうしたって敵わない。


ダメダメじゃんか。あたしって。

どうでも良いとは言わないが、

どうしようもない事で上司にご心配をお掛けするなど、

本当に不甲斐ない。


よし、もう、悩まない。

当たって砕けるつもりはないが、成り行きを見守っていくしかない。


考えない。

もう、これ以上考えない。


どうせ関る事など出来ないから、

楽しい事――アレクに会えることだけ考えよう。

そうだ、そうしよう。



――よ~し! もう、絶対考えたりなんかしないぞ!



「…ねぇ、神戸ちゃん」

「はい?」

「もしかして、山本先生にふられた?」


心密かに決意を固めたあたしのさまを、

どう受け取ったのか深山さんから爆弾一つ。


――は………?


「いや、間違えた。山本先生をふっちゃった?」

「はあ?」


なんか、幻聴を、聞いたように思うのですが…


「え?違うの? てっきり、そうじゃないかと思ったんだけど」


えっと、誰が? 

誰をフるとおっしゃいました…?


「――あ、あ、ありえないでしょう!!」


って言うか!


「何でそこで、剛史の名前が出るんですか!」

「え? だって。なんでそれをあたしに聞くの?」

「だから、あなたに聞かないで、誰に聞くんです、この場合!」


あたしが剛史をフるって、なに?


いや待て、その前がある。


あたしが、剛史に、フラれるってか!


「それは! あまりにも! あたしに! 失礼でしょう!」


なんで、あたしがフラれにゃならん!


「だって、仲いいじゃないの」

「あれのどこが!」


一方的に、ケンカ売ってくるのは剛史の方だ。

あたしがそれを、正当防衛で返して何が悪い。


「あたしと奴の間には、これっぽっちもそんな関係はございません!」


そこだけは、しっかり、拳握りしめて、思いっきり、宣言。


目をぱちくりさせた深山さんの瞳が、やがてふわっと微笑みに溶けて。


「…若いなぁ…」

「は…?」

「うんうん。若いって良いねぇ…」

「へ…?」


いきなり手を伸ばして、机越しに頭を撫でられる。


――あ… こんなの久しぶり…


そう言えば、あたしはこんな風にされた事なかったなぁ…


「そんなとこが神戸ちゃんの良いとこだけど。でも…」


大事な事を、見落とさないでね。



そう言った深山さんの顔は、なぜかすごく真面目な顔で。


「大事なこと……?」


上目使いに尋ねてみても、深山さんはただ微笑んでいるだけで。


これはもう、何も教えてくれない合図。



なんだかなぁ… 意味深過ぎて。


あたしの正解は、なんですか…?





――と、その時、廊下の方から物音が。


パタパタパタパタ…

えっと、これって病院指定の上履きの音だよね。

非常時以外、廊下は走るなって院長のお達しが出てるのに、

誰だよ一体。


と、思う間もなく、

バタン!と、強く事務室の扉が開けられて。


「「え?」」


思わず、深山さんとハモってしまった。

飛び込んできたのはさっきから

話のネタになっている山本センセ、その人。


えっと、こういうのって、なんて言うんだったっけ?


「頼む! 有里! かくまえ!」

「はあ!?」


そうだ。


『噂をすれば、影』





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ