鬼霊対策室 二
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
「……っ!!」
ん? 室長?
「食べた? 食べたって、鬼を食べたんですか? 何かの比喩ですか?」
なんてゲテモノ食いなんですか……YouTuberもびっくりですよ。
そもそも鬼を食べる? そんなことが可能なのでしょうか?
本来、鬼というのは人の悪意や怨霊の集合体から生まれる怪異そのものとされています。
それを“食べる”という表現が、正直なところ理解できません。
鬼が鬼を喰らう、という話は聞いたことがあります。
ですが、人間が鬼を喰らうなんて……
「にわかには信じがたいけどなぁ」……ですよね。
「白井」
「はい?」
天鳳室長が神妙な顔つきで、先の情報を促してきます。
「そいつの名前は?」
室長の肩が、微かに震えているように見えます。
明らかにいつもと様子が違いますね……緊張している?
白井さんが報告書の調書を確認し、男性の詳細を読み上げます。
「えー、柿本司。三十九歳。職業は……在宅でエンジニアをしているそうです」
少し間がありましたね。
フリーのエンジニアなら在宅勤務も珍しくないと思いますが。
「他は?」
室長の声がピリピリしていて、空気が張り詰めています。
白井さんは「えーっと」と言いながら、報告書以外の資料を開き、追加情報を探します。
「あっ」
ん?
「どないした?」
室長と私が、白井さんに視線を向けて先を促します。
「濱元さんが合ってたわ。この人、やっぱり同業者ですね。追加資料の方に、流名のような名前が書いてます」
白井さんは資料を見つめ、首をかしげます。
「ただカタカナやし、見たことない名です。……しかし、なんでカタカナ? 流名を隠したかった?」
いや、隠したかったら流名自体教えないと思いますが……もしかしてテンパってたのでは?
でも、やっぱり未所属の祓い屋でしたか。今でも大社に未所属の祓い屋がいるんですね。
現代では、祓い屋の血を引く家系は、皆大社へ登録するのが必須となっています。
「で……その流名は?」
室長が興奮気味に聞きます。
「えぇー、『エイジン シズヨ』と書いてますね」
その言葉に、バシンッと室長が机を両手で叩いて立ち上がりました。
あの……湯呑み倒れてますよ……
室長の急な反応に、対策室の皆が驚き、部屋中が静寂に包まれます。
室長の体は明らかに震えていました。どうしたのでしょう?
「エイジン? エイジン流ってことですよね?」
聞いたことない流名です。
そのとき、天鳳室長が俯き、腰に手を当てながら、肩を震わせたまま笑い始めました。
いや、怖いです……
「ははははははっ……はぁ……『栄える神』と書いて栄神、『静かな夜』と書いて静夜や……」
室長は、どうやらその男性について何かしらの情報を持っているようでした。
「栄神静夜……」
なるほど、なるほど。
「まさか静夜とはな……跡継ぎがおったんかぁ。これはいい……最高のタイミングや」
うれしそうですね。
おそらく“跡継ぎ”ということは、「栄神静夜」という流名は当主名なのでしょう。
室長が心底愉快そうに笑っています。
「白井、その栄神静夜の住所と連絡先は?」
「えー、電話番号は確認できているみたいですね。住所は大阪の枚方市とだけ」
「枚方か、近いな。それやったら白井と濱元、明日の朝一で連絡して、何か理由つけて迎えに行ってこい」
……はい? 明日の朝一ですか? 急すぎませんか?
「なんとしても車に乗せて、絶対に連れてこい」
え? 何言ってるんですか?
「理由は調書の再作成でも、感謝状の授与でもなんでもいい。そもそもほぼ無職なんやろ? 余裕や」
ほぼ無職扱いって……本人が聞いたらどんな顔するんでしょう……
「ふははははは!! 明日の対策室の再構築、とんでもないことになるぞっ」
えぇぇ……
室長は馬鹿笑いしながら部屋を出ていってしまいました。
唖然とする私と、やれやれといった感じでデスクのお茶を拭く白井さん。
なんとしても連れてこいって、拒否されたらどうすればいいんですか?
形式上、警察組織の私たちが強制的に……って、任意同行でも求めるってことですか?
「ほんと室長は大胆やねぇ」
ほんとに……
「まあ、最悪拉致になるかもなぁ。宮本君も連れて行こうか」
あなたも何言ってるんですか……
私は頭を抱えながらデスクに突っ伏して、栄神流について考えていました。
さっきまで忘れていましたが、うちの部署の資料室でその名前を見たことがあった気がします。
あとで調べてみようと思いつつ、ただ今は頭を抱えるのが最優先なのでした。はぁぁぁ……
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コツ、コツ、コツ、コツ……
廊下に高い音が響く。
「銀閣殿……必ず……」
この度は、ご覧いただきありがとうございます。花月夜と申します。
初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。