天台宗延暦寺 十九
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「おはようございます、栄神静夜殿。昨夜は遅くまで捜索にご尽力いただいたそうで、感謝の念に堪えません。誠にありがとうございます」
延暦寺寺務所の会議室へ通された私達は、昨夜に引き続き宗務総長と顔を合わせた。
会議室には、宗務総長と東塔エリアの大執行である行澄。そして初めて会う女性が同席していた。
とても狼狽している様子で、深く俯いている。
「おはようございます。いえ、これも我々の業務の一つですから、むしろ捜索に率先してご協力いただいた僧の方々に感謝しております。あの、失礼ですが、そちらの方は?」
私が、女性を見ると、行澄が口を開いた。
「栄神殿、寛大なお言葉に感謝致します。こちらは栄神殿が昨日訪れた茶屋の店主を務めております、神谷紀子と申します。私の娘でもあります。このように紀子も、竜胆の現在おかれた状況をを聞き、大変ショックを受けておりまして……」
なるほど、そういうことか。どの程度の仲だったのかは計り知れないが、あの狼狽っぷりを見るかぎり。
とても親密な関係だったのだろうと推測できる。彼女の父親である行澄からも溺愛されていたしな。
そんな二人を裏切ってまで、復讐を成し遂げたかった彼女の思いの深さに、今更ながら恐怖を感じる。
「そうですか、では神谷紀子さん。少し酷でしょうが、いくつか質問させてください。彼女を庇いたいお気持ちもあると思いますが、これ以上彼女を悪事に手を染めさせないためにも、ご協力をお願いします」
私の言葉に、彼女は顔を上げると、真剣な表情で頷いた。
「はい。私にお答えできることであれば、なんでもお答えします。早くりんちゃんを助けてあげてください……」
そう答える彼女の目には、再び大粒の涙が溜まりはじめていた。
私は頷くと、いくつかの質問をした。
「昨日の竜胆さんの行動で、不自然な動きはありましたか?」
「はい、午後の二時を過ぎたあたりからです。急にあわてた様子で、全く落ち着きがありませんでした。閉店後の片付けをしているときに、どうしたのか尋ねたのですが、季節の変わり目で少し体調を崩しただけだと言っていました。その時には、もう落ち着きを取り戻しているようでした」
質問は続く。私は千草に指示して、数枚の顔写真を彼女の前に並べてもらう。
昨夜捜索を行い、逃走したと見られる学員の顔写真である。
「この中に、見覚えのある人物はいますか?」
彼女は、それぞれの写真をじっくり眺めてから答えた。
「はい、皆さんよく覚えています。とても誠意的な方々です。店が忙しい時は、たまに裏手の作業を手伝ってもらっていました。自ら率先してして手伝ってくれる方ばかりでした」
彼女の言葉に、素直に少し驚いてしまった。
竜胆然り、逃走した学員たちは、研究以外の事に関しては、比較的人道的な人物達なのかもしれない。
だが、逆に言えば研究のためなら何でもする人物とも言える。非常に危険だ。
「この中に、個人的に親交がある人物はいますか?」
私の質問に、彼女は一枚の写真を持ち上げると、千草に写真を渡した。
「この佐伯陽一君は、私が暮らしている伏見の自宅の近所にある酒蔵の一人息子です。私の娘の幼馴染ということもあり、彼が小さい頃からよく知っています」
「!?」
「千草さん、この人物の身分証明は?」
私の言葉に、千草が資料を確認する。
「偽装の身分証明書となっています。五年前の出家時の情報では、本籍地と現住所ともに、京都市上京区となっています」
なるほど、身分所を偽装してまで出家したが、ご近所さんにバレたってとこか。
まぁ一度出家してしまえば、過去のあれこれを詮索されることはないだろうから、あまり関係ないのかも知れない。
だが、一度こちらは訪れる必要があるな。少しでも家族からの情報がほしい。
「ありがとうございます。非常に有益な情報を得ることができました。またご協力いただくかもしれませんが、その時はお願いします」
「はい……、あの、陽一君も犯罪者なのですか? 彼はそんな事できる子じゃありません。きっと何か事情があるはずです」
彼女の顔が再び曇る。無理もない。
昔から見知る娘の幼馴染が、犯罪者として追われることになったのだ。
とても気が気でないのは理解できる。
「そうですね。まずはその事情を聞くためにも、彼らの動きを掴む必要があります。宗務総長、今後の調査において、密に情報の共有をしていきたいと思っています。情報の暗号化も必要な為、しばらく我々鬼霊対策室の通信士を、こちらへ出向させてもよろしいでしょうか?」
宗務総長は、迷うこともなく即座に頷いた。
「ええ、もちろんです。今回の件が落ち着くまでは、寺務所内に対策室専用の部屋をご用意致しましょう。宿坊にも何部屋か対策室専用に部屋を用意します。そして、ドライブウェイの車両の二十四時間通行も許可致します」
「ありがとうございます。非常に助かります。大社と天台宗、古くからのしがらみはあると思いますが、今は協力していきましょう」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




