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天台宗延暦寺 十四

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。

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 ── 西塔エリア 茶屋 ──


「りんちゃん、今日はもう上がってもらっていいわよ? バスの時間も迫ってるでしょ?」


 店主であり、厨房を担当している紀子さんから声が掛かった。

 時計を確認すると、十五時半を差している。

 確かに今から店を出れば、横川行きのバスに乗る事ができる。


「今日、りんちゃん途中からなんだか様子がおかしかったけど、なにかあった? もし体調がわるいなら遠慮なく言うのよ? 車で病院に連れていってあげるから」


 紀子さんの心配してくれる優しい言葉に、少し顔を綻ばせる。

 私にとっては、本当にお母さんのような人物だ。


「いえ、大丈夫ですよ。季節の変わり目で、少し体が驚いているだけですから。では、本日はお先に失礼させて頂きます。お疲れ様でした!」


 更衣室で着替えると、私は店を出て釈迦堂の前にでる階段を下る。

 そろそろ拝観時間が終了するということもあり、観光客が各々帰路についていた。

 私もいつもは、シャトルバスで私の暮らす僧坊がある横川エリアに帰っていた。


 だが、今日は西塔エリアと横川のエリアを結ぶ参拝道から少し外れた位置にあるお堂に向かう。

 顕一学舎のメンバーが、打ち合わせ用の根城にしている小さなお堂だ。

 一時間前、鬼霊対策室の人間が現れたことを、厳生にラインで送信したら、こちらで落ち合う手筈となった。


 参拝道に入る前に、再度周りを見渡す。昼間に現れた二人の姿は確認できない。

 あの眼鏡を掛け、なぜか学生服の男性。彼に触れた瞬間に感じた霊相は、すぐに正体がわかった。

 崩玉に術式を施す際に、顕一学舎から提供された、栄神の霊相が込められた布と酷似していたからだ。


 おそらくおの人が、統括鬼霊対策室の室長の栄神静夜殿なのだろう。

 崩玉は確かに爆発したはずだったが、見た限り彼に外傷は見られなかった。

 あれが、木花咲耶姫の治癒の力なのだろうか? 実に恐ろしい能力だと思う。


 木々が茂る参拝道は、まだ日が落ちていないのに、とても薄暗かった。

 参拝道とはいっても、舗装されているわかではない。ハイキングの山道のような感じ。

 だが、随分と通り慣れた道だ。私は一人、山道を軽快に進んでゆく。


 ふと、初めて厳生と会った時のことを思い出す。

 今から五年前、すでに私は出家し、僧侶として修行に励んでいた。

 そこに、新たな見習いの僧として出家入山したのが、厳生だった。


 関西弁のキツい、自由奔放な彼だったが。

 修行に対しては非常に真面目で、着実に周りからの信頼を得ていった。

 そして彼は、出家から史上最年少に迫る早さで、「見当」の役職まで登りつめた。


 「見当」とは、延暦寺に数多存在するお堂のそれぞれの管理責任者である。

 現在、私が向かっているお堂が、厳生が見当として管理しているお堂。

 決して立派なお堂とは言えないが、歴史を感じることができる素晴らしいお堂だと思う。


「がざりっ」


 背後からの音に、体がびくりと固まる。私は後ろを振り返った。

 だが、そこには獣一つおらず、茂る木々と沈みゆく夕日だげが目に入ってきた。


「…………」


 大丈夫、近くには霊相は感じない。私は霊相感知に優れている。

 いくら霊相を抑えていても、ある程度の範囲なら探知できる。

 再度周りを見渡して、私は山道の先を急いだ。あと十五分ほどの距離。


 大分薄暗くなった山道を歩きながら、改めて自分が作成した崩玉について考える。

 はっきり言って後悔はしていない。今でも祓い屋は許せないし、憎んでいる。

 ただ、人を害しておいて、平常心でいる自分が恐ろしかった。


 厳生と出会って二年後、私は彼から曾祖父の襲撃事件についての真相を知らされた。

 曾祖父が、夜叉に襲われることを把握しておきながら、大社はそれを放置していたと。


 許せなかった。鬼たちに惨たらしくに喰われた曾祖父があまりにも不憫で仕方がなかった。

 その頃から、私は祓い屋を憎むようになった。復讐の為に、術式の研究も始めた。


 厳然が顕一学舎という、極秘の術式研究機関の学員であるということを知ったのは、その時だった。

 彼らの理念は、正直理解できなかったが、己の術式の技術の研究のためと割り切り、私は彼に近づいた。


 正学員になるには、多大な功績と論文の提出が必要であり、私は準学員として顕一学舎で研究に励んだ。

 祓い屋のことは憎かったし、いつかチャンスさえあればと考えていた。

 だが、研究に没頭していった私は、いつしか復讐の気持ちも薄らぐ程になっていた。


 それから三年の月日が過ぎた。術式の研究も順調に進んでいた。

 そんな時だった、厳生に彼が管理するお堂に呼び出されたのは。

 私は、顕一学舎からの言伝だと思い、素直に従いお堂へ向かった。


 だが、そこで厳生から出た言葉は、私の復讐心を再び再燃させてしまった。


「大社がお上をやってる鬼霊対策室が、近い内に大型の再編成を実施するらしい。これ以上祓い屋達に大きな顔されんのも腹立つやろ? 鬼の研究の邪魔やしな。竜胆、復讐したないか? 曾祖父の仇とれるで?」


この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。

当作品は、初めての執筆作品となります。

当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。

ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。

これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。

ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。


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