天台宗延暦寺 十七
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「ははっ。やっぱりあんたも学ラン姿なんやな。それ変装なんか? いやだたのコスプレか。ほんま笑わせてくれるやんか」
武田理人と名乗る顕一学舎の学員が、笑いながら私を見ていた。
見た目二十代後半の、頭を丸めた袈裟姿の男性。
顕一学舎の東ノ六言の一人といって言っていたが、どういう意味なのだろうか?
所属するグループかなにかか? 東があるということは西や北などもあるのか?
こいつが、岩手の渡りの騒動の一連の首謀者であることは間違いないだろう。
まだ若いくせに、よくもまぁここまでの事ができたものだと、逆に感心してしまう。
見たところ、すぐに逃げ出すような素振りは見せていない。
念の為、紅にすぐに縛れる準備だけはしておくように指示を出しておく。
生身の人間に試したことはないが、私の腕を縛れるのだから大丈夫だろう。
「武田君。君が、岩手の渡りを起こした主犯というこでいいのかな? 顕一学舎とはいつもこんな馬鹿なことを繰り返している機関なのか?」
私の質問に、理人はため息をついて呆れたように首を横に振った。
「己の名乗りもなしかい、はぁ……礼儀ができてへんなぁ。ホンマに統括室長なんかぁ? 上に立つ人間は世渡りうまないとやっていかれへんでぇ? まぁええわ。質問には答えたろ。ワイが今回の岩手で起こった渡りの首謀者であるのは間違いない。延暦寺の窃盗を含めてな」
理人の挑発にイライラしながらも、彼の口から出た言葉に、ようやく確信を得ることができた。
これで、日本中で鬼を増殖させている犯人も、顕一学舎であることが、必然的に絞り込まれた。
こいつを捕らえて鬼を増殖させている原因さえ掴めれば、被害は確実に抑えることができるはずだ。
「あと補足しとくけどな、顕一学舎の学員は、礎にある根本的な理念は同じやけど、六言に属しているやつは皆独自の考えで動いとるから、ワイを顕一学舎とイコールで考えへんほうがええで。まぁ成果の為なら、犠牲や損害を顧みないのは、皆あんま変わらへんけどな」
とんでもない事をいっている理人を尻目に、竜胆に視線を向ける。
彼女は、すっと視線を下げて俯いたまま動かない。
行澄の言葉にも動かなかったあたりを見ると、このまま理人と延暦寺を離れるつもりなのだろうか?
「御託はもういいです。当然あなたはこのまま捕まるつもりはないのでしょう。どうするつもりですか? 援軍を呼んでいるのですか? こちらとしてはとりあえずあなただけでも捕らえることができればいいんですけど」
私の言葉に、理人は鼻で笑うと懐から数珠を取り出す。
「あたりまえや、今回はあんさんに挨拶するために待ってあげてたんやで? 感謝してほしいわほんま。栄神静夜、今回は挨拶だけやけど、これから会うことも増えるやろ。あんじょう頼むわ。最後に、自分ら気づいてんのか? ここワイの結界内やで」
理人が数珠を持った手で印を結び、術式を発動した。
「黒界解地」
その瞬間、周囲が真っ暗に染まり、一切何も見えなくなる。
「紅っ!、捕らえろ!!」
「おにいっ! 無理だよ! 相手が全く捕捉できないっ」
「くそっ!」
この黒い結界、見覚えがある。
渡りで丙が仏杭を破壊した際に発生した、黒いボール状の結界領域に酷似している。
手の届く距離にいた周りにいるはずの、千草や爺さんの気配すら感じない。どうなっている?
「白、この結界破れへんか?」
私の問い掛けに白は。
「申し訳ありません、この黒い空間、内部の霊相を吸収しています。もし栄神の霊相をあの者が吸収すれば、解析され悪用されかねません。ここは一旦待機すべきかと」
「吸収される前に、破壊できれば問題ない」
「範囲が広すぎます、破壊には数十秒必要です、それだけあれば相手は逃げおうせるでしょう」
「…………」
くそっ、いつもこうだ。結局相手の思い通りに転がされている。
相手のほうが、私より何枚も上手なのが痛いほど身に染みる。
対峙した時点で、拘束してしまえばよかったのに、相手の言葉にまんまと流された。
己の甘さに、ほとほと自分が嫌になる。くそ。
「結界を破ろうとせんのは賢い選択やな。こちらとしては栄神の霊相を大量に調達できるええチャンスやったんやけど」
私の耳元で理人の声が響いた。
声の方向を振り向くが、そこには闇が広がるばかりだった。
気配は一切感じないのに、彼の声は続いた。
「優秀な式神で何よりやな、ぜひ一度研究させてもらいたいもんやわ。今回はバイバイやけど、ワイはあんさんに興味があるから、また近い内に会うことになるわ。置き土産になるかわからへんけど、ひとつだけ教えといたるわ。太宰府の襲撃の件やけど、あれは西ノ六言の李範鬼の仕業や。ほなな」
そう言うと、理人の声が聞こえなくなる。
西ノ六言、とういうことはやはり、あれも顕一学舎の仕業で間違いないということだ。
それから十数秒後、結界が消えた。そこには、理人と竜胆の姿のみが消えていた。
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




