天台宗延暦寺 十二
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「まず、結論からいおう。双頭の夜叉は延暦寺を襲撃後、京都市内へ移動しているところを、追跡していた大社直属の高位の祓い屋達によって葬られた。こちらにも被害はでたが、死人は出ていない」
天鳳の爺さんが、腕を組んで目を閉じて語り始めた。
「延暦寺襲撃の件は、今でも本当に気の毒に思っている。当時、我々祓い屋達も大社の指示で双頭の夜叉を探していた。あの夜叉は亜種ということもあり行動も特異的でな。寺院の高位の僧のみを喰らうという特徴があった。そのため、祓い屋達は京都市内の寺院を中心に捜索を続けていた。この時、すでに二件の襲撃事件が発生していたからな」
高位の僧のみを喰らう鬼か、実に鬼らしい鬼といえるなと思う。
己の理想のみを追求する鬼、まさに夜叉の中の夜叉といってもいい存在だろう。
屠ることができたからよかったものの、対処できなければ寺院がいくつか滅んでいたかもしれない。
「しかし、最新の目撃証言から、夜叉が滋賀の比叡山の方向へ向かっているという情報が入った。祓い屋達もその情報を元に比叡山へ向かったが、真夜中という事もありドライブウェイに進入する事ができなかった。公共の交通機関もとまっていたしな。当時はまだ警察との協力関係も構築できていなかった」
なるほど、賢いな。おそらく夜叉はお盆の真夜中であれば、高位の僧は座主坊や僧坊に残ること。
そして、ルートが封鎖され、祓い屋達の邪魔が入らないことまで計算されていたのだろう。
夜叉の身体能力であえば、真夜中の比叡山を登ることなど容易やろうしな。
「いえ、あの襲撃事件に関しては、大社側には一切責任を感じる必要はございません。当時の宗務総長が、大社へ救援の要請を行うことを拒否したわけですから。言い方が悪くなりますが、自業自得と言えるでしょう」
行澄が茶をすすり、卓に置くと落ち着いた口調でそう述べた。
まぁ確かにその通りだ。それに救援を要請できたとしてもおそらく間に合わなかっただろう。
さすが高位の僧だな。しっかり物事の分別がついている。感情で動く私とは大違いやな。
「ですが、心配なのはその曾孫である竜胆なのです。この場で申し上げるのは大変無礼なのですが、彼女は祓い屋を心底憎んでおります。どこから聞いたのかはわかりませんが、彼女は曾祖父が襲撃されることがわかっていながら、大社はそれを放置していたと思い込んでおります。何度も説明し説得したのですが、この件に関しては聞く耳をもちませんでした」
そういうことか、これですべての合点が一致した。彼女も感情で動く私と同じタイプか。
竜胆という女性は、やはり黒であることは間違いないようだ。
曾祖父の仇討ちとして、誰かに誑かされ崩玉に術式を施して私に差し向けた。
だが、おそらく彼女が行ったのはそこまでだ。
仏具の盗難や夜叉の召喚、そして、岩手の渡りの件は、別の人物が動いていると考えるのが自然だろう。
彼女が、すべてに関わっているとは考えにくい。彼女はあくまでも真正の仏門の人間だ。
仏門に身をおいた人間が、そこまでできるとは思えなかった。
「あの、彼女に術式を行使する知識はありますか?」
その言葉に、行澄が少し驚いたように答える。
「ええ、もう随分と前になりますが、急に術式に興味を持ち始めまして、暇があれば研究に没頭するようになりました。とても勤勉な娘でしたので、私もよく協力しておりました。ただ、祓い屋に対して敵意を抱くようになったのもこの時期でした……。っ!!──」
──その時、急に行澄の表情が一変する。その視線の先には、布に包まれた崩玉があった。
行澄も、最悪のエピソードに気づいてしまったのだろう。肩が震えていた。
「まさか……まさか竜胆がこの崩玉を? いやまさかそんな……ありえない」
明らかに動揺している行澄へ、私はさらに過酷な事実を告げた。
「行澄さん、我々が崩玉の件の調査で延暦寺を訪れたのは、ある程度の証拠を得ているからです。この崩玉にはまだ僅かにですが、霊相が残っています。その霊相から、我々が持つ技術を使用し位置を判別したところ、特定されたのが西塔エリアの鐘楼付近でした」
「なっ!!」
私の言葉に、なぜ私が竜胆について質問したのか、その真意に気づいたようだった。
鐘楼の前にある茶屋、そこで働く女性。それが、竜胆であることは明白である。
「では……、本当に竜胆がそんな悪行を行ったのですか……とても信じられません」
震える行澄の目から涙が流れるのが見えた。
孫のように可愛がっていた娘が、殺人未遂を行ったのだ。
平常心でいられるわけがない。私は諭すように口を開いた。
「まだ確定したわけではありません。御本人からお話を聞く必要があります。それと竜胆さんは、あくまで崩玉に術式を施したに過ぎないと思っています。その崩玉を使用し実行に移したのは顕一学舎の学員でしょうから。竜胆さん自身も学員である可能性は否定できませんが、実行犯は別と考えるべきでしょう」
私の言葉を聞いた行澄が顔を上げた。
「では竜胆は──」と目に少しの希望を宿す。
「彼女の供述次第では、罪は軽くなる可能性は高いです。ですが、仏具の盗難の事実を知っており、使用目的をわかった上で術式を施していた場合、ある程度の罪になることは避けられないでしょう」
「そうですね……わかりました。栄神殿、どうか竜胆をよろしくお願いします。そして竜胆を誑かした学員共をどうか捕まえてください。何卒お願い致します」
行澄が畳に手をつき、深く頭を下げた。
「承知しました。我々におまかせください」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




