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【第一章】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!   作者: カナタカエデ
第一章

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五話 家族

城門をくぐると、石畳の道の両脇には色鮮やかな布を吊るした露店や、焼き菓子を並べる屋台が立ち並んでいた。

香ばしい匂いに釣られて子どもたちが駆け寄り、商人は景気のよい声を張り上げる。

行き交う人々のざわめきに混じって、遠くから楽師の奏でる笛の音がかすかに響いてきた。


「賑やかですね」

アメリアは目を輝かせ、懐かしい景色に心を弾ませた。

隣を歩くヴァルクはといえば、相変わらず人混みを警戒するように目を光らせ、楽しむどころではなさそうだ。


「それで、どこに行きたいんだ?」


ヴァルクの問いに待ってましたとばかりに前に出る。


「良い鍛冶屋を知っています。きっとヴァルも気にいるわ!案内するから着いて来て。」


小走りで走るアメリアにヴァルクは困ったようについていく。その手はしっかりと握られたまま、二人は大通りを抜け、やがて喧騒の少ない裏通りへと入って行った。


その場所が近づくに連れ、アメリアの胸は早鐘を打っていた。

良い鍛冶屋とは言ったものの、実際のところはよく知らない。

ただ、そこは幼い頃に暮らした場所で、カリナの父がいるはずだった。

鍛治職人としては、国王から勲章を貰ったこともあるはずの人。腕は確かだが、ギャンブル好きでいつもお金が足りないと母は文句ばかりだった。そんな父だったからカリナは10歳で奉公に出され、家計の担い手の1人にされた。

自分に対しての愛情は少なかったが、それでも会えるとなると不思議と嬉しい気持ちは抑えられなかった。


曲がり角を曲がり、鍛冶屋が見えるとヴァルクが立ち止まった。


「あそこの主人には世話になっている。ちょうど俺の剣も今預けてあるはずだ。」


「え・・・?」


思わず足を止めたアメリアの胸に、驚きと困惑が走る。

家族と生活したのは10歳までだったからヴァルクが父と接点があったなんて知らなかった。


「ついでだから、剣を受け取っても良いか?」


「えっええ、それはもちろん!」



ふたりが店に入るとカウンターには小さな少年が座っていた。


「とおちゃーーーん、お客さんだよ!」


小さなその子が一番下の弟だとすぐに気づくと胸の奥からグッと込み上げるものがあった。


「ったく、お前はもう少し礼儀正しく声をかけられないのか。」


鍛冶職人の父は、カリナの記憶より若々しかった。ヴァルクに気づく、頭に巻いていたタオルを取り、頭を下げた。


「ストーン伯爵!これは、わざわざいらしてくださったんですか!」


「急にすまない。2日前に部下が剣を届けたと思うがもう研ぎ終わってるか?」


「もちろんです!何があろうと伯爵の剣は最優先ですから。」


刀身が長い黒い剣を持ってくると、カウンターに置いた。

漆黒の剣は、鏡のように映るほど磨かれていて、吸い込まれそうに美しかった。


「凄い…」


思わず漏れた声を聞きつけた少年と目があった。


「だろっ!ねえちゃんわかってるなぁ!とおちゃんの研ぐ剣は最高なんだ!」


「ええ、そうね」


「お前なぁ、恥ずかしいこと言うんじゃねぇ。」


パチンと軽く頭を小突くと、嬉しそうに笑い合っている。

驚いた。家族と暮らしたのは10歳までだったから一番下の弟と父との関係がこんな親子らしいものだとは思わなかった。


ーーー羨ましい。


幼い自分はいつも弟たちの世話に追われて、最後は父の借金のために、奉公に出されたから、親から受けた愛情など殆ど記憶に残っていない。


「仲が…良いんですね。ご兄弟はいるんですか?」


「えっとねぇ、兄ちゃんがふたりいるよ!

今学校でいないけど。」


「うちは3兄弟なんですよ。男ばっかり、うるせえもんです。」


3兄弟…弟たちの人数は合っている。だけどやっぱりカリナはいないのだ。

わかっていたはずなのに……きっと、いたらいたで複雑な気持ちになったはずなのに、胸の真ん中に大きな穴が開いたように息が出来なかった。

私はーーー


ーーーーカリナはもういない。





「伯爵、せっかくいらしたんです!ぜひ試し切りをしてください。」


「いや、だが・・・」


ちらりとこちらをみたヴァルクに気づかれまいと、にこりと微笑む。


「どうぞ、私はここでお待ちしています。」


やったー!とぴょんぴょん跳ねる弟に連れられ、ヴァルクは奥の部屋へと連れて行かれた。


鍛冶屋の中を見渡すと、小さな写真が飾られていた。

父が王から勲章を戴いた時のものだ。

あのときはまだ私も小さく、この場所の2階で家族で暮らしていた。

小さな男の子がふたりと赤ちゃんを抱いた母、そして父が勲章を右手でしっかりと持ち左手は母の腰に回されている。とても良い家族写真だ。



「……私なんて、最初から存在しなかったのね」



そう思った瞬間、視界が揺らぎ、気づけば足は勝手に外へ駆け出していた。



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